子供のころの経験をもとに、「マコの宝物」という物語を書きました。アラブの地で子供たちを育てようとしていた頃のことです。私はいったいこの子たちに何を残せるのだろうか、と考えたとき、私が大切にしているものは何だろうかと思いを巡らせました。
そうして、出会うことのできた多くの人々、彼らと交わした思いこそが私を育ててくれた、私の大切な宝物であること、それをこそこの子たちに伝えなければならないと思うようになりました。
戦火の押しせまつてくるアラブでの日々は、子供たちを相手にそれを語ることも、書くことも難しいままに時間が過ぎて、気が付いたときにはすでに彼らは立派な大人に成長していました。
1992年、日本に強制送還されて、多くの友人たちに出会い、再会して、「ゆきちゃんの子供時代のことを話してよ」と言う友人に、こんなささやかなエピソードを書き送るようになりました。友人はそれを「プチのおおどり」という東アジア反日武装戦線の支援の交流誌に掲載してくれました。そうして書きたまった物の幾つかが、ここにあるお話の種です。
「本にしよう。それが、出獄までの宿題だ」─そう言い残して亡くなった友人との約束を、編集者や大勢の友人たちが支えてくれて、2017年3月の出獄に間に合わせて出版してもらいました。どこにでもある、ささやかな出来事を、子供のころに出会うことのできた人々、その後の数十年間に出会えた大勢の人々がこんなステキな本にしてくれました。
そして今、「マコの宝物」の出版が、私に新しい出会いをくれています。世界がどんどん広くなる、そんな思いにさせてくれています。やっぱり出会いと人々との交流、思いの交わしあいこそが、生きていること、生きていくことの宝なのだ、と改めて実感しています。
「東アジア反日武装戦線の総括も、日本赤軍の総括もなしにこんな本を出して…」という批判をくれた友人がいます。「いいえ、これが私の東アジア反日武装戦線と日本赤軍での活動の総括でもあるのです」と、私は答えました。これから生きていく子供たちに、長い年月を生きてきた大人たちに、人間ってみんな素晴らしい、さまざまな人々との出会いと共にあること、思いを交わしあえることこそが、あなたを育ててくれる、あなたの宝物になるはずだ、と。そうして、これからも人らしく生きあおう、共に!と。