ポール・ブックハイト(『使い捨て可能な米国人』著者)
6月16日「Zコミュニケーション・デイリー・コメンタリー」
翻訳・脇浜 義明
増大する格差もはや「能力主義」の幻想はない
去年は8人、それが6人になり、今や5人。米国人がトランプに振り回されている間に、富豪は人々の富を盗み続け、格差はますます拡大。2016年の統計分析では、国民下位50%の所得総計は4100億ドルであった。2017年6月18日現在で、トップ5人の総所得は4000億ドル。平均すると、富豪一人が一般人7億5千万人分の富を持っているわけである。
野放しの格差増大を容認する人々は、「金持ちはそれに相応しい努力をしたから金持ちになったのであり、米国は能力主義の国である」と言う。彼らが好んで引用するのは、ウォーレン・バフェット(世界最大の投資持ち株会社バークシャー・ハサウェイの会長)の「米国経済の資質、能力主義と自由市場システム、法の支配のおかげで、わが国の国民は何世代にもわたって、親の世代よりも豊かになってきた」という言葉だ。
しかし、もはや能力主義はない。子どもが親より豊かになることもない。不況以後8年間でウィルシャー500(ウィルシャー・アソシエイツ社が算出して発表する株価指数)は、8兆ドル強から25兆ドルに膨れ上がったが、その大部分は何人かの富豪の懐に入った。2016年だけをみても、トップ1%が事実上99%の国民からほぼ4兆ドルの富を奪った─そのうちの約半分(1兆9400億ドル)は下位90%─中・下階級─からの所得移転である。中・下階級の一世帯について1万7000ドル以上が、住宅ローンや貯蓄という形で、富豪の手に渡った。
能力主義? ビル・ゲイツ、マーク・ザッカーバーグ、ジェフ・ベゾスが何をしたというのか? 彼らのしたことは、彼らがいようといまいと、どちらにしても起きたことなのだ。米国の現代テクノロジーは、すべて我々が支払う税金、わが国の研究所や大学、税金から企業に渡される補助金から生まれ、それは今も続いている。
社会的業績を私物化した富豪たち慈善事業で免責はされない
1975年、ビル・ゲイツは20才で高校時代の友人ポール・アレンと共にマイクロソフトを設立した。当時産業界では、ゲイリー・ギルドールが開発したオペレーション・システム(OS)であるCP/Mが使われていた。
IBM社が新しいIBM-PCのためのOS開発を注文したとき、ギルドールがぐずぐずしていたので、IBMはゲイツに注文した。マイクロソフトには注文に応える能力がなかったが、2人はチャンスを逃すまいと、急いで別会社のOSの権利を購入した。このOSは、ギルドールのCP/Mシステムを原型にしたものであった。ギルドールは裁判に訴えようとしたが、当時はソフトウェアに関する知的財産法がまだなく、ギルドールはどうすることもできなかった。
かくしてビル・ゲイツは、世界一の金持ちとなった。彼は能力主義神話に包まれた。教育や食料生産分野などでも解決法を提供する発明家と見られるようになった。
教育に関しては、生徒の生物学的反応を測定するGSR(電気性皮膚反射測定器)とか、教員の授業ぶりを監視するビデオ装置を開発・販売している。彼の学校教育観は、「行政の長である市長が学校教育制度の長である都市では、生徒の成績が良くなる。教育委員会など無用で、幹部は一人で十分」というもの。
彼はモンサント社(バイオ化学メーカー)、カーギル社(穀物メジャー)、メルク社(医療器メーカー)に投資・取引したりして、アフリカの貧しい国々を企業支配している。それを「2035年までには世界に貧しい国などなくなるであろう」と、搾取を貢献にすり替えて、豪語している。
ウォーレン・バフェットは、金持ちへの増税、妥当な相続税を唱えたことで有名であるが、現実には彼の会社は「仮想利益総額」という訳の分からないものに基づいて納税、実税770億ドルを納入していない。
ジェフ・ベゾスが2015年末以降に蓄積した富は、米国政府の住宅予算500億ドルを上回る。この住宅予算は500万人の国民用に計上されたもの。ベゾスは、一般国民が払う税金を使って多くの人が開発したインターネットやインフラで大儲けし、タックスヘイブンやロビイストを使って政治家に働きかけ、納税を回避している。
マーク・ザッカーバーグは世界で第6位、米国で第4位の富豪。ハーバード大学でザッカーバーグ版ソーシャル・ネットワークを開発したが、その頃コロンビア大学生アダム・ゴールドバーグとウェイン・チンが「キャンパス・ネットワーク」と呼ばれるシステムを開発していた。そちらがザッカーバークのものよりはるかに質が高かったが、「ハーバード大学」の肩書はコロンビア大学よりも高く、資金はザッカーバーグの方へ流れた。彼は何十億ドルも稼ぎ、その一部で慈善財団を立ち上げたが、それは納税回避手段にすぎなかった。政治献金をしたが、納税はしなかった。持ち株を売って稼いだが、税金を収めなかった。
米富豪は、国民が収めた税金でさまざまな人々や集団が行った研究、イノベーション、インフラ建設を通じて築かれたテクノロジーの基盤を利用して、巨万の富を蓄積した。テクノロジー基盤は少数の個人からではなく、社会的に派生した業績である。富豪たちはその権利を横領し、私物化したのだ。だから、巨万の富の一部を個人の判断で慈善事業に使うことで、免責されるわけではない。毎年懐に入る所得は、民衆教育、住宅、ヘルスケア、研究、社会的に有用なインフラ建設に使われるべきだ。