沖縄県豊見城市 田場典篤
10月12日夕刻、沖縄本島北部の東村高江の民間牧草地に米軍大型輸送ヘリCH53Eが墜落炎上した。マスコミ各社の報道では、機体から火が噴き上げ、黒煙が立ち上がる様子や機体が焼け焦げている姿を映し出す。頻発する重大事故、乗組員や付近の住民に被害は無かったが、一歩間違えば大惨事になったことは想像に易い。
墜落の危険性に重ねて憤慨することは、今回も消防、警察、県、さらに防衛局でさえ事故現場から米軍によって立ち入りを規制され、機体の一部に使われていると疑われる放射性物質の存在や事故被害の追究等の調査ができないことだ。米軍基地でもないところでも、平然と日本の権限を認めない。まったくもって植民地日本の縮図を沖縄でみる。これも不平等極まりない米軍に特権を認める日米地位協定によるもので、協定の改定以外では沖縄の過重負担の軽減は実現しない。
この間沖縄では、輸送機MV22オスプレイが昨年12月名護市沖に墜落、大破し、今年9月29日には石垣空港に緊急着陸、6日間も居座った。圧倒的な規模で米軍基地の負担を強いられ、米軍基地があるが故の危険な毎日は続いている。
東村高江には、集落を取り囲むように6つのヘリパッドが完成し、米軍に提供され運用されている。ヘリパッドは2007年7月に着工し、2009年には完成する予定であったが、事故の危険性や被害の拡大を訴え、住民や支援者が一体となって抗議活動を展開し、工事が進まない状況が続いてきた。
しかし、昨年7月には警察の機動隊を大量動員し、12月に完成させ、記念式典を開催した。
名護市辺野古の新基地建設も、高江同様に県民の意志を無視した工事が進む。2年前、翁長知事が辺野古沿岸の埋め立て承認を取り消したが、国はその承認取り消しは違法だと訴え、昨年12月の最高裁で県敗訴が確定した。それを受けて国は、今年4月から新基地建設を開始、連日のように新基地建設の抗議活動を強硬に排除し、キャンプ・シュワブ北側にあるK9護岸の埋め立てが約100m沖合まで伸びた状況である。
沖縄は、これまで新基地建設の是非を問う名護市長選、県知事選、国政選挙を勝ち取り、民意として新基地建設反対を示してきた。それでも米軍による傍若無人な、県民を蹂躙するような事件、事故が繰り返されている。国もまた、県に無許可で岩礁を破砕した工事を進めようとしている。民意を平気で踏みつぶす、民主主義も省みない米軍やこの国には、今も昔も沖縄の悲痛な叫びは響かない。
折しも国内では衆議院解散、総選挙となった。各方面から指摘の通り、北朝鮮の危険性を煽り、森友学園や加計学園の疑惑追究をかわすための安倍首相の大義なき、権力の私物化の解散、衆議院選である。ただ、ここ沖縄においては、東村高江や名護市辺野古の現状を踏まえ、沖縄の最大の関心事は辺野古新基地の反対であることを、県民の総意でもって改めて国へ示す機会として活用したい。
言うまでもないが、沖縄が抱える問題は基地問題に限らない。特に深刻なのは、子どもの貧困である。全国の子どもの貧困率13.9%に対し、沖縄は29.9%。子どもの3人に1人が、家庭の経済状況で進学断念などの影響を受ける。県内では子どもの貧困対策として、ボランティアで構成された子ども食堂の開設、県内企業による寄付が草の根の活動として広がっているが、他にも非正規雇用率は44.5%で全国一、県内の給与水準は全国の8割、全国最低額の最低賃金。どれも県民の暮らしに直結する経済問題であり、その対策も大きな政治的課題である。
しかし、である。沖縄は先の大戦では日本で唯一民間人を巻き込んだ地上戦を経験し、多くの県民が命を落とした悲劇の歴史を持つ。本土上陸の時間稼ぎに捨て石とされ、小さな島々で米軍からは攻撃され、日本軍からは自決を迫られ、想像を超える多くの恐怖と悲しみを記憶している。故に戦争につながるような新基地建設や憲法改正の流れにはまずもって敏感であり、許すことができない。
また、現政権が今回の選挙でも躍進する可能性が高い。憲法改正を可能とする3分の2以上の議席獲得を目指し、その結果を国民の意思として自分たちの思い通りに事を進めていくだろう。沖縄も県民の暮らしを考えると沖縄振興、経済問題を最優先事項としたいのだが、そのことで基地推進派が勝利しようものなら、獲得議席数と同じような論理でもって新基地建設が進められるであろう。そのこと自体とその先の怖さを身をもって経験しているからこそ、現状の政治的な課題の最大争点は、やはり基地問題に帰結するのだ。歪んだ民主主義を、不甲斐ない中央の情勢を、沖縄から睨みつづけることが、現状打開の展望になると信じている。
経済問題と辺野古新基地問題
県選出の前職の衆議院議員は、保革合わせて9人。ただし、小選挙区の4人はすべて新基地建設に反対するオール沖縄の議員である。今回もすべての選挙区で勝利することで民意を明確に示す機会としたいが、すんなりと前回同様になるような雰囲気ではないことも感じている。
ひとつは前述の経済問題。中国や香港からのクルーズ船寄港によるインバウンドの増加や、観光客の伸びを背景にした活況な経済状況ではあるが、その影響は県民経済の全体にまではまだ行き渡ってはいない事情がある。
そして、もうひとつが辺野古に対する県知事やオール沖縄の中心的存在の対応である。新基地建設を止める最終手段とされる埋め立て承認の「撤回」を、保留にしていることである。「撤回」は実行すると確信しているが、その根拠や展望を見出せないためか、今もって「撤回」に踏み込めていないことが「オール沖縄」を支持する県民の苛立ち、不信感を生じさせ、全体的な勢いの低下につながっている。
ただ、基地を抱える2区・3区は、その課題の身近さから照屋寛徳氏(社民党)、玉城デニー氏(無所属)が自民候補に比べ優位であり、また圧倒的な人気と実力を根拠に圧勝するはずだ。不安なのが、経済界の影響も強い県都那覇を中心にした選挙区、1区の赤嶺政賢氏(共産党)の選挙である。経済面に強さを訴える自民や維新に流されてはいないか。経済発展か、アイデンティティか。非常に気になっている。離島を含めた基地の少ない本島南部の4区仲里利信氏(無所属)も、本島での強さを背景に負けることはないと信じている。
22日午後8時。開票と同時に2区、3区の勝利が確定。緊張と不安のなか、10時過ぎには赤嶺氏の当選も確実に。組織票の強さやオール沖縄の最大拠点でもある1区だけに、当然の結果だったのかもしれない。ただ、深夜1時過ぎ、4区仲里氏の落選の残念な速報。オール沖縄が負け続けていた市長村町選挙の様相をそのまま反映した形で、特に自衛隊受け入れを表明する宮古島や石垣市などの得票差が影響したようだ。米軍基地の多くを抱える沖縄本島と経済振興を急務とする離島との違いが、結果に表れている。本島と離島の分断の懸念が浮き彫りになったことは、憂慮すべきである。
いずれにせよ全体の結果から言えば、国に対して沖縄の民意は新基地反対で示されたはずである。国は誠意をもってこの事実を受け止め、しかるべき対応をすることが、政府としての責任である。同時に、この結果をもって県は「撤回」に打って出て、沖縄の自己決定権の確立に向けて県民一体の戦いを挑み、たとえ何度負けようとも、負け終わらない抵抗を続けることで展望を見出したい。