作業離脱を通告し自主交渉
「太陽興業」は、2015年10月~2016年4月まで、浪江町除染作業を上位会社の「光陽建設」から請け負いました。
しかし、太陽興業はこの期間中の全ての賃金を作業員12人に直接支払うことはありませんでした。太陽興業はそれ以前の半年を含め、1年にわたって賃金未払いを続けていました。12名の作業員たちは、2名の作業員代表を決め、上位会社の光陽建設と自主交渉を行いました。作業員たちは、交渉の武器として(1)太陽興業に12名全員が退職届を提出し、ただちに現場作業から引き上げることを通告し、(2)光陽建設が当時作業員の募集をしていたことから、光陽建設が直接自分たちを雇うことを申し入れました。
光陽建設は、作業員が退職届を撤回することを条件に未払い賃金の全額立て替え払いを行いましたが、作業員の直接雇用は拒否し、太陽興業との請負契約も3月末で解除しました。太陽興業は、光陽建設からの請負契約解除を受けて、3月26日に12名の作業員全員を3月31日付けで解雇すると通知しました。作業員たちは解雇予告手当の支払いを要求しましたが、太陽興業は「以前の退職届を今回了解したということだから、予告手当は発生しない」と拒否しました。
ここに至って、自主交渉を進めていた作業員たちは、相談センター(いわき自由労働組合)に相談することとなりました。組合は、「退職届に関するいきさつは関係ない。雇用契約は3カ月ごとに反復して更新されていて、3月26日付けの解雇には予告手当が発生する」と判断し、労働基準監督署も同様の見解を示しました。作業員たちは、いわき自由労組へ加入し、太陽興業への団体交渉の申し入れと、太陽興業の所在地である宮城の労働基準監督署に解雇予告手当未払いの「告発」をしました。
しかし、労働基準監督署は、以前の退職届の有効性に関する会社側の主張にも合理性があるとの判断に傾き、予告手当支払いの指導はできないとしてきました。
労働基準監督署に告発
太陽興業も団体交渉を拒否する中で、組合は新たに、(1)使用者が義務付けられた除染労働者の内部被ばく検査(WBC)や除染現場への入場前の教育時間に対し賃金を支払わなかったこと、(2)南相馬の除染現場は週45時間労働であるにもかかわらず、40時間超の5時間分について割増賃金を支払わなかったこと等の賃金未払い問題を労働基準監督署に告発しました。
以上の告発を監督署が受理し、太陽興業に支払い命令を行い、太陽興業もこれに従い、最終的にこの内容で和解することとなりました。
この問題の取り組みの過程でいくつかの問題が分かってきました。
(1)なぜ光陽建設は求人をして
いるにもかかわらず太陽興業の作業員を雇わなかったのか?
除染作業現場にも原発の収束作業や建設現場の多重請負構造がそのまま受け継がれ、末端の作業員を送り込んだ下請けの権利は、不文律の絶対不可分の権利となっているのです。この権利を無視して、上位会社が直接雇うことはあり得ない。時には金銭を伴う争いにもなる。このことを12名の作業員たちはわかっていなかったのです。
(2)なぜ太陽興業は賃金の未払いになるほどの経営に陥ったのか?―
何人もの作業員が証言していますが、高汚染地区では、規定どおりの表層の土を取り除くことや、家屋の20m以内だけでは、放射線量は低くならない。そのため、数十センチもの表土のはぎ取りが必要になることが多い。しかし、請負金額にはこの余計な作業分は含まれていません。このため日程が遅れても、下請け企業には何の保障もありません。今、高汚染地域が除染作業の中心になっていますが、下請け企業は苦しんでいて、賃金の未払いや遅配が頻発しています。
必然的に採算の取れる除染作業とは、単価をごまかす違法行為に走るか「手抜き除染」しかないということになります。今回の太陽興業の作業員12名も、当然手抜き作業を指示されています。「測定ポイントだけを重点的に作業し、他は放置しろ」「余計に出た汚染物質はフレコンで回収せず付近の土壌に埋めろ」―こんな手抜き指示が堂々と出されているのです。
しかし、これも地権者が作業状況を見に来るところではできません。まっとうな除染をやらなければならないときの赤字は、下請けが全部背負い込むことになります。
上位会社の光陽建設が早い段階で立て替え払いを決めたのも、「面倒見てやるから、現場でのことは黙ってろよ」という暗黙の意思表示と言えます。
(桂武・いわき自由労働組合)