ぷりずむー1926号

無名の個々人の、仲間のために少し自分ができることをしようという思いの集まり

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 選挙が始まった日、私は、自民・公明が支持者を前に天王寺駅前で選挙演説をしているのを尻目に、少し離れたところで、未払い賃金を払わない会社に抗議活動を行っていた。マイクで道行く人に状況を説明し、ビラをまき、会社に誠実に対応しろと訴えた。マイクの言葉を聞いたのか、少し離れてからまたもどってビラを受けとる若い女性もいた▼ユニオンのメーリングリストで抗議活動すると直前に流れたが、二・三人しか集まらないかもと思った組合員たちが、忙しいなか7人も駆け付けた。ささやかな抵抗だ。この抗議ですぐに解決するかどうか、先は見えない▼抗議対象の店が入っている同じビルの別の店の店長が、「迷惑だからやめろ、裁判したらいいじゃないか、こんなことしても意味ない」と文句をつけてきた。誰かが通報して警官も公安警察もきた。過日の団交では「こんな話し合いをしてる時間があるなら、バイトすればいいやないか。俺は一時間で何十万円稼げる」と責任者は言い放った。そんな人物が相手だから、繰り返すがこの抗議活動でどんな成果があるかは未定だ▼抗議活動に参加した7人にはなんの金銭的保障もない。皆、自分一人では大きな権力はもっていない。自分の職場では、偉そうに言われたり低賃金でしんどい仕事をやらされたりしている。小さなユニオンの抗議活動に参加したことは、人から称賛されたり、歴史の記録に残ったりもしないだろう。無名の個々人の、仲間のために少し自分ができることをしようという思いの集まり。これもまたカズオ・イシグロが描く「ささやかな英雄性」の一例ではないか。選挙の喧騒の中で、そんなことを思った。(H)

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