加計学園スキャンダルは、何も解明されぬまま国会閉会。自民党は、内閣支持率急落を受けて閉会中審査を受け入れたが、安倍首相の権力私物化・説明責任放棄の姿勢が変わるとは思えない。実態は解明されるのか? 獣医学部新設については、京産大と加計学園が競合したが、両校の提案説明を比べると歴然とした差があり、加計学園が選定された経緯への疑惑は、深まるばかりだ。両校の提案説明書ならびに日本会議との関連を検証する。(編集部)
充実した京産大杜撰な加計学園
京都産業大学の提案書説明は、2016年10月17日、国家戦略特区WG委員に対して行われた。国家戦略特区諮問会議が「『広域的に』獣医学部のない地域を」を条件に加えた1カ月前だ。提出された文書はA4で20枚。提案説明者は5名。京産大副学長、同大学教授で鳥インフルエンザ研究の世界的権威の大槻教授、京都府の農水部門の副部長と課長、それに関係担当課長である。
議事録を見ると、WG委員の専門的な質問に大槻教授が的確な即答をして、WGの八田座長が「大変説得的なお話だと思いますので、あとは戦略ですね。どうもありがとうございました」と感心を表明している。1989年から獣医学部新設をめざしてきた同大学提案の充実ぶりが伺える。京都産大は、京都大学の「ipS細胞研究所」との協力で、将来、インフルエンザ、花粉症の究明、新薬開発なども考えていたと言われている。
一方、今治市の提案説明は、京産大に先立つ9月30日に「第2回国家戦略特別区域会議」で行われた。提案説明者側は、菅・今治市長と加戸・今治商工会議所特別顧問(前知事)の2人だけ。獣医学の専門家はいない。提出された「資料3・今治市提出資料」の獣医学部関連の提案書は、A4でわずか2枚。しかも、9日前に開かれた「第1回今治市分科会」で提出された「加戸特別顧問提出資料」をそのままコピーして貼り付けただけの杜撰なものだ。会議は質疑もなく、特区事務局関係者が自治体など関係者の説明を聞き流すだけの会議だったようだ。
さらに、同提案資料では、エボラ出血熱=MERSをMARS(火星)と書き間違えている(自由党・森ゆうこ参議の国会質問)のだから、笑えない冗談だ。
根拠を示せない政府答弁
両者の提案を経たこの時点では、四国地方への限定が行われていた形跡は一切ない。共産党の小池晃書記局長は、独自に政府関係者から入手したとする政府の内部文書を根拠に、「原案には『広域的に』と『限り』という言葉がなかった」と指摘している。
つまり、10月17日から11月9日までの間に「現在、広域的に獣医師系養成大学等の存在しない地域に限り獣医学部の新設を可能とする」との方針が決定された(共産党衆議・宮本岳志)ことは間違いない。
小池氏は「(昨年11月9日の決定に)2つの言葉が入ったことで、隣県に大阪府立大獣医学部があった京都産業大は断念せざるを得なかった」とし、加計学園に有利になるよう文言が修正されたと主張している。
これを裏付ける事実として、国家戦略特区を担当する山本幸三地方創生担当相は、11月17日、獣医師学会を訪れ、役員らに対し「四国に新設することになった」と伝えている(毎日新聞)。大阪府に獣医学部がある京都府は除外され、加計学園に事実上決まったのである。
国会審議で「加計ありきの条件だったのではないか」との野党側からの批判を政府は否定し、「11月以降に今治市と京都府の提案を比較し決定した」と説明。
山本幸三地方創生担当相は、専任教員の確保、鳥インフルエンザなどの水際対策、自治体との連携の「三つの審査基準」で検討し、今治市に決めたと主張している。ところが、山本氏は選定過程について「内部の打ち合わせだから記録は取っていない」と説明。「三つの審査基準」を誰が、どのような議論で決めたのか明らかにせず、基準の根拠も示していない。事実根拠のない苦しい言い訳である。
「政府が昨年11月に学部新設を決める前から同学園による開設を前提に段取りを組んでいた」との小池書記局長の指摘は、事実に則している。
日本会議でつながる首相と今治市友人関係でつながる首相と加計学園
特区申請を行った今治市側で重要な役割を担ったのが、菅良二今治市長と加戸守行前愛媛県知事だ。加戸氏は、政府の「教育再生実行会議」の有識者メンバーでもあり、前文部科学次官の前川氏は、加戸氏が有識者に選ばれたのは「総理から直々にご指名があった」と証言している。教育再生実行会議でも獣医学部新設を売り込み、「何とか四国の空白地帯に獣医師養成大学を誘致したい」(13年10月)と発言している。
安倍首相、菅市長、加戸氏には、別の共通点もある。「日本会議」の活動に参加していて、加戸氏は「美しい日本の憲法をつくる愛媛県民の会」の実行委員長。「安倍政権下での改憲」も訴えている。
加計学園系列の岡山理科大附属中学では、歴史と公民で育鵬社の教科書を使用していることなどは、森友スキャンダルと共通する。
愛媛県今治市は、今治市で岡山理科大獣医学部の2018年4月開設を目指す加計学園に対し、高等教育施設用地(16・8ヘクタール、評価額36億7500万円)を無償譲渡する補正予算案を3月定例議会に上程した。施設整備費の債務負担行為限度額96億円の助成議案も合わせて提出し、本会議で可決された。破格のてこ入れだ。
しかし、獣医学部の定員は160人で、他大学の平均の約3倍。就職先が確保できなければ受験生が減り、大学経営が難しくなる。
多額の負債で第二の夕張市に
加計学園が運営する千葉科学大は、在学者数1956人(定員2386人)。定員充足率は82%にとどまっている。10年にはパイロットの養成コースを含む航空・輸送安全学科を新設、16年には自衛官・安全保障コースを設けた。カリキュラムを次々と増やす一方、15年には薬学部動物生命薬科学科を廃止するなど、試行錯誤を繰り返している。同大の元教員は、「とにかく生徒集めが大変で、中国の内モンゴル自治区まで勧誘に行ったこともある」と話す。
大学を誘致した千葉県銚子市の懐事情も苦しい。大学建設時に加計学園に出した補助金は借金でまかなわれ、返済額は利子を含めて84億円。14年度末でも44億円が負債として残っている。
大学誘致に熱心な首長に補助金などでバックアップしてもらい、学校事業を拡大してきた加計学園。愛媛県今治市は、学校用地として37億円の土地を無償譲渡。校舎建設費の総額192億円のうち、補助金として上限64億円を支払うことも決めたが、経緯は不透明だ。
「市の担当者は、建設費の総額192億円は、加計学園から『図面と金額だけ示されたもの』と言います。積算の根拠となった書類もありません」(地元関係者)
今治市の負債は、すでに900億円以上。「このままでは『第二の夕張』になりかねない」との市民の憂慮は、置き去りにされている。