【イスラエルに暮らして】汚職問題に揺れるナタニヤフ政権沈静化を狙うも失敗

エルサレムの首都問題/トランプの「首都発言」の裏

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イスラエル在住 ガリコ美恵子

 12月6日、米大統領トランプによる発言「エルサレムをイスラエルの首都として認める」発表に対し、パレスチナ各地で抗議デモが始まった。ダマスカス門(エルサレム旧市街)では民衆が階段に座り、「トランプの政策に反対」「占領を止めて、言論・行動の自由を」などと声を挙げた。

 しかし、平和的なデモであるにもかかわらず、警察は武力行使している。見学に来ていた松葉杖の少年が警察に押し倒された。「エルサレムはパレスチナの首都だ」と発言した男性は警察に殴られたが、両手を後ろに回し、「自分は暴力で返さない」ことを表明した(パレスチナでの現状を象徴しているので、写真をみていただきたい)。

 毎昼夜、軍、警察はパレスチナ町村を攻撃している。投石で応戦する少年たちもいるようだ。私は東エルサレムのサラハディン通り付近で投石の準備をしている少年たちをみた。そこに警察の特別武装隊がゴム弾、音響弾などで攻撃してきた。音響弾の一つは、私の足元で炸裂した。

 ガザ、ベツレヘム、ナブルス、ラマーラ、へブロン、ジニン、東エルサレムなどで、6日から15日までに、イ軍は計260名の身柄を拘束し、パレスチナ側で負傷者約1500人、死者8名がでている。

 イスラエル首相ナタニヤフの汚職が、元首相官邸勤務の男性の暴露により公開されたのは、1年ほど前のことだ。裁判所は首相に対する取調べも起訴もしない。これに対し、イスラエル国民は、ぺタハ・ティクバに住む裁判長宅前で抗議デモを始めた。「裁判長よ、相手が首相であっても公正に法を行使せよ」「汚職首相は辞任しろ」などのプラカードを掲げる民衆が、毎週安息日明けの土曜夜、ぺタハ・ティクバに集まるようになった。最初は数十人のデモだった。それから徐々に参加者の数が増え、数カ月後には参加者数が数千人になった。

 11月、新法律案「勧告法」が国会で発案された。「勧告法」とは、「公務員に対する告訴には、警察が政府にお伺いせねばならぬ」というものである。これが法律化されると、ナタニヤフ首相に対する警察の捜査が妨げられることになる。悪党首相を懲らしめることが不可能になる法律を許さない、とリクード党以外の多くの政治家、人権団体、社会運動家などが合同デモを行った。12月2日(土曜夜)は、デモ集合場をぺタハ・ティクバからテル・アビブのロッチルド通りに変更した。このデモ集会は「国の恥デモ集会」と名づけられ、2万人が集まった。リション・レツィオン、モディイン、エルサレム、ナタニヤ、ハイファでも同時刻、連帯デモが行われ、その様子が全国で中継された。

 イスラエル国内では、これ以外にも政権を脅かす数多くのデモ抗議や運動がある(後述)。

イスラエルの実質的な首都はテル・アビブだ!!

 「国の恥デモ集会」に参加したのは左派だけでなく、右派の者も大勢いる。そこに6日のトランプによる「エルサレム首都」発言があった。

 ハマスは早速、抗議メッセージをイスラエル当局に送り、ロケット弾を撃ち出した。イスラエル空軍は待ってました、とばかりにガザを空爆している。政府は国民に「テロ注意勧告」を発信した。エルサレムのユダヤ街は人通りが極端に減り、「アラブ人による攻撃」の可能性に怯えさせ、国民の注意を逸らすことに成功したかに見えた。しかし同週土曜9日夜、テル・アビブには前週を超える参加者2万5千人が集まった。もはや首相の汚職に対する怒りは収まらない。

 それにもまして知っておくべきことは、トランプの「エルサレムを首都にする」「米大使館をエルサレムに移す」という発言は現実的ではない、ということだ。

(1)イスラエルの事実上の首都はテル・アビブだ。イスラエルの文化・経済の中心はテル・アビブにある。人口もテル・アビブが圧倒的に多い(注釈…統計局の資料〔添付参照〕によると、エルサレム88万人、テルアビブ・ヤッフォ43万人となっている。しかし、PASSIA〔パレスチナ国際問題研究協会〕の資料によると、東エルサレムのパレスチナ人は約31万人、イスラエル人入植者は約20万人なので、西エルサレムの人口=ユダヤ人口は37万人程度)。

(2)将来エルサレムに大使館を建てることになったら、と昔米国が買い取った空地が、西エルサレムと東エルサレムの境界線付近にある。ここは今も荒地のまま放置されている。大使館を建てることになったとしても、設計、建築許可、工事などにかなりの時間と金がかかる。

 エルサレムの首都認定は、首相の地位を追われかけているナタニヤフ首相が、国民の関心を逸らせるよう、トランプに爆弾発言させたのか。あるいはパレスチナ人に対して使う武器の威力をマスコミによって全世界に「宣伝」し、武器産業をてこ入れすることが狙いなのかもしれない。

イスラエル国内で続く反政府デモ 徴兵拒否、障がい者福祉、BDS

(1)ユダヤ教超正統派による徴兵反対デモ:「兵役に就くくらいなら刑務所で死ぬほうが良い」というプラカードを掲げる、ユダヤ教超政党派数千人によるデモが、エルサレム中心地で繰り返されている。警察は毎回、汚水を群集に向けて強力な水力で噴射するスカンクカーを使用し、参加者に容赦ない暴力を振るっているため、一般国民は、宗教派にそこまでやらなくてもいい、と警察を批判。

(2)障がい者の社会福祉を求めるデモ:国道1号線エルサレムの入り口を車椅子の障がい者がブロックするデモを定期的に行っている。警察が障がい者に暴力をふるっているので、抗議の声が高まっている。

(3)国内からBDS運動:平和活動家ロニー・バルカンが発足させた「BDS Within」という団体が、数年前から活発に活動し、海外でも反響をよんでいる。

(4)兵役拒否者団体「イエシ・グブール」や「サルバニット・サルバニム(拒否するという意味のヘブライ語女性複数形と男女複数形)」が、政治的理由により兵役拒否する十代の若者たちを支えており、兵役拒否者は年々増えるばかりだ。

(5)今春、イスラエル人の人権専門弁護士イタイ・マックの講演会が開かれ、ジャーナリストのヨタン・フェルドマン製作のドキュメント映画「マアバダ」が上映されたことにより、イスラエルが戦争産業を軸に発展してきたことが国内発表された。マック弁護士はミャンマー、南スーダンなど現在も虐殺が行われている国への武器輸出を禁止するように、最高裁に申し出ている。

(6)元兵士による反占領団体「沈黙を破る」は、ますます世界的に有名になってきた。

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