同志社大学嘱託研究員 森宣雄
歴史には試練のときのめぐりがある。いまもまたそうだろう。むごいこと、痛ましいことがらがさまざまな場所で次々に人を襲っていることを聞く。そんな試練をどう乗り越えていったらよいだろう。
『沖縄戦後民衆史―ガマから辺野古まで』(岩波書店、2016年)は、何もない焼け跡、何も持たない難民生活から、歌をつくり演説会につどい、声で思いをつなぎ、民衆が独自な社会をつくり出してきた戦後70年の歩みを描いた。「ちむぐるさん」という、ひとの痛みを他人事にしない古い沖縄のモラルが、社会の幹を形づくった。
その登場人物でもある沖縄平和運動センター議長・山城博治さんに長年にわたるインタビューを重ね、そのエッセンスを山城さんとともに短くまとめたものが、栗原彬編『ひとびとの精神史』第九巻(岩波書店、二〇一六年)の一章をなしている。うちなーんちゅ(沖縄民衆)の魂とは何か、終わらない沖縄戦を今こそ終わらせるために日本の人びとに何を求めるか――熱く語る山城さんの思想の声を聞いてほしい。
試練のときとは、これまでできなかったことに挑みなおすチャンスの到来でもある。