浅野健一(ジャーナリスト/同志社大学大学院社会学研究科博士課程教授)
私は長く人民新聞に「メディア時評」を掲載してきた。
今回の山田編集長の微罪事案での逮捕・起訴は言論弾圧である。すべての言論人、市民、労働者、学生にとっても他人事ではない。総選挙圧勝の1カ月後に強行された人民新聞への弾圧は、権力基盤を強化した安倍官邸がモリカケ疑獄の解明、原発再稼働を批判する報道機関を狙い撃ちにしたのだ。
権力を監視するのが仕事であるジャーナリズムはまずは抗議、救援すべきである。報道機関の政治主張がどうかは関係がない。ところが日本の「キシャクラブメディア」は逮捕された側の言い分を全く聞かず、公安警察の発表だけを垂れ流した。それどころか「日本赤軍」や「テルアビブ事件」「岡本公三」などを持ち出し、山田編集長と人民新聞に関連付けようとした。
権力を監視する新聞社を「左翼紙」と呼んで、推定無罪の法理もかなぐり捨てて公安警察発表を裏取り取材もせず、事実であるかのように報道する新聞社は解散すべきだろう。
フリージャーナリストの「企画」の有無をチェック
警察がフリージャーナリストの「企画」の有無をチェックする行為は憲法違反だ。
私は8日、兵庫県警民広報課の担当者に、山田さん逮捕時の記者クラブ向けの「報道資料」の提供を求めたところ、「どこのメディアに書くのか」と聞くので月刊誌『創』などを考えている、と答えた。担当者は「フリーの人は媒体の編集長に在籍確認する」「身元がわからないので調べる必要がある」と言ってきた。
私は「そういう調べをすることなど聞いたことがないし不当だ」「クラブの記者とフリーを区別するのは憲法違反だ」と抗議した。
しかしこの警察官は実際に、身元調査、出版社への聴取を行った。公安当局の指示だろう。露骨な嫌がらせだ。
創出版の編集長から「兵庫県警から何度も電話があり、浅野さんの記事を載せる企画があるのか、と聞かれている」と連絡があった。警察が報道機関の編集責任者に、フリージャーナリストの「企画」の有無のことを確認するのは、あってはならないことだ。
8日、生田署で副署長に取材、人民新聞社にも行き、社員やボランティアに会った。編集長が投獄された後、二度目の新聞発行のゲラ刷りがあり、立派に新聞編集を続けていた。