弘川よしえさん(ミナセン尼崎代表)インタビュー
兵庫8区=尼崎選挙区は、緑の党・社民・新社・共産党の野党共闘が維持され、「ミナセン尼崎」を橋渡し役とした協議のなかで、今回の衆院選は、共産党の堀内照文さんに一本化することができた。これで同選挙区は、中野洋昌(公明・自民推薦)vs堀内照文(共産・野党共闘)の一騎撃ちという構図が決まった。労働者の街として「革新市政」の伝統があり、現職女性市長もいわゆる「市民派」。市議会第1党は公明党だが与党ではなく、緑・市民連合、共産が少数与党として市政を運営するのが尼崎市だ。
小池新党登場、民進党解体、野党再編と混乱が続く衆院選にあって、例外的事例ではある。しかし、市民と政党の関係、野党共闘の意義、地域から政治を変えるという実践や戦略を考える上では、好事例である。「ミナセン尼崎」代表の弘川よしえ弁護士に話を聞いた。
(編集部・山田)
中小企業など一般市民の感覚に添い、市民が率先して各党と話す
編:候補者一本化の経緯は?
弘川:9月30日、「市民が国の政治に求めること」という6項目の政策合意を確認し、候補者を決定しました。
ポイントは、(1)党ではなく、市民に忠実な政治を行うこと、(2)中小企業を守り育て、働く人の生活を安定させること、(3)一人ひとりの多様性を尊重し、弱い立場に置かれた人たちを真ん中に置いた政治、(4)脱原発、(5)対話を基調とした平和的な国際関係を築く外交政策、(6)政治の私物化を許さず、憲法の価値を守る、という内容です。
普通の市民に訴えかけ、将来を見渡せるような政策を目指したので、良心的保守も含めてどんな政治が求められているのか?を考えながら書いたつもりです。優先順位としても、2番目に中小企業とそこで働く人の安定を訴えています。
この政策協定を前面に出した広報ビラも、私たちのなかまが作りました。共産党色を出さないようなデザインを心掛けて、オモテ面は、候補者の写真・名前とともに「ミナセン尼崎」のロゴを大きく印刷し、ウラ面には、先に紹介した政策協定をわかりやすく表現しています。急進的にはならず、また「いかにもリベラル」というスローガンでもなく、あくまで一般市民の感覚に沿ったものになっていると思います。
編:野党共闘が維持できた理由は?
弘川:野党共闘といっても、共産党が他の野党と直接話ができるほどの信頼関係はなかったので、「ミナセン尼崎」が、共産党と話をし、一方で他の野党と話をして、30日に初めて同じテーブルにつき、野党連携の確認とミナセン尼崎の支援が決定しました。
この日、候補者に指名された堀内さんも挨拶しましたが、参加者からは、「本当に勝つつもりなら、私たちだけに届くような言葉では意味がない」というような忌憚のない意見がぶつけられました。共産党の枠組みの言葉を発している限り、自・公に勝つことはできない、という現実があるからです。
こうした共産党外の意見をどれほど汲み取ることができるのかは、共産党にとっても良い経験になると思います。
危機的状況こそ次へのステップ 自分たちの主張にエネルギーを
編:希望の党の評価は?
弘川:ミナセン尼崎としての評価はできません。私自身、小池百合子さんの主張や政治手法について、極めて批判的ですが、希望の党の候補者については、その人の主張や実績を見ていこうと思っています。良心的保守、良心的リベラルの候補者でありながらも、「民進党では勝てない」と思って希望の党に流れた人も、少なからずいると思うからです。特に今回の選挙は、勝たないと意味がありません。
「希望の党への批判は控えるべきだ」とも思っています。安倍政権批判こそ重要だからです。安倍政権への批判は、モリカケの問題を通してだいぶん強まっていると思います。
なのに、私たちが安倍政権に加えて、小池新党批判をやってしまったら、批判ばかりで、自分たちの主張や未来を語る時間がなくなってしまいます。もっと自分たちの未来を語ることに時間とエネルギーを使ったほうがいいと思います。
編:安倍政権について。
弘川:秘密保護法・共謀罪を作り、9条改憲を目指しているわけですから、全面的に対決すべき政権です。しかし特に許せないのは、危機の扇動です。米朝関係の緊張が高まっているがゆえに、日本こそが緊張緩和に動かないといけないのに、緊張を煽って政治的支持を取り付けるというのは、本当に子どもたちの未来を考えているのかと思います。
自公政権が過半数を獲得し、小池新党や維新の会が加われば、改憲は、極めて現実化します。しかし、こうした危機的状況は次のステップへの踏み台となり、エネルギーが蓄積される可能性も秘めているのではないかとも思っています。
だから絶望感よりも、「これから」という感じは持っています。これまでの膠着状態よりはましだと思っています。こうした意味で、スペインのポデモスはモデルです。
私たちは、長らく夢を語ることを忘れてしまったのではないでしょうか。
世論は、安保関連法も共謀罪も、過半数が反対しています。にもかかわらず、政治の世界はどんどん右翼化し、改憲派が圧倒しそうな勢いです。民主主義の本義からいっても異常な事態です。
未来を語る、いい意味での大衆性をもった政党が、今こそ求められています。