アメリカ労働者困窮の原因はメキシコではない
(リアル・ニュース 2月号)『リアル・ニュース』のポール・ジェイによるインタビュー ハイナー・フラスベック
翻訳・脇浜義明
トランプ米大統領は、米国労働者の失業・貧困化の原因を移民の流入だと訴えて支持を集めた。しかし、本当の原因は何か?を経済学者=フランベック氏に聞いたインタビューの翻訳を掲載する。同氏はは、「巨大企業の資産ため込みこそが労働者の貧困化の原因であり、経済停滞を招いて資本主義そのものを崩壊させる」と主張している(編集部)
自滅への道走る資本主義
J:なぜ企業は大量のキャッシュを溜め込んでいるのいるのですか。それは経済にどんな影響を及ぼしますか。
F:これは世界的現象です。日本でも過去25年間、企業は資産の内部蓄積を高めています。その分、日本政府の負債は増加しています。ドイツでも、英国その他のヨーロッパ諸国でも同じです。企業は借り入れ→投資というマクロ経済的役割を果たしていないのです。このため、個人所得の一部が銀行に貯蓄され、銀行がそれを投資家に融資。投資家が借金で事業を起こし、人を雇用するというプロセスで市場経済が成り立つ、という論理は、もう意味がありません。企業がその役割をしないからです。
J:企業は、なぜ投資しないのですか。
F:経済の総合的原動力が弱いからです。原動力が弱いのは、人々が消費しないからです。消費しないのは、賃金が低いからです。リーマンショックの大不況が終わったというのに、米国人の名目賃金の伸びは2%以下で、1月には下落しました。
J:大不況以降、所得増加はありましたが、その90%が人口の1%の懐に入っています。一部に富が集中し、そこから出ないので、経済が動かないのですね。企業は何を待って金を貯めているのでしょう。
F:何を待っているのかわかりません。金の山の上に居座っているのは気持ちが良いでしょうね。その代わり経済が窒息します。企業が市場経済における役割を放棄し、政府が肩代わりして借金をして投資しているのですから、政府の負債は、どんどん増えるばかりです。本来それは政府の仕事ではないはずです。
J:トランプは企業減税するつもりです。減税された企業は経済に投資するでしょうか。
F:しないでしょう。企業内部の巨大な資産が増えるだけです。政府は、減税のための財源を確保するために、借金を増やします。典型例が日本です。25年間、日本のグローバル企業は純資産を増やしましたが、政府の負債はGDPの250%までに膨らみました。これが「民間企業セクターに力を与える」というネオリベラリズム政策であり、経済を疲弊させる政策です。資本と労働の間のアンバランスを恒久化して、労働者から力を奪い取ることで、資本主義は自滅への道を走っています。
通貨ギャンブル止められない政府
J:トランプは、億万長者が現金の山の上に座り、労働者の賃金は停滞、さらに政府の借金も増えている原因を、自由貿易とりわけメキシコのせいにしています。「メキシコが米国人から雇用を奪い、賃金を低くしている」と言っていますが…
F:嘘八百です。量的に見ても、メキシコとの貿易で米国は大きな損をしていません。メキシコの対米経常収支は、年間600億程度の黒字で、ドイツと同じです。メキシコとの貿易を変えれば米経済が繁栄するというのは、馬鹿げた屁理屈です。
長期のゼロ金利政策の方がより大きな問題です。ゼロ金利政策は、企業に現金をだぶつかせるだけで、投資を促進しませんでした。日本と同じです。日本政府は、市場経済における企業セクターの役割を元に戻す努力をしませんでした。政府を借り主の役割から救い出すことが必要です。企業減税ではなく、企業増税という政策も検討すべきです。一国だけの努力で出口は見つかりませんが、根本的解決への道です。ドイツの経済収支は黒字で、問題ないように見えますが、他国がしわ寄せを負っているのです。
J:共和党内でもトランプ政策に難色を示しているようです。彼の移民政策で大損するのは、カリフォルニアの共和党を支持する農業経営者であり、対メキシコ政策で困るのは、テキサスの共和党を支持する農家です。メキシコは、米の輸入先をテキサスからアルゼンチンやブラジルに変えようとしています。トランプは、ラストベルト(衰退した工場地帯)の労働者へのメッセージで選挙を勝ったようなものですが、工場のメキシコ移転を防いで雇用を守るというトランプ・メッセージをどう思いますか。
F:工場移転は、問題の一部でしかありません。それよりも、産業構造の変化が大きい要因です。製造業の役割が低下し、サービス産業などが主要となる変化が起きたのです。
貿易に関しては、経済実態と関係のない為替レートの変化やドル評価の影響が大きいのです。多国間貿易協定か二国間協定かという問題よりも、国際通貨制度を公正な評価に基づいて正常な形にする必要があります。米政府は、この60~70年間これに手を付けませんでした。投機に奔走するウォール街の怒りを恐れたからです。トランプは、「工場移転を止めさせる」という代わりに、「通貨投機を止めさせる」と言うべきだったのです。
J:通貨ギャンブルが問題の核心だというのですね。
F:そのとおりです。しかし、ウォール街の抵抗は強固で、クリントンは逆らうことができなかったし、サマーズ財務長官も関わりを避けました。背後の巨大な既成権益を恐れたからです。しかし、この金融取引は市場経済の原則に反しており、経済を疲弊させるものです。経済を治療したければ、ギャンブルでなく国際貿易を公正な取引にするために、道理に適った、誰もが納得できる制度を作り上げるべきです。
J:ウォール街の寄生虫的金融資本、グローバル取引から利益を得る企業こそが問題です。賃金低下は、米国労働者よりもメキシコ労働者の方が厳しいという事実に、トランプは触れません。そこには通常の経済活動、生産活動、再生産活動がありませんね。資本主義が自滅の道を走っていますね。
F:もしトランプが「政府はもうこれ以上借金をしない」と言えば、途端に米経済は死に、大不況になります。結局政府は、さらに負債を増加させるでしょう。市場経済ではなく政府経済となり、実質的に資本主義経済ではなくなります。しかし、資本は肥え太り続けます。これが永遠に続くのです。
シアトル市先住民の生活と環境を破壊するダコタ・アクセス・パイプラインに出資する銀行との取引を停止
truthout 2016・12・22
スタンディングロック・スー族の生活と環境を破壊する「ダコタ・アクセス・パイプライン」建設に反対する運動が盛り上がっているが、その事業に投資して金儲けする金融機関への批判も高まってている。今回、シアトル市が模範を見せた。米西部を地盤とする「ウエルズ・ファーゴ銀行」がこの事業に出資しているので、市は同銀行との取引を停止したのである。
クシャス・サワント市議は、同銀行との取引を停止する市条例案を提出。今年1月に票決し、全員一致で承認される見通しだ。市とウエルズ・ファーゴ銀行との取引契約期限は1年先なので、すぐに実施されるわけではないが、地方公共団体が社会的責任を自覚しない企業に対し取引相手に指定しないという見本を見せたという意味で、その意義は大きい。条例案提出に際し、サワント議員は、「取引業者を社会的正義に貢献する企業に限定することを通じて、環境、経済、人種的正義に貢献しよう」と説明した。
これはスタンディングロックの闘いにとって重要な時期になされた。それはパイプラインがミズリー川を渡る時期であり、水質汚染と部族の聖地を冒涜することに反対する人々と会社を支援する警官隊との間の衝突が激化していた時期でもある。最近、陸軍工兵隊は、「現在のパイプライン経路は好ましくない」という声明を出したものの、トランプが大統領に当選、パイプライン工事が強行されるかもしれないという時期でもあった。
パイプライン建設に投資している銀行は他にもあるが、ウエルズ・ファーゴ銀行は過去に不正事件を起こした経緯もあり、賛同を得やすかったという事情もある。過去5年間、200万ドルの架空口座を作って顧客の信用を傷つけ、その後始末のために従業員5300人の首を切ったが、幹部社員は1人も解雇されなかった。このスキャンダルのため、シアトル市が運営する電力会社シアトル・シティ・ライトは、同銀行との取引を止めた。
そういう経緯もあって、サワント提案に反対はなかったのである。すでに市議会はミズリー川水質擁護を支援する決議を採択しており、市民は先住民の闘いを支援するデモをしている。1月の議会通過はほぼ確実である。