選挙戦の振り返りと、与党勝利の要因、与党が今後進める改憲国民投票への対応を議論していただいた。後編では、それら全ての根底にある「政治の貧困」をどう超えて、私たちの新しい運動を作っていけるか、を語ってもらった。(編集部)
【参加者】山下けいき(茨木市議会議員)、髙木隆太(高槻市議会議員)、北上哲仁(川西市議会議員)、津田道夫(人民新聞編集部)
政治の貧困をどう超えるか
津田:自民党を勝たせている政治的無関心の根っこには、現代世界に拡がる「政治の貧困」があります。それは、日常生活のなかで「政治」がどのように機能しており、その大切さがどう認識されているのかが、大変分かりづらくなっている結果だと思っています。今の「政治」は、結局「行政に働きかける力」としか見られていません。「行政を動かすこと」の積み重ねを全て否定はしませんが、そのレベルで「政治」を語るかぎり、権力を持っている勢力が圧倒的に優位です。
地域生活と職場の労働環境の中で人間関係を重ねるなかで、政治に関する見方や考え方を共有することの積み重ねのなかでしか、「左」を増やすことはできないでしょう。それは、とりあえずはローカルにしか展開できないので、その拡がりが全国レベルでどれくらい立ち上がって来るのかが大切です。その可能性はあると信じています。根拠は、政治家の目を覆いたくなるほどの劣化です。民衆の方が、政治の胡散臭さ、利害得失だけで行動する政治家の姿を見抜いているのです。これこそが、浮動層・政治的無関心層を逆に掴む可能性が大きくなる根拠ではないでしょうか。
髙木:政治がよくわからないからとりあえず自民党という若い人は、多いと思います。訳のわからない野党よりも与党に投票しておく方が安心という人もいます。
山下:憲法は、主に9条(平和)と25条(生存権)がテーマとされ、市民・左翼は、「9条護憲=平和勢力」として活動してきました。これに対し、25条を重点化したのは、共産党です。老人福祉・保育・国保など、具体的な生活問題に取り組んで有権者を組織してきました。
議員の関心は、職業柄どうしても行政への働きかけや制度問題に行きがちですが、生活上の問題を社会運動化して共に考え、行政と交渉して成果を勝ち取るという経験が、少なくなっています。特に現代の若者たちにとっては、そうした経験を積める場が全くないために、「変えられる」という実感をもてないのだと思います。経験の場として「住民運動を組織する」、あるいはネット空間を利用して、経験を豊富化させることもできるかもしれません。
津田:情報の発信・共有によって、政治を毛嫌いしたり無関心である人の考え方に影響を及ぼすことは可能でしょう。しかし、それだけで「左」を増やすことは決してできません。覚醒した個人が実践を積み重ね、他者に働きかけ、つながっていくという地域活動総体が大きくなることが肝心です。
私たちはこれまで、北摂地域のなかで、事業活動も含めたあらゆる場で、自分たちの考えを発信し一緒に考えていける人間関係を広げて来ました。しかし、所詮《北摂》という一地域でしかないので、左の全体を増やすことにすぐ結果しません。こうした活動が全国で展開され、横につながった時に初めて展望が開けるのでしょう。
ノーの先にあるイエスを示す
北上:労働運動や住民運動が衰退しているなか、「自分の生活問題を社会的に解決する」という経験ができる場がなくなっているために、自分個人がうまく立ち回ってなんとか生き延びる、という発想になっているのが現実だと思います。
「保育園落ちた日本死ね」というメッセージが一気に広がりましたが、子育てを社会的に支援しない政府、保育を金儲けの手段としてしか見ない政治を変えていく契機とすることが重要です。「自分の子どもが保育所に入れない」という問題を、保育所の統廃合や劣悪な保育施設の乱造という新自由主義政策の問題として捉え、運動を創りあげることが必要だと思います。
さらに、問題の指摘・批判だけでなく、解決策を提示・実践し、対抗する実態を創り出すことも重要です。脱原発なら自然エネルギーの設置を呼びかけたり、労働組合が仕事づくりに取り組んだりという実践です。安倍政権に抗い続けることと同時に、未来を語り実態を創り出すことも重要です。NOの先にあるYESを示すことです。
山下:「反対ばかりで提案がない」というのは、権力側からのキャンペーンです。これに迎合する必要はあるのでしょうか? 「反対だからNO!」でいいじゃないですか。
高木:私もビラなどをまいているとよく「議会で反対ばかりしている」と批判されますが、実際は反対ばかりしているわけじゃあありません。逆に、当局の提案に何でもかんでも賛成する議員の方が危ないですよ、と反論しています。
私は、市議会での質問の時には、根拠として憲法を語るように心がけています。今回の選挙結果で改憲国民投票は現実的になってきました。だからこそ、「憲法って何?」ということを生活と結びつけて一緒に考えていく場を、小さくても作っていこうと思います。
課題は5割の無関心層とどうかかわるか?
津田:高橋源一郎さんがどこかの新聞で、いろんな政治家の選挙演説を聞いた上で、「政治」について次のように語っています。――人間の生命や尊厳を守り、異質な他人どうしがどう共生するのか?という本質的な「政治」と、メディアや議会の中で語られる「政治」には、大きな隔たりがある。メディア上に映る政治には魅力が無く、関わりたくないと思えてしまう。それが「5割」の無関心層の実態だ、と。でも現実には私たちの生活と政治は大きく関係しているわけで、私たちは別の政治へのかかわり方を作らなければならないと思います。
山下:普通の人は、政治を「議員、選挙、国会議論」と見ていると思います。しかも選挙時は当落予想の報道ばかりになり、その傾向が強まります。自分たちの暮らしそのものが政治と関わっているという認識を、こちらが作ることが必要です。
編集部:政治と生活の結びつきをいかに作れたかという観点から、「野党共闘」を振り返ってください。野党共闘は、3・11や戦争法案反対の運動で多くの市民が立ち上がったことを基盤にして始まっていると思うからです。
山下:それで言うと、野党は脆弱です。服部選対に集まった「ロックアクション」などは、3・11を機に初めて日本の矛盾に気づいて動き始めた方も中軸を担っています。ただ、総合的に言うと、それも「運動業界」に留まるんですね。普通の人から見たら「好き物が集まっている」というレベルではないか、と。そこは保守の方が議員も人数も多いし、地域の集まりには必ず顔を出します。普通の人々との接触が広範囲なのです。今回の野党共闘も、まだまだ「業界人」しか集まっていないと言えます。
編集部:保守の政治は、地域に顔を出す「御用聞き」以外に、何か中身があるんでしょうか?
山下:特に無いのですが、「御用聞き」の積み重ねの結果、地域の中で暮らす人々に一般的に「もう政治は自民党でいいじゃないか」という意識が浸透していると思います。
津田:農村地域では土地改良区や生産組合などの組織がまだ動いていて、それらの組織運営は自民党議員とつながっています。農村部に近い都市部でも、商工会など経済活動に関わる所を押さえています。また、学校区の教育に関わる所でも関係を持っています。自民や公明は、それを積み重ねて支持基盤を作ってきたのです。でも近年、保守の中でもそんな活動とは無縁の所から議員が出てきています。その意味で、保守側も危機にあります。
山下:人と社会をつなぐ中間団体がなくなっていて、個人と国家が直につながるしかなくなっていますね。
北上:自民党は自治会長などを支持基盤にしながら、選挙なども行っています。こちらはその部分が弱いです。自民党はPTA会長なども厭わずにやりますし。
津田:戦後の日本の左翼運動は、国家権力を奪取して社会を変えるという構想を強く持って、その実践をまじめに追求してきました。しかし、そのプログラムで国づくりを実践したソ連の解体や中国の変質の中で、社会変革を進める過程がすこぶる大切なんだと考えを変えつつある。
でも、保守がやってきた普通の人たちの生活に関わることは、まだまだ弱い。長期展望を持って自分たちの目標を立てるなかで、それをやらなければいけない。20年、30年単位となるでしょう。
地に足の着いた「ママの会」 若者たちとどうつながるか
編:政治に関わりのない若者層はもっと多いと思います。中間団体の弱さは、若者が経験を積む場がないことだと思います。長期的展望の中で、若者を「左」へどう組織していきますか?
津田:今の若い人は、私たち全共闘世代の少し後の世代よりは、ずっと可能性が大きいと思います。私がいる能勢の農村部でも、若者たちの新規就農者は多いし、何のためらいもなく帰省して、パン屋や惣菜屋を始めています。都会にいても展望がないという意識が広がっている。特に3・11原発事故以降の東日本の社会では。彼らが地域に入ってきた時に、仕事や地域をどう一緒に作っていけるかが、すぐに政治に影響しなくても、重要なことです。
編:ただ、まだまだ都市部には大勢の若者が残っています。例えば彼らは今回の野党共闘運動には参加したでしょうか。
北上:若者も多少いますが、「ママの会」の活動が最も活発ですね。政党に関係なく、誰が自分たちの応援する候補者にふさわしいかを自分で考え、フットワーク軽くやっています。男性より女性が多いですね。
髙木:高槻でも産業廃棄物施設の建設反対運動を一生懸命やっていたのは女性たちで、あまりいろんなことに縛られずに、すぐいろんなところに飛び込んでいます。突破力があります。
北上:ママの会の「だれの子どもも殺させない」というコピー、その気持ちが大きいと思います。利害やしがらみを越えて、暮らしに根ざした素直な気持ちが原動力になっているところが強みですね。
編:若者団体のシールズは解散しましたが、ママの会は各地で続いている。受け皿があるのが違いかと感じます。
山下:一番地に足がついていますよね。
髙木:子育てを地域でしていますからね。
あと、若者については、高槻市の隣の島本町は単位が小さくて人のつながりが濃いから、4月の町長選挙でも戦争法案に反対していた比較的若い世代が集まりました。逆に高槻市は35万人もいるから、人のつながりが見えにくい。都市部は本当に人と人とがつながりにくいです。
編:都市部の若者は、例えば大阪の中崎町など、アート系の若者などが集まり、たまり場のスペースを作ることで、関係を作っていると思います。
髙木:ただ、彼らが住んでいる場所はバラバラです。
山下:僕らも60代、70代ですから、新しい世代が出なければ、おしまいなのです。どうしたら良いかはなかなかわからないですが、服部選挙にも若者は来ていて、私たちはインターネットでボランティア募集を積極的に発信していたので、それを見て来ていました。
編:少ない成功例を参考にしながら、地域社会・都市部・メディア上の全てで人々の生活と政治のつながりを再構築することが課題ですね。そのアイデアはたくさん出されたと思います。今日はどうもありがとうございました。