アリ・アブニーマ/4月28日「電子インティファーダ」 翻訳・脇浜義明
米国最大のユダヤ人団体で新イスラエル・ロビーの「名誉毀損防止連盟」(ADL)と、元政府顧問ギリ・グリンスティンが創設したリュート研究所は、合同で作成した秘密報告書で、イスラエル・ロビー・グループは、多額の費用をかけているにもかかわらず、運動面でパレスチナ連帯運動に後れを取っていることを認めた。ユダヤ人総合誌『前進』が2月にリークした。
報告書は、BDS(イスラエルボイコット運動)などのパレスチナ支援運動が広がるの対し、「20数倍もの」費用を使っているイスラエルのプロパガンダがうまくいっていない事実を指摘。イスラエル=占領・入植植民地主義、アパルトヘイト政権というイメージ(現実にそうである)が広まっていることへの対策戦略を提起している。報告書の主要部を列挙する。
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*パレスチナ連帯運動は、「イスラエルにとって不利な世界観」を作り上げることに、成功を収めている。
*「パレスチナ連帯」は、欧州の主要左翼に移植され、「米国でも牽引力を発揮する恐れ」がある。
*イスラエルの数次にわたるガザ攻撃(2009年、12年、14年)のために、無法国家=イスラエルのイメージが「上昇した」。
*西岸地区占領、とりわけ入植地建設・拡大を理由にするイスラエル・ボイコット運動が勢いを得ている。
*BDSは、パレスチナ人を支援するためか、あるいは「不必要な軋轢を避ける」ために、入植地以外のイスラエル製品やイスラエルとの関係を避けるという消極的行為=「無言のボイコット」という「副次的被害」を及ぼしている。
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報告書は、対策として、BDSを推進する「ハードコア」とイスラエルの一部分を批判する「ソフトコア」の間に「楔を打ち込む」よう提案。「ソフトコア」には「秘密裏に断固たる処置で挑め」と主張している。
2010年、リュート研究所は、BDS運動の中にスパイを潜入させて内部から攻撃することを提案した。報告書の提起はその延長にあり、パレスチナ連帯運動を反ユダヤ主義やイラン・コネクションやテロリズムの汚名と結びつける戦略を提起している。
報告書は、パレスチナ支援運動撲滅戦を担当する「イスラエル戦略問題省」と深く結びついている。ギラド・エルダン大臣の指導下、同省は、イスラエル諜報活動に詳しいジャーナリストが「黒い軍事作戦」と名づけた活動に従事してきた。「黒い軍事作戦」とは、「中傷攻撃、ハラスメント、プライバシー侵害、生命に対する脅迫など」である。同省のシャイ・ハル=ツヴィ情報部長も、報告書を作成した一人である。
米国内ユダヤ人イスラエルとの一体感が衰退
報告書は、「イスラエルが右傾化した」と考える人が増えたことを認めている。トランプ大統領誕生で、短期的にはオバマ時代よりもイスラエル・米国関係はよくなるだろうが、長期的に見ると、右翼トランプ政権は、「多くのユダヤ系米国人や非ユダヤ人リベラルから嫌われている」ので、いずれイスラエルにとって不利になるかもしれない。また、「米国内のユダヤ人は深刻なアイデンティティ危機に直面している。それは、イスラエルの現状に関係している」と述べ、「ユダヤ社会の親イスラエル活動の減少」を予言。「反イスラエル活動が増加傾向にある」と述べている。米国内ユダヤ人のイスラエルとの一体感の衰退は、「多元的、平和的、民主主義的イスラエル」というイメージが後退した結果である、とも述べている。
パレスチナ連帯運動に対する闘い方は、反ムスリム感情の扇動を伴っているので、リベラル系や中立的な人々の反感を招き、彼らを親パレスチナへ追いやっている、と指摘。「インターセクショナリティ」(被差別マイノリティ間の連帯)を脅威だとも見ている。LGBTQ,ラティーノ、アフリカ系米国人、米国先住民がパレスチナとの連帯を深めており、「パレスチナの大義を多くの社会的周辺部グループが採用している」と分析する。要するに、「イスラエルは不必要に敵を広義に定義している」と警告しているのである。
ニューヨークで開催された反BDS会議では、「Jストリート」というリベラル・シオニスト・グループに「反ユダヤ主義」というレッテルが貼られた。報告書は、このような姿勢が「ソフトコア」を敵に追いやったと警告しているのだ。また、イスラエルが各国に反BDS法を作れとヒステリックに強要していることも、主権侵害、言論の自由の侵害、思想の自由の侵害、民主主義の否定と見られ、反感を買っている。
しかし、報告書は、そういう現象の基本的原因であるイスラエルのパレスチナ人の人権の否定という、一番大切な問題に触れていない。せいぜい、中立やソフトコア批判者への懐柔を提案するだけである。「パレスチナ人否定」という点では、報告書も、イスラエルと親イスラエル・ロビーと同じである。