愛知大学名誉教授 加々美 光行さんインタビュー
【編集部より】前号でも報じた朝鮮との軍事的緊張は、朝鮮が9月5日に核実験を行い、極度に高まっている。安倍政権は軍拡に利用し続け、メディアも朝鮮敵視と「圧力が必要」の一辺倒で埋め尽くされているが、平和的解決こそ必要だ。日本では中国が常に朝鮮寄りと批判され、首相はロシアにも「朝鮮に異次元の圧力」をかけることを要求した。だが、朝鮮と関係の深い両国が事態をどう見ているかをきちんと知ることが重要だ。
そこで、中国研究の専門家の加々美さんに話を聞いた。加々美さんは、問題の解決に逆行する安倍政権も痛烈に批判した。
朝鮮・中・露国境は住民が自由に往来 石油禁輸も戦争も認められない
日本では中国とロシアが朝鮮寄りだと批判されますが、それは現実に国境の住民の交流があるからです。中国吉林省の「延吉」は、朝鮮の出身者が大半を占めています。日常的に朝鮮と中国の間を往き来しています。それは中国政府も住民の権利として認めざるをえません。私も旅行したことが何回もありますが、簡単に国境の橋を渡ってすぐに朝鮮に入れます。政略などではなく、他国と比べても中国と朝鮮はもともと特別な関係にあることを、まず初めに認識しなければなりません。多くの住民が交流しているから、経済制裁や戦争は認められないのだ、と理解すべきです。現実がわかっていないのです。
また、中国・朝鮮とロシアをまたぐ国境地帯「図們」には多くの中国人、ロシア人がおり、そこで彼らは自由に国境を往来しています。自由な往来による恩恵を受けています。米国は中国もロシアも言うことを聞かないとせっついていますが、百万人以上の住民の往来がある以上、戦争をするなどありえないのです。だから、日本や国連が経済制裁を求めても反対するのです。日本の報道からは、その現実が全くわかりません。
中国とロシアに制裁を求めること自体が、間違いです。韓国の果たす役割も大きいし、何もかも方針をアメリカに預けることが、根本的に間違っています。
朝鮮の核実験に関しては、国家的観点を捨てるべきです。国家の動きや平壌を見ているだけでは、実情はわかりません。朝鮮政府は8割の住民を国家愛国主義に吸い上げていますが、そうでない住民も2割います。それはメディア報道を観られず、国家の呼びかけが届いていない本当に貧しい人たちです。毎日地べたに張り付いて、食べ物を求めている人々です。メディアに接しないので、いくら国家が呼びかけても呼応しません。また、8割の住民の半分以上も、貧困には苦しんでいます。
では、どうすれば良いか。戦争を避けるには、一度朝鮮を核保有国として認知するしかありません。私は核廃絶の立場ですが、朝鮮の核保有は既成事実ですから、そのためにも世界の核軍縮の枠組みに入ることを交換条件とするのです。国際社会に入ってもらい、朝鮮が傲慢にならないようにすることです。核軍縮の枠組みに入らなければ、核保有国とは認めない。中国やロシアも、それが解決策だと思っています。日米がそれを認めないのです。
トランプより強硬な安倍首相 危機を利用した日本の核武装計画
朝鮮は米国とだけ対話しようとしていますが、日本と韓国の役割は小さくありません。安倍政権が「朝鮮に圧力が必要」としか言わないのは、本音は日本の再軍備と自衛隊の国軍化をしたいからです。自民党の結党以来の党是です。朝鮮のロケット問題を利用すれば、それに有利になるし、政権の支持率も上がります。このまま行けば、安倍政権は朝鮮の核保有を理由に、日本の核武装をも公然と主張するでしょう。そうなると、東アジアの核武装ドミノが起こる危険性もあります。
しかし、日本や韓国が核武装を主張したら、当然ながら朝鮮の核武装も止められません。安倍政権の暴走を止めるためにも、朝鮮に交換条件を出し、国際的に主権国家として認知するかわりに、核軍縮の枠組みに入るという対応をすべきです。
こう着状態は何年も続くかもしれませんが、日米で言われるような、金正恩の暗殺や体制崩壊を期待するなどできないし、危険極まりない発想です。日本の世論はそうした方向に向かっていますが、安倍政権を倒して、核軍縮の枠組み作りの議論が通用するようにしなければなりません。
米トランプ政権より、安倍政権の方が強硬です。トランプの外交には原則がなく、経済政策面は米国ファーストですが、軍事面でそういう原則はありません。朝鮮の水爆実験が広島原爆の10倍の威力なら、とても危険なものなので、トランプは最後は妥協します。
しかし、安倍政権は核武装、再軍備、改憲が悲願なので、それを原則に動いています。つまり、朝鮮が強硬攻策に出るほど日本も軍拡を主張できると計算しています。その実現を最後まで諦めないのです。日本のマスコミは、安倍首相の原則が見えているはずですが、きちんと批判せず、一緒に危機を煽っている。このまま行けばどれほど危険か、先を見て物を言わないマスコミの責任は大きいです。
安倍政権の核武装論が支持されるかどうかですが、現在は世論は多数が反発しますが、このまま緊張が続けば「核武装もやむを得ない」という論がもっと出て来るでしょう。米国は日本の核武装を認めるし、韓国の核武装も認めるでしょう。中・露が認めなくても安倍政権は強行し、「それでも日中・日露の決定的な対立は起きない。日本が核武装すれば朝鮮の核は止められる」と宣伝するでしょう。
したがって、「核で核は止められない」を国際的な取り決めにすべきです。中国も、すでに「朝鮮の現状をそのまま認めるしかない」と言っています。日本の軍拡と核武装という自民党の党是に、市民として真っ向から反対していきましょう。