ひきこもりと自立支援
ひきこもり名人 勝山 実
私のほかに誰もこの本を知らないだろう。『〈自立支援〉の社会保障を問う』桜井啓太著(法律文化社)。定価、五四〇〇円+税です。高いぞ。
「ねちねち就労支援の悪口を言い続けているひきこもりにとって、きっと必読の本」ということで、私は運よく、貸してもらうことができました。きっと、とついているのは、貸してくれた人がまだ読んでいないからです。だから私は、早く読んで、返さないといけない。
二度読みました。自立支援がいかにクソであるかということについて実にねちねち調べてあって、面白い。この本から気に入った部分を抜書きし、パクリしつつ、自立支援について語りたい。これでみんなも読まずに語れる。マンガで読む名作○○と同じくらいの効果があります。
社会保障削減としての自立支援
自立支援の元祖が、中国帰国者だと知っていましたか。一九八七年。いわゆる中国残留孤児といわれる人たちが、肉親との感動の再会を経て、故郷日本に帰国して暮らしていく、そうなった時、どうしたって助けがいるでしょ。言葉が話せなかったり、仕事がなかったりするわけですからね。そこで定着促進のため、日本への適応のため、という理由で、「自立支援」という言葉が国会に誕生したのです。彼らにつく通訳の名称も、自立支援通訳にするほどの念の入れようです。
本来であれば、中国帰国者に対する保護(給付・手当)であるはずのものを、わざわざ自立支援に置き換えた。なーんでか、それはね、「異質者」である彼らが、日本社会へ依存することを警戒したからです(生活保護率も高かった)。これがすべての始まりで、自立支援は他の分野にも、次々と増殖していきます。障碍者、高齢者、児童、母子家庭、ホームレス、生活保護、若者(ひきこもり・ニート)と。
どーんと勢揃い、さながら差別のフルコースです。社会で差別されている人にもれなく自立支援が付いてくる。ひきこもり支援は、自立支援業界では新入りであって、たくさん先輩がいるのだと、初めて知りました。
〝自立〟支援という言葉はくせもので、自立の名のもとにおこなわれていることは、実は社会保障の削減です。サービスを受けている利用者にとっては、たんなる自己負担増。就労支援はそれとセットでおこなわれる、望んでいない、割に合わない交換サービスなのです。
トランポリン福祉という言葉があるのですが、これは対象者を助けるのでなく跳ね返す福祉です。ワタミやベネッセがはびこる労働市場から追い出された人を、それ再挑戦だと、労働市場へ押し戻すのです。結果、ワーキングプアとなって、劣化した不安定な労働市場と失業貧困状態とを、行ったり来たりすることになる。「質の悪い自立者」が大量に生み出される。その中心装置として、就労支援があるのです。
限定される「自立」の姿
ゴミクズ就労支援でよく聞く、階段を一段一段あがっていき、最終的に就労を目指すステップアップ支援プログラムというのは、支援する側から見れば逆であって、相手によって階段を下げているのです。就労に足りない、できない部分をどれだけ持っているか、減点の数だけ下げているのです。就活できないの? ボランティアくらいできないの? とできない項目を聞き出し、「バナナの叩き売り」のように「少しずつ競り下げいく」、人間叩き売りプログラムです。
国が求める、あるべき姿からどれだけ遠ざかっているか、それを計るモノサシのようなもの。自立支援における、自立というものがすごく限定されている。自立支援、就労支援という名前の後ろには「生きる形式を押しつける」権力の野望というか、ショッカーの陰謀が隠れているのです。
正しくは原典を読んで下さいね。