アスル・サアド教授(レバノン大学)インタビュー要約
11月11日「リアル・ニュース」
翻訳・脇浜義明
11月4日、レバノンのハリリ首相が、サウジアラビア訪問中に「暗殺の危険がある」と辞任を表明、サウジが「ハリリをヒズボラから保護している」と発表し、自国民にレバノンから至急脱出するように呼びかけ、レバノンへの渡航を禁止した。
ハリリはレバノンとサウジの二重国籍を持つ人物で、ヒズボラはサウジが彼に辞任表明をさせて軟禁状態に置いている、と非難。暗殺説の出処は『アラビア』紙だが、レバノン諜報機関とレバノン国軍情報部ががそれを否定すると、同紙は「西側からの情報を載せただけ」と言い訳記事を書いた。
こういうことは2013年にもあり、サウジは弱小モザイク国家レバノンに圧力をかけ、宿敵シーア派ヒズボラを追い出す戦争か、内戦を起こさせようとした。今回も、多分イスラエルが先陣を切ってレバノン侵攻して欲しいのだろう。
ヒズボラはレバノン内のレジスタンス・ゲリラであったが、今やかなり強力なプレゼンスを維持している。イランとシリアと同盟関係にあるが、現在シリアもイランも、もしヒズボラがイスラエルと戦争状態になっても、国家として介入できる状態ではない。せいぜいシリア、イラン、イラク、アフガニスタンから義勇兵が個人的に参加する程度だろう。
しかしその戦争は、イスラエル・レバノン戦争となり、ヒズボラにレバノンを代表する資格を与える結果になるので、イスラエルが戦争に踏み切るかどうかは、不透明だ。
レバノン内のヒズボラ勢力を強化する結果に
サウジは首相を辞任させて不安定化させ、レバノン内のスンニ派(および右派キリスト教徒)の立ち上がりを狙っている。
だが、結果としてハリリをスンニ派指導者の位置から引きずりおろしてしまった。もともと、ハリリに対するスンニ派の支持率は50%程度であった。代わってヒズボラを有利な位置につけてしまったのだ。
今やヒズボラは《周辺勢力》ではなく、レバノン国の立場で発言している。国難を乗り切り、サウジから「スンニ派指導者を奪い返そう」とスンニ派の代弁すらしている。実際ヒズボラは、レバノン国軍と協力して、レバノンをシリアのようにならないように治安維持を行っており、皮肉なことにベイルートは、パリやロンドンよりテロが少ない都市になっている。
サウジがエスカレートすれば、レバノンにおけるヒズボラの立場が強くなる。サウジが全面戦争を仕掛けることはないだろうが、経済戦争を仕掛け、テロリストを送り込んで不安定化させようとするだろう。
ひょっとすれば国交断絶をするかもしれない。そうなると、レバノン内の抵抗勢力をやっつけるはずの戦略が、レバノン自体を抵抗勢力の陣営に入れることになってしまう。
米国とイスラエルがそれを心配している─という皮肉な事態になりつつある。