李慈勲さん(ソウル書林)インタビュー・後半
天皇ら戦争責任者を裁かずアジア加害を教えなかった結果
前号では朝鮮のロケットを軍拡に利用する安倍政権を批判し、朝鮮の行動背景を話していただいた。今回は日本で朝鮮敵視や軍拡が続く背景と、あるべき未来を聞いた。最後は本紙への激励もいただいた。(編集部)
前号でお話ししたように、朝鮮危機を利用して軍拡する安倍政権は、日本帝国主義時代に戻りたい。それが民衆に大きな抵抗なく広がっている根本的な理由の第一は、天皇制です。天皇制自体が、アジアを侵略し、「国民」を総動員する中心軸になりました。
戦後、そうした古い体制は全て清算すべきでした。日本民衆は自ら天皇制を撤廃し、責任者はみな処断する、ひいては二度と政界や公の場所で活動できないようにすべきでした。その運動が非常に弱かった。
第二に、GHQが冷戦を維持するために、日本の戦前の勢力を利用した。初めは32万人の公職追放の命令を出しましたが、すぐに復活した。典型的な例がA級戦犯の岸信介で、刑務所から引っ張り出し、米国の支配と妥協し安保体制を作り出す張本人になった。すぐに1950年に朝鮮戦争が勃発し、残存勢力が復活し、今や二世・三世の世襲で自民党を維持している。
たとえば「55年体制」一つを見ても、自由党と民主党が合併するときに、その政治資金を児玉誉士夫が出している記録があります。児玉は上海で諜報機関を掌握し、中国人民から略奪したあらゆるお金をそこで使いました。このように政治、経済のあらゆる面で旧支配層が復活すれば、現在のように大日本帝国をまた目指すことになるのは当然です。
三番目に、一番重要なのは、教育です。徹底した反戦教育、アジア加害の事実を教える教育をすべきでしたが、それをしなかった。日本軍は中国で民衆を2100万人殺している。右翼も認める数字です。朝鮮半島への36年の植民地支配の間で、600~800万人は殺している。東南アジア侵略も含めて、3千万人近いアジアの人民を殺しています。こういうことを一つも教えていません。従軍慰安婦も南京大虐殺も、特に小泉政権から安倍政権までに全部事実をひっくり返されている。
不思議なのは、テレビのコメンテーターで、それらの事実を否定する人ばかり出すことです。その上で人気のあるタレントを利用して、朝鮮をバッシングする。「南京虐殺は無かった」と言う。場合によっては韓国人にそういう本を書かせる。
そうして戦争責任を曖昧にし、侵略の事実をぼかし、責任者は悠々と残れる社会体制を権力者が作り出してきました。日本人に加害者という意識が欠落し、加害者が被害者をなじる形ができています。悲劇的です。
国際社会の核の二重基準
近年の日本とは対照的に、2000年に朝鮮と韓国の南北会談が行われました。その6・15声明は、統一のための三大原則を訴えました。(1)自主的に、(2)平和的に、(3)民族の対等な団結を図る、です。それにより、お互いの誹謗中傷をやめ、軍事的会談から始めて、経済的・文化的交流を進めることで、和解の時代に入りました。その後も、盧武鉉政権は離散家族の再会などで、緊張の無い南北関係を作り出した。この調子で行けば、ゆるい連邦制のような国家となり、互いに良い方向に行ったはずです。
ところがその後、08年に李明博政権が生まれた途端に、南北関係は緊張に走りました。2010年に朝鮮が韓国の哨戒艇を沈めたとされる「天安艦沈没事件」で(今では韓国の自作自演説も出ています)、南北間の対話が中断してしまいました。今や新たな冷戦関係になっています。そして、日米韓の軍事連携も強まりました。韓国内の保守勢力も再び強まりました。
そうした反動に韓国の民衆が反発し、6・15共同声明の状態に戻そうということが、今回の「キャンドル革命」の一要因になりました。
基本的に米国の対朝鮮政策は、「圧迫」を超える軍事的な占領作戦に過ぎません。たとえば、去年の3月7日から4月30日までの訓練を振り返ってみたら、凄いのです。原子力空母のロナルド・レーガンやステニスを配置し、ステニスは戦闘機が80機も待機できる9万5000トンもの潜水艦です。軍人が6500人も中におり、レーダーにも映らない。そうした最新式の武器を用意し、一気に平壌を占領し、指導部を全員殺す。これがあの有名な「5015=斬首作戦」です。
そうした物々しい具体的な様子を、日本のメディアは全く報道していません。朝鮮ばかり批判するのは間違っています。
国連の安保理制裁も矛盾があります。国連憲章の条文は、「全ての人民の経済的・社会的発達を促進する」「民族の発展権を認めなければならない」と言っているわけです。これに照らしてみたら、安保理の制裁は矛盾しています。世界で9カ国が核を保持していますが、常任理自国以外が核実験をしたら問題化される。9カ国はこれまでに2117回核実験をし、そのうち米国は1071回です。これは二重基準であり、常任理事国が核実験ばかりしている中で朝鮮を批判できるのか。国連憲章の「公正と正義」に全て反します。
朝鮮は「核は攻撃目的では使わない」と、はっきり言っています。(1)民族の自決権のための自衛権、(2)人民の生存権を守るため、と言っています。それはそうです、朝鮮戦争で米軍は電信柱が1本も残らないような爆撃をしたからです。
国連が米国のためではなく、世界人民のための国連になり、全ての人民の幸せのために、全ての国の独立性、自主性、尊厳を互いに守ることに立ち返らなければならない。日本は平和憲法に照らして、積極的に東北アジアの平和のために働かなければならない。しかし、米国に従属して自衛隊の予算を増やしていくのでは、世界人民から顰蹙を買うだけなのです。
平和な日朝関係のために日本の若者たちの覚醒を
日本社会をどのように変え、どんな日朝関係を作るべきか。韓国では若い世代が中心となってキャンドル革命を起こし、朝鮮との敵対関係にも歯止めをかけました。しかし、日本の若者は社会的問題意識を持てなくさせられています。それは教育のせいです。韓国の教組「全国教員組合」は、組織率が世界一です。日本は、「日教組」がかつてと異なり牙を抜かれています。労組自体が「連合」に変わって堕落しています。韓国は88年の民主化以降に非常に活発化し、若者に現代史をしっかり教えました。その教えを受けた若者たちが、この間闘ってきたのです。
日本の若者の意識が曖昧なのは、近現代史をほとんど教えられないからです。戦後の体制に対するまともな教科書記述がないので、若者たちは支配体制になじむ人間に作られています。何が原因で今こうなっているのかを、追求しないのです。相対的な貧困層が増えることを、「自己責任」と片付けられます。
韓国を見習い新たなメディアを
問題の解決策は、米朝間の話し合いしかありません。今、結果が見えにくいのは米朝が秘密交渉をしているからですが、折り合いがつかないのだと思います。アメリカはすぐに核やICBMを放棄せよと要求し、朝鮮は応じない。今作っているものを無くすことはできないので、一度棚上げにするしかありません。休戦協定を平和協定に変え、自然に国交を結ぶしかないのです。国交を結べば、核などは使えません。
日本では「中国が石油輸出を止めれば朝鮮は終わり」などと言われますが、中朝関係が完全に切れるからそれはできないし、プーチンもさせません。時間がたてば、米国は立ち行かなくなります。日本も、軍拡と朝鮮批判で一緒に迷路に迷い込まないように、日本の政治体制を変えなければなりません。
そのために、まず共産党や民進党の野党による連合政府を作り、戦争法や共謀罪を廃止させること。次に、非正規労働者を無くすために、社会主義に近い抜本的改革をすることです。それを軸に、戦争法反対運動のように若者が決起するか、30~40代が中心となって新たな政党を作るか、でしょう。韓国は運動の力で新政権を作りました。それを見習って、ぶれずに推し進めるのです。日韓の民衆連帯もさらに必要です。
若者の運動は、資金がないと続かないので、上の世代が支えることが必要です。その意味でも、人民新聞の存続は必要です。韓国では、既存の新聞・テレビから抜け出た記者が独立系メディアを作り、キャンドル革命に大きく貢献しました。『ハンギョレ新聞』は、世界初の市民の寄付のみで立ち上げた新聞だと思います。また、若者たちがSNSを駆使して運動を拡大しました。市民のための紙メディアもインターネットメディアも本当に必要で、人民新聞にそうなってほしいと、心から思います。