【いま米国では】欺瞞に満ちたトランプの一般教書演説批判

演出効果ねらうトランプ、そこに隠された専制主義 (Zコミュニケーションズ・デイリー・コメンタリー)ジャック・ラスマス 翻訳・脇浜義明

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米大統領の一般教書演説といえば、過去1年間の実績報告と今年度の政策提案と相場が決まっていた。21世紀からそれが変化したようだ。トランプは短いセンテンスで米国は素晴らしい国だと言って、間を置いて、拍手を待つ。議員たちが起立し、トランプのセンテンスよりも長い時間かけて拍手する。これが15秒間隔で繰り返された。テレビのコメディかバラエティー番組でサクラの笑い声が入るのと同じ仕組みだ。テレビは喜劇的効果を伝えるが、これは国家の大悲劇を示唆し、恐ろしい光景だった。

テレビ演出効果をねらった招待客のやらせ

 何も知らない人が見たら、議員たちがみんなお尻に吹き出物ができたのではないかと思っただろう。起立、拍手、着席、起立、拍手、着席のパターン。あまりに続くと機械的になる。そこで新しい演出が入る。やらせ用に招待した人物をトランプが紹介するのだ。12回もそういう場面があり、テレビ観客用演出効果を高めた。

 ヘリコプターで出勤するのを報道され、ヘリコプター掃除婦に8万ポンドのボーナスを払ったと豪語した富豪、ハリケーン襲来で活躍した沿岸警備隊員、山火事消火で活躍した消防隊員、銃撃を受けたことで有名になっただけの議員、祖国のために闘った祖父の墓に米国旗が立っていないと訴えて愛国心の鏡となった11歳の少年などが、まるでトランプの功績であるかのようにもったいぶって紹介され、拍手を誘った。
 特に嫌らしいのは、不法入国で資金稼ぎするMS―13ギャングに殺された女子高校生の親たちの紹介で、しかも犠牲者が黒人ときているから、移民はみんなギャングで、人種差別者だという筋書きの演出となる。これは、1時間半にわたる演説で唯一彼が提起した政策である「移民法改革四本柱」への導入役を果たした。

移民人種差別と薬物依存の放置

 2013年の「ドリーム・アクト」では、米国永住権獲得の資格が与えられた不法移民の子どもが米国民になるのは、12年かかる。トランプは「業績」に基づく移民を歓迎、例えばノルウェー人移民はOK。メキシコ国境の壁建設、ドリーマーの強制送還を猶予する制度「DACA」の撤廃、連鎖移民(家族や血縁者の移民)の制限などを打ち出した。要するに、白人核家族はOK、ラテン系の大家族はNOというメッセージである。
 薬物依存問題に対するトランプ政策は、何の対策の提案もなく、ただ「薬物売人を厳しく取り締まろう」と言っただけだ。現在、米国では依存性が強いオピオイド(鎮痛剤)危機が蔓延、年間6万人が過剰摂取で死亡している。一番責任が重い薬物売人は、フェンタニルやパーコセットなどの薬を「中毒性がない」と嘘を言って病院に売りつけている製薬会社である。

 薬に関するもう一つの大問題は、薬価の吊り上げ。薬が買えないために死亡する人が非常に多いのに、それに関しては「そのうち値段が下がる…まあ、見ていてくれ」という一言。

失業率低下、賃金上昇、減税はみんな嘘だ

 失業率が史上最低だという嘘、公的統計を見ても、失業者数は1300万人以上で労働人口の10%、しかもその数字には、2008年の大不況以降労働市場から姿を消した500~1000万人は含まれていない。

 一部の業種における改善を一般化しただけで、基本的には大不況時代を引きずっていると言ってよいだろう。賃金上昇についての発言も同じ。重役、管理職、自営業の所得が増えたのだろうが、労働者の時間給は昨年1年間で4セント増えただけだ(労働省統計)。

 減税政策の自慢と嘘は特にひどい。1世帯平均4千ドル所得増になるというマヌーチン財務長官の言葉を引用したが、そんなことを信じるエコノミストは1人もいない。トランプは中産階級の基礎控除を倍増したと自慢、その結果年間所得2万4千ドル以下の定額所得労働者にとって8千億ドルの減税となると自慢した。

 しかし、長期的には中産階級には2兆1千億ドルの追加増税となり、それに対応して富裕層世帯には2兆ドルの追加減税になる仕組みについては、一切言わなかった。法人税は35%から21%へ減税し、個人営業所得税の控除額を20%大きくした。そのうえオバマケア義務から解放されるので、企業は追加的に3千億ドル浮かせることができる。

暴君トランプ「俺に従え」
 

行間から読み取れるのは、「俺に従え」という専制主義である。国旗に敬意を払わなかったフットボール選手の首を切れと怒鳴ったのと同じ暴君姿勢が、「国民の期待に応えない」「国民の信託に応えない」公務員は解雇するといった言葉の中にも現れている。「国民」ではなく、「俺」とはっきり言えば、意味が明瞭になる、そういう一般教書演説であった。

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