「被曝地戒厳令」を見抜いたのだ

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「自主避難者は自己責任」ではない

福島県郡山市在住 井上利男


 のっけから私事で恐縮だが、筆者がアップロードしているツイートがある。「放射能は、物理的に『見えない』だけではない。政治・社会的に『見させない』。心理的に『見たくない』。被曝地戒厳令は、軍事・警察力の形では『見えない』。 メディアの力で『見させない』。わざわざ『見たくない』。だから、意識・意志的に『見なければならない』」。
 今村雅弘復興大臣が4月4日の記者会見で、フリージャーナリストに避難者の苦境に対する国の責任について質問され、「(自主避難は)本人の責任」、「裁判でもなんでもやればいい」などと言い放ち、あげくの果てに記者に対して「出て行け」などと怒鳴ったのを、暴言として主流メディアも報道した。だが、これを単に大臣の浅はかな資質による一過性の暴言で済まされるだろうか?
 東日本大震災から2カ月後の2011年5月、私は知人の知人からの依頼を受けて、郡山の市街地から関東方面に避難する家族の片付けを手伝ったことがある。軽乗用車に不用品を積み込んで、一般廃棄物処理場に何回か運搬したのだが、その日の作業終了時の挨拶で、「皆さんが郡山で頑張っているのに、私たちだけが逃げるようで、申し訳ない」と詫びを言われたのだ。「子どもが同居していれば、私だって逃げますよ」と私は返した。
 実を言えば、わが家も3月13日、原子炉3基が冷却不能になった福島第一原発だけでなく、第二原発の状況も不安定になったという情報に恐怖を覚え、群馬県に緊急避難していた。生活の都合もあり、避難は10日間だけで切り上げたが、その間、郡山市はほぼ全域の水道が断水しており、連日、一家総出で各地の公園の給水所で長い列に並んでいたのである。そのとき、フレッシュな放射能のプルームが頭上を通過していたが、その情報は極秘にされた。
 安倍首相は4月8日、今村復興大臣を伴って福島県を訪問し、「私からも率直におわびを申しあげたい」と、大臣の暴言を陳謝したが、南相馬市でドローンの操作を体験したり、富岡町で町民の帰還が始まったことを祝う「復興の集い」に参加し、「復興を一層加速させていく」と約束したりした。首相は、箱物復興や「風評払拭」スローガンは実感していても、果たして「人間の復興」など眼中にあるだろうか?
 日本経済新聞の4月10日付記事によれば、福島県の内堀雅雄知事は、安倍首相が謝罪したことについて、「これは重く受け止めるべきだと考えている」と話したそうだ。野党による復興相辞任の要求に関しては、「復興庁、政府として、福島の復興・再生に誠意をもって力を尽くしてほしい」と述べるにとどめ、今村氏と政府の責任を追求する姿勢を一向に示していない。
 その内堀知事は、自主避難者らが住宅支援打ち切りの撤回を求める直訴状を手渡そうとしたとき、無言で通り過ぎ、記者会見で「組織全体で丁寧に対応する」と語った。復興庁に「復興応援大使」を嘱託されたリオ・オリンピック男子体操金メダリストの内村航平氏や農協キャンペーンを担うピーチガールズには喜んで面会するのだが、窮状を訴える被災者は「復興キャンペーン」の邪魔でしかない。
 明治の富国強兵政策による足尾鉱毒事件から戦後の公害・薬害訴訟まで、この国では政府や事業者が自らの責任を進んで認めた例はない。その極端な事例が、フクシマ核惨事の軍事・警察力の形では目に見えない被曝地戒厳令状況なのだ。だから、意識・意志的に見抜かなければならない。(原発いらない金曜日!郡山駅前フリートーク集会世話人。ブログ:原子力発電・原爆の子。ツイッター:@yuima21c)

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