小児甲状腺ガン多発は福島原発事故が原因
「避難者への支援打ち切り」「帰還政策」は誤りだ
大今 歩
福島第一原発事故から6年目を迎えるが、事故は全く収束の兆しを見せず、今も8万人以上の人々が避難生活を続けている。ところが政府・福島県は、今年3月までに自主避難者(12539世帯)への住宅支援を打ち切ろうとしている(吉田千亜『世界』2017年1月号)。一方で、政府は帰還困難区域以外のすべての区域で避難指示を解除しようとしている。「東京オリンピック」に向けて「復興」をアピールするために他ならない。しかし、原発事故以後、福島県では小児甲状腺がんが多発している。
183人の小児甲状腺がん
福島県の「県民健康調査」検討委員会(以下「検討委」と略)が公表した甲状腺検査による、がんもしくはがんの疑いの患者は、先行検査(2011~12)と本格検査(2014~)を合わせると、183名となった(昨年12月27日現在)。
一般に100万人に2~3人とされる小児甲状腺がんの多発について、福島原発事故に伴う住民の健康管理に関する環境省「専門家会議」(座長、長瀧重信・長崎大学名誉教授)は、「今回の事故による放射線被ばくによる生物学的影響は、現在のところ認められておらず、今後も放射線被ばくによって何らかの疾病のリスクが高まることも可能性は小さい」(2014年12月「中間のとりまとめ」)と述べ、小児甲状腺がんの多発と福島原発事故との関係を否定する。また、検討委の星北斗座長も「原発が原因だとは考えにくい」(2015年5月13日)と述べる。
しかし、検討委の甲状腺評価部会の「中間取りまとめ」(2015年5月18日)は、次のように述べる。「こうした検査結果に関しては、わが国の地域がん記録で把握されている甲状腺がんの羅患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い」。このように同部会は、初めて福島県の甲状腺がんの発生が「数十倍のオーダーで多い」ことを認めた(『デイズ・ジャパン』2015年7月号)。
しかし、同文書は、多発が原発事故による被ばくにもとづくか、過剰診断かを明らかにしていないが、これをどう考えるか。以下主に津田俊秀氏(岡山大学)の福島県民健康調査の分析に基づいて考察したい。
多発の原因は福島原発事故
まず、福島県全体での小児甲状腺がんが全国に比べて20~50倍多発している。さらに、福島県内で比較しても、福島原発に近い地区ほど甲状腺がんが多発する傾向が顕著である。例えば、原発周辺地域では先行検査15名、本格検査17名のがん症例(全国比27・9倍、39・4倍)であるのに対し、相馬地方は先行検査0名、本格検査1名のがん症例(全国比0倍、27・4倍)である(『科学』2016年11月号)。
そして、検討委がこれまでスクリーニング効果(いずれ治療した方がいい疾患を早期発見)してきたためがんの症例が増加した、との主張に対しては、「甲状腺がん細胞は、先行検査ですでに検出されきっており、本格検査ではスクリーニング効果がほとんど起こらない」(『科学』2016年1月号)はずである。ところが、本格検査でも先行検査同様、数十倍のオーダーで小児甲状腺がんが発見されている。小児甲状腺がんは、スクリーニング効果では説明できないのである。
また、治療しなくてもよいがんを見つけたとする過剰診断については、原発事故以後外科手術を多く手がけた福島県立医大の鈴木真一氏(検討委のメンバーであった)が、次のように述べている。「(手術を受ける患者は)臨床的に明らかに声がかすれる人、リンパ節転移などがほとんどで、放置できるものではない」(『週刊金曜日』2015年9月18日号)。過剰診断ではなく、必要な手術だったのである。
津田氏は、「その多発は、原発事故以外の原因が考えられず、利用できるあらゆる根拠はこれを反駁できない」(『科学』2016年1月号)。さらに「福島県内での著しい甲状腺がんの多発は、もはや論争の対象ではなく、リアルな現実なのである」(『科学』2016年11月号)と述べる。チェルブイリ原発事故では、事故後5年目以降、小児甲状腺がんが急増した。福島原発事故後、6年を迎えた現在、検査は継続されなければならない。
福島県検査縮小の動き
ところが昨年7月3日、福島県小児医療学会(太神和廣会長)は、「(小児甲状腺がん)多発報告について(中略)一般県民の間にも健康不安が生じている」として、甲状腺検査の再検討を求める声明を採択した(『週刊金曜日』2016年9月1日号)。
さらに太神氏は、「検査を行うことによって、がんの不安が生じているという事実があり、(中略)がんが多数見つかったという事実だけが残って、新たな風評被害が生まれ、子どもたちを含む県民全体にとって不利益になる可能性」(「福島民友」2016年8月8日)がある、と述べた。これを受けて検討委の星北斗座長も、「検査見直し」に賛同した。全国の数十倍のオーダーで小児甲状腺がんが見つかって、福島県民に不安が生じているのに、風評被害だとして検査の縮小を求めるのは、本末転倒も甚だしい。
むしろ検査の拡大を
一昨年、8月25日には北茨城市で、子ども3名が甲状腺がん(受診者数4777人)であると発表された(「原子力資料情報室通信」496号)。福島県内の小児甲状腺がんの多発の原因が原発事故以外に考えられないのだから、放射線管理区域並みの放射線(4万ベクレル/㎡以上)に汚染された東北地方や関東地方に拡大して小児甲状腺がん検査を行うべきである。また、「福島県内の空間線量率の高い地域においては、妊婦や若年者を優先させて保養、避難を含む一層の放射線防護対策が望まれる」(津田俊秀『科学』2016年1月号)。
帰還政策の見直しを
政府は、2017年3月までに「帰還困難区域」以外のすべての区域で避難指示を解除するとしている。しかし、避難解除の基準は20mSv以下であり、一般の基準である1mSv以下には程遠い。子どもや妊婦にはあまりにも過酷な状況である。「現在促進されている高い空間線量地域への帰還政策は当分延期されるべきである」(同前)。
小児甲状腺がんは、原発事故が原因と考えざるを得ない。そして、現在も事故を起こした原発が出し続けている放射能は、甲状腺がん以外の多くの健康障害をもたらす。
避難者への支援打ち切りは許されないし、帰還政策は誤りである。