渦中の住民はどう受け止めたのか?
8月29日早朝6時前、政府は、「『北朝鮮』が発射した弾道ミサイルが日本上空を通過し、着弾のおそれがある」とし、東日本を中心にJアラートを鳴らした。政府は「屋外にいる場合は近くの頑丈な建物や地下(地下街や地下駅舎などの地下施設)に避難してください」と、Jアラートへの対策を提示した。
Jアラートとは、津波警報、緊急地震速報など、日本にいる人々が身の安全を守るために素早い対応を迫られる情報を、全国の自治体の防災行政無線や電子メールで伝える仕組みだ。市町村の防災行政無線などが自動的に起動し、屋外スピーカーなどから警報が流れるほか、携帯電話にエリアメール・緊急速報メールが配信される。
情報が伝わるルートは、大きく2通りある。
(1)自治体経由。これは、各市区町村の庁舎などにJアラートの受信機があり、情報を受信すると防災行政無線が自動的に起動し、特別のサイレンに続いてメッセージが流れる。
(2)個人の携帯電話。消防庁は携帯電話の大手事業者と提携しており、Jアラートのメッセージを「エリアメール」や「緊急速報メール」で配信するものだ。
「弾道ミサイル」の軌道上に位置するとされる北海道のJアラートを体験した市民は、何を感じ、どう対応したのか。札幌市に住む橋本稔さん一家と、富良野市議で有機農業家の今利一さんにインタビューした。橋本さん一家は10~60代が同居している。伸明さんは29日のことを「覚えていない。印象に残らなかった」と振りかえったため、夫人から話を聞いた。(編集部)
自分たちで判断を
橋本さん:「Jアラートは、地震のときと同じ音、緊急速報の音で鳴りました。みんな寝ていたのですが、家族全員の携帯で一斉に鳴ったので、地震かと思って飛び起きました。携帯画面をみて、地震ではないと確認しましたが、「ミサイル」に対して、どこに逃げればいいのか判らないので、家にいました。何かできることはしよう、と思い、とりあえずテレビをつけて、窓から離れました。それができる限りの防御策でした。早朝だったため周りと連絡もとれず、家族で相談しました。早くて10分で着弾するときいていたので、とにかく怖かったです。
その日の昼、友人との会話にJアラートのことがでました。友人は『びっくりした』『怖いね』『どこに逃げたらいいか』と怯えていました。『北朝鮮はミサイルをやめてほしいね』と発言もありました。
しかし、全体的に『自分たちで自分たちの身を守ろう』という話し合いでした。家族とも同様の会話をしました」
防御は無意味 国際協調を
今さん:「朝鮮がミサイルを発射したら、もうどうしようもないはずです。政府が推奨する防御策など無意味です。瞬時にその一帯の全てが消し飛ぶわけですよ。
Jアラートを鳴らし、ミサイルが発射された後の対策をとるより、まず『ミサイルを発射する』事態に陥らないよう、朝鮮が何を主張したいか、なぜ『ミサイル』を発射せざるを得ない状況にあるのか、考えるべきです。警報を鳴らし危機感をあおっても、事を荒立てるだけで、溝は深まるばかりです。
朝鮮は戦争をしたくて発射しているわけではありません。アメリカが提唱する大国主義、つまり『俺の言うことをきけ、アメリカこそが世界だ』とのまとめかたに追従するのは危険です。
国連も国際協調を主張しないと、朝鮮は納得しないはずです。安倍はウラジオストクに行きましたが、表面的なものにすぎません。本当に核をなくそうとするのであれば、朝鮮が何を考えているのか理解すべきです。
今の日本、アメリカ、国連、の朝鮮に対する制裁を強めるやり方には、賛成できません。おそらくJアラートを体験した市民のなかには、『なにやってんだ』と朝鮮に批判的な感情を抱いた人もいたでしょう。しかし大半は、『朝も早かったし、どうもならんよな』だったと思います。自身のとれる範囲の防御では無意味だと気づいていただろうから、誰も頭を抱えこんだり、机の下に潜り込んだりしなかったのではないでしょうか」