アニメ映画「この世界の片隅に」が大ヒットしている。公開映画館数198館、興行収入15億円、観客総動員数110万人(1月22日現在)◆ストーリーは、広島市に生まれた絵を描くのが好きな少女・浦野すずが昭和19年、呉に住む海軍文官・北條に嫁いでゆくことから始まる。戦時で物資が欠乏するなか、すずは生活の切り盛りに奮闘し、粗末な食材も工夫して料理することで食卓を彩り、着物を仕立て直してモンペをこしらえる。そこには、日々積み重ねられる日常生活の輝きがあった。戦況が悪化の一途をたどっていた昭和20年、埋まっていた時限爆弾の爆発に巻き込まれ、すずはかろうじて一命をとりとめるが、大切な右手を失ってしまう。失意のなか懸命に毎日を生きようとするすずだが、8月6日、広島に新型爆弾が落とされ、呉も雷のような光と激しい振動に襲われる。そして、8月15日の終戦。その報にすずは激しく墳り、嗚咽するが、それでも毎日はやってくる◆戦時中の日常を詳細に描けば描くほど、戦争の不条理が浮かび上がる構図がこの映画にはある。たとえば砂糖は、闇市場で異常に高い値段で売られている。あるところにはあるのだ。単なる物資の欠乏ではない、当時の格差社会がきちんと描かれている。反戦を大声では叫ばないが、戦時下の家庭にも食卓をかこんだ幸せもあった。そしていかなる苦しい時代でも陽はのぼり、わたしたちは生活を重ねてゆく。(む)