要訳・脇浜義明
「リアルニュース・ネットワーク」(TRNN)は、ネットを通じてニュースとドキュメンタリーを発信する非営利団体だ。TRNNは、「普通の人々の利益を念頭に置いて報道するテレビニュース」媒体を目指して2007年に設立され、視聴者の寄付で運営されている。そのTRNNが、トランプ当選を受け、「グローバル気候変動局」を立ち上げた。趣旨を要訳・掲載する。 (訳者)
地球温暖化を否定する閣僚を起用
150年前に測定を始めて以来、2016年は最高温度の年となった。毎年最高温度の記録を更新して三度目になる。
気候変動に関する政府間パネルの元委員長のロバート・ワトソン氏など7人の専門家によれば、産業革命以前の平均気温より2度上昇する時期は予想より早くなるそうだ。「気候変動に関する真実」報告では、「パリ協定」署名国全てが公約を果たしても、「2030年代初期に1・5度上昇閾は超えられ、2度上層閾も2050年までに超えられる」と予測している。
しかしこれは、トランプ氏が米国大統領に選ばれる前のことである。トランプ大統領は、気候変動を否定する人物を担当閣僚として選んだので、米国がパリ協定を破棄し、公約を実行しないのは明らかである。そればかりか、化石燃料の生産と消費に関する規制も廃止するだろう。同報告はさらに「多くの要人が、気候変動は21世紀末に起こると思っているようだが、大変な誤解だ。多くの人が生きているうちに2度上昇域を超えてしまう」と述べている。地球の平均気温が2度上昇すれば洪水、干ばつ、嵐、熱波、山火事が多発し、大規模な生命の破壊と混乱が起きる。対策が遅れれば、問題はさらに悪化し、複雑化する。
気候変動危機は、人類の生存に関わる深刻な問題であるのに、なぜ数百万人規模のデモが起こらないのか? なぜ選挙の争点にもならず、政治課題にもならないのだろう。
エール大学の調査によれば、地球温暖化の事実を認識している米国人は70%いるのに、その原因を人工的だと思っている人は、その53%にすぎないという。地球温暖化を人工的要因によるとする気象科学者は90%以上なのに、これを信じる米国人は10人に1人だ。
これには、気象科学に対する「戦争」が大きな役割を果たしている。コーク・インダストリーズ(石油、化学、日用品の総合企業)のコーク兄弟やトランプ支持者で大富豪のロバート・マーサーらが、何千万ドルも使って気象学者の魔女狩りや国民を混乱させる擬似「研究」をやらせているからだ。
ほとんどの米国のTV局は、「気候変動に関する真実」報告を取り上げていない。進歩的研究センターの『メディア・マターズ』報告によれば、CNNは、「2015年が記録的大暑の年で、2016年2月も記録的に温かい月だった」という報道の後、同ニュースの5倍の量と頻度で石油企業コマーシャルを放映したという。同報告は、4大TVネットワークを調査した結果として、2015年に気象変動関連ニュースを放映した時間は合計146分であり、ABCにいたってはたった13分であった、と発表した。TV局の消極的姿勢は、スポンサーである化石燃料企業の圧力か、それへの迎合だろう。
政治と経済の根本的変革が必要
化石燃料使用を減らし、グリーン経済へ移行するためには、政治権力と経済のあり方の根本的変革が必要である。大規模なCO2排出規制、グリーン経済への大幅な公的投資なくして、温暖化防止はできない。しかし、メディアがこれらの権力に挑戦したり、企業の環境汚染を重大問題として取り上げた例はない。気候変動に関する事実を伝え、企業の報道独占を打ち破るためには、科学的なグローバル気候変動の調査と報道に特化したニュース手段を作らなければならない。トランプ政権は地球温暖化を促進し、危機を覆い隠すので、これは急務である。
リアルニュース・ネットワークは「グローバル気候変動局」を立ち上げる。気候変動局の報道指針は、以下のようなものだ。
(1)気候科学と危機の緊急性に関するニュース発行。
(2)解決案や変革モデルの検討と報告。
(3)世界中の環境保護に関する大衆運動の紹介。
(4)気候変動の影響が、屈折した形で報道されたり報道されなかったりすることを分析し、不平等な社会的、経済的影響を伝える。
(5)諸外国でのグリーン政策の紹介と、米国で実行可能性の検討。
(6)本物の解決案と企業のグリーンウォッシング(偽りで見せかけだけの環境配慮)の区別を議論する。
(7)CO2削減テクノロジーの検討と紹介。
(8)ネガティブ・エミッション技術(負の排出技術。大気中から温室効果ガスを取り除くという技術)の分析。
(9)科学的問題と経済的問題を結合させ、持続可能なグリーン経済への移行計画を検討する。
(10)科学的研究所やニュース機関から良質な気候関連映像や音声資料を収集し、総合的に編集して、報道する。 「グローバル気候変動局」は、市民カンパによって運営される。支援を願いする。