近くに広大な墓地がある。その南には、野坂昭如の小説『火垂るの墓』に出てくるニテコ池がある。この墓地を歩くと、独特の形をした戦死者の墓の多いことに驚く。戦時中に建てられたものは大きい。戦争末期の戦死者を戦後まつった墓は、他と背丈が変わらない▼「昭和十九年七月十八日 マリアナ諸島で戦死 行年二十五歳」という墓碑の裏には「昭和三十二年妻◯◯建之」とあり、横に女性の名が併記されている。女手一つで娘を育て戦後を生きた人生を思う。今も新しい花が供えられている。「昭和二十年八月二十五日 ルソン島で戦死」というのもある。敗戦の後である。何があったのか。これを建てた父母の無念を思う▼愚かなことは、二度くり返さないと世の教訓とならないのか。ドイツは第一次大戦で大きく破壊され、二度とくり返すまいと誓ったはずだが、ヒトラーの台頭を許し、二度目の敗北となる。そのうえに、福島事故を経て少なくとも原発廃止には至った▼まさに、福島原発の核惨事は日本の二度めの敗北である。しかし、世のあり方を変えることにはつながっていない。それどころか、為政者はこれをショックドクトリンとしてテコに使い、ファシズムに突き進んできた。それが現在である。いま、戦死者の墓は問うている。もう一度これをくり返すのか、と。 (n)