ひきこもり名人 勝山 実
ファミリーレストランのレシート(レジから吐き出されるヒョロヒョロ長いやつ)には、たいてい次回お店で使える割引きクーポンがついています。これでドリンクバー(飲み物おかわり自由)が、199円から74円に割引きになるのです。これは大きい。
しかし最近、このクーポンがさっぱり出てこないのです。レジでTカードを出し、お金を払う。ういーんとレシートが出てくるも、途中でぷつんと切れ、クーポンなしの短いやつが手渡される。
あの時の無念さといったらない。騙された、損をした、としか感じられない。なぜ私にクーポンが出ないのか? ドリンクバーだけで長時間ねばったからだろうか、日替わりランチくらいしか頼まないからだろうか。
あまりにも悩んでしまい、グーグルで検索して調べてしまいました。でも、クーポンの出る出ないは、時期や店によるということで、何か操作されているというわけではないそうです。人智の及ばぬことである、と諦めていたのですが、ついこないだのことです。会計をすませ、クーポンのついてないレシートを受け取りがっかりしていると、そのレジのすぐ横に、レシートを捨てるための透明のゴミ箱が置いあって、そこにレシートが捨ててあるんです。あるわ、あるわ、クーポンつきレシートが山ほど捨ててあるのでございます。
盗るか、盗るまいか。時間にして十数秒、レジの前で、財布の中をのぞいたり、指をつっこんだりして、時間を稼いでおりました。レジの店員が厨房にひっこむのを待っていたのです。でも、店員は帰るお客に「ありがとうございました」を言うタイミングをうかがっている様子で、ちっとも動きません。
クーポンなし・土日のファミレスで丸裸
私の頭にひとりのフランス人が思い浮かびました。ああ、無情。レ・ミゼラブルの主人公ジャン・バルジャンです。飢えをしのぐために一片のパンを盗み、19年もの牢獄暮らしを余儀なくされた、不運の男の人生が頭をよぎったのです。クーポンつきレシートと引き換えに19年間……、考えただけで怖ろしくなり、犯行を中止しました。
しかし、かえすがえすも、もったいない、あの捨てられたクーポンたちよ。捨てるなら、店の外に捨ててくれたまえ。私はそれを「喜んで」拾おう。無念の気持ちでいっぱいです。勇気を出して盗ればよかったのかな、とも思う。ジャン・バルジャンだって銀の皿を盗んだときは、司教さんが「それはあなたにあげたものです」と言ってかばい、許してくれたではないか。ヴィクトル・ユゴーがあの小説で伝えたかったことは、クーポンつきのレシートをもらえなかったときの苦しみなんだなと気付き、あらためてフランス文学の古典を再読しているところです。
余談になりますが、この前、いつものようにファミレスで日替わりランチを食べようと店に入ると、なんだか客が多い。最近ニートが急増しているのかなと思ったのですが、そうではない、土曜日だったのです。毎日が日曜日なのでうっかりしていました。土日は日替わりランチがなく、普段はお得感あるファミレスも、私にとっては高級レストラン。一品一品がどれも高い。 でも、すぐ店を出るわけにもいかないので、せっかくだから日替わりランチでは味わえないものをと「野菜たっぷりタンメン」を注文。まあ、ラーメン屋でもない、ファミレスのラーメンがうまいはずもない、期待せずに食べましたが、そのまずいことといったらない。自分が家でつくる塩ラーメンと同じ味がする。こんなものに700円も払ってしまった。野菜たっぷりって、もやしがたっぷりなだけじゃないか。まずいタンメンにドリンクバーを合わせると千円近くなる。怖ろしいことです。
土日にクーポンなしで、ファミレスに行くと丸裸にされてしまうぞ。ご用心あれ。