避難先で娘の体調が劇的に回復 下澤陽子さん(東京から神戸へ14年)
――発言者のうち、健康被害の体験談を二回で掲載する。
私は2014年に、東京の国分寺市から神戸へ一家で避難・移住してきました。2人の子どもがいます。私は人一倍大雑把な母親でした。当時、放射能を気にする人に対しては、「だって専門家が大丈夫だって言ってるのに、一体何を気にするの? パニックになっちゃってるんだわ」と思っていた。そんな調子で、原発が爆発した日も、その後も、泥だらけで遊ばせる生活を子どもにはさせていました。
そしてその3年後、私たちは神戸へ移住することになりました。放射性物質から子どもの身を守るためです。 事故1年目、11歳の娘は、やたらと咳をするのが気になってはいましたが、元気一杯でした。しかし事故から1年経ち、小学校に入学した頃、突然肺炎で入院し、その後も入退院を繰り返しました。それから娘は、「気持ちが悪い、だるい、頭が痛い、お腹が痛い、寒気がする、体が痛い」と訴え始め、訳の分からない症状に周期的に悩まされるようになっていきました。事故前の健康で丈夫だった娘の体を知る、私の母親としての強い違和感。それがその頃学び始めていた内部被ばくの問題と重なり、私は娘の体が被ばくの影響を受けているのではないか、と思うようになりました。
それで私は、主治医に相談してみました。しかし放射能という言葉を出すと、頭から徹底的に否定されて叱られました。ショックでした。初めて放射能という言葉を出した時の医師の対応があまりにおかしかったことで、私は、この問題には根の深い何かがあると感じるようになり、逆に真剣に放射能について考えるようになっていったのです。病院に共通しているのは、医者は、放射能の影響を考えないし検討しないということです。叱られるか、鼻で笑われて馬鹿にされるか、が違うくらいです。
私は一人ぼっちでした。同じ土地で生きる友達には決して話せず、夫も医者と同じ立場で、私たちは言い争いを繰り返しました。そんな中で、娘の症状は次第に頻繁にひどくなっていき、最後は身動きが取れない状態になっていきました。学校へ行けない。友達とも遊べない。トイレへ行くにもおんぶでした。
私が三田茂医師の講演会=「関東の子どもたちの異常について」という動画を見たのは、ちょうどそんな頃でした。先生は、汚染のない土地へ動くことによって、症状が改善されたり血液検査の数値が良くなる例が多いことをお話しされました。今は岡山へ移住した先生の小平での最後の講演会にギリギリで間に合い、娘のことを相談しました。「僕はそれは被ばくの影響だと思いますよ」この一言が決定的でした。
元気に見えても潜む健康被害
夫はそれで変わりました。「娘を早く動かそう」と、夫婦の気持ちが初めてひとつになりました。物件探しに夫の実家のある富山、沖縄、神戸に行き、娘は奇跡のようにめきめきと蘇ったんです。トイレでもおんぶだった娘が、富山に行って、3日目で徒歩15分の海まで歩き、翌日には室内プールで泳いでいました。しかし、東京に帰ってくると1週間後もしくは翌日にはぐったりと前の状態に戻ってしまう娘を見て、私たちには移住以外の選択肢は存在しませんでした。
三田先生は、被ばくの影響を見るのなら、血液を見るのが基本だとおっしゃっています。首都圏・関東にいる大人や子ども3000人の血液検査の結果は、次のとおりです。事故後、年を重ねるにつれて見られた傾向は、10歳以下の子どもたちの白血球と、その中の好中球の数が減少してきているというものです。今、岡山の三田医院に東京から来る子どもたちの100人中90人まで、この好中球の値が平均に達していない、とおっしゃっていました。移住前の血液検査で、娘の白血球も好中球も正常な値のギリギリでした。
私たちは三田医院で検査を続けていますが、この1年で、2人の子どもの数値は劇的に改善され、今は基準値にしっかり乗っています。この結果でショックだったのは、息子についてはみんなと同じように元気で何の心配もしていなかったことです。体は元気そうに見えても、確実に影響を受けているということです。このことがとてもショックで、私が自分の体験を伝えようと思うひとつの理由です。「うちの子どもたちだけの問題でない」という焦りのような思いです。
最後に、お伝えしたいことをお話しします。私たちが住んでいたのは、東日本の中では汚染の低い地域でした。線量から言えば、被ばくの影響だなんて、大笑い!なのでしょう。私もずっとそう思ってきました。ですが、そんな場所で、部屋の中、つまりは居住空間でさえ、娘は何かを吸っていました。移住直前、敏感になっていた娘の身体は、それを教えてくれました。正確に言うならば、娘の呼吸器が教えたのです。移住後の三田医院での診察で、娘の得体の知れない症状は喘息の症状であることを突き止めてくださいました。また、自律神経への影響もある、と今は思っています。
娘が吸っていたものは何なのか、 吸い続けているそれは人の身体と健康にどんな影響を与えていくのか、専門家の方々には一刻でも早く検証してほしい。私はずっと願っています。