鷲田清一が、ナンシー関の「信仰の現場」のことばを紹介しているのが印象深かった。ドッグショー、宝くじの抽選会、昼の公開生放送番組など、日常社会の価値規準とはズレたところで恍惚となる人々が群れ集う「別天地」(現に住む世間とは別の世界。俗世から離れた世界)がある▼その無邪気なまでの異常さにナンシーはひるむ。「全員が同じスキを持っているという安心感が、彼らを無防備にさせる」と。それはネットで匿名でネトウヨ的な書き込みをする者たちや、安倍や橋下やトランプを応援する選挙運動員たちやナショナリズムに熱狂する国民にも見られることだろう▼残念なのは、そういう、まともな自己抑制が効かない「別天地」が拡大し続けていることだ。嘘を平気で言って、アメリカでは差別主義者トランプが大統領になり、日本では安倍政権が沖縄差別をしても、トランプと仲良くしても、共謀罪を成立させても無頓着に支持率が高止まりしているということだ▼この先にはナチ党のヘルマン・ゲーリングが言った言葉が待っている。「もちろん、普通の人間は戦争を望まない。しかし、国民を戦争に参加させるのは、つねに簡単なことだ。とても単純だ。国民には攻撃されつつあると言い、平和主義者を愛国心に欠けていると非難し、国を危険にさらしていると主張する以外には、何もする必要がない。この方法はどんな国でも有効だ」。(H)