賀川豊彦の志を引き継ぎ地域に開かれた学校を
大阪労働学校学長 本山美彦
大阪市港区川口に開校した大阪労働学校は、4月1日に開学、当初学生は3名だったが、後期から定員の10名に達し、聴講生やネット授業も視野に入れる。11月からは、労組論の授業も始め、仕事帰りの労働者の参加も見え始めた。大阪労働学校学長・本山美彦さんに、開学の目標など聞いた。(文責・編集部)
-開学の目的は?
本山…支配体制の側は、危機感を持ってアベノミクスをはじめとする戦略戦術を練り、着々と仕掛けてきています。一方、これに対抗する左翼陣営は、その場しのぎで言葉だけの応酬・批判に終始しているように見えます。敵の戦略を深いところで分析・理解し、誰にでもわかりやすく現状を説明し、対抗陣営を豊かにしなければ、日本の変革はありません。
米国の社会運動は層が厚いし、欧州は伝統的にラディカルな思想を抱えながら統一戦線を形成しています。こうした面から見ても、日本は決定的に後れをとっていると言わざるを得ません。現状を変えていくには、複雑な世界を、しっかりした基軸を持って分析・思考できる人を作ることから始めねばならないと思っています。これが大阪労働学校の大きな目標です。
-学長としての抱負は?
本山…欧米社会運動の優れた点は、生活圏内の歴史から社会を変革するエネルギーを汲み取ろうとしていることです。地域には、多様な人間が多様な生き方をしてきた蓄積があり、その成果を掠めとっているのが資本主義です。その分岐点を探し出し、変革の方向性を示すべきだと考えてきました。そうした思いで学校運営に参加しています。
それは、スターリズムに陥らないような変革のプロセスを具体的に描き、地域に潜む変革の可能性や未来の萌芽を掘り下げていくことから、変革の思想は生み出されるのだと信じているからです。
大阪労働学校がある大阪市川口近辺は、150年前、神戸よりも広い外国人居留地でした。近代産業発祥の地でもあります。日本で最初の造幣局も大阪で作られ、日本初のイギリス植民地銀行であるオリエンタル銀行も川口に建てられていました。こうした地元の歴史が忘れ去られているのはとても残念なことです。
さらに、戦前の社会運動家として有名な賀川豊彦が、川口の近くの安治川教会に作ったのが大阪労働学校です。港区で操業していた造船所で大きな争議が起こり、それをみた賀川豊彦が、「指導的な労働者を生み出そう」として作ったのが大阪労働学校です。労働学校の学生となった労働者のために働き口として印刷所を経営するなど、働きながら勉強する労働運動の指導者を輩出しようとした試みです。学生を物心両面で支えようとした賀川豊彦の志を引き継ぎたい、という思いもあります。
賀川豊彦が注目したのが、神戸の頼母子講でした。最も貧しい人を助けるために皆がお金を出し合う共同献金システムです。日本の「講」にヒントを得て作られたのが、ユヌス氏が提唱したグラミン銀行です。学校が建てられた川口地域は、こうした歴史の宝庫なのです。
労働学校が最も重視しているのが、人間関係です。1限目の基礎ゼミナールとして「人間関係論」を開講し、学生と教師は食事も共にします。学生寮もあって、寝食を共にしながら学ぶという、経験を通した深い人間関係を重視しています。
ただし、閉鎖的になってはいけないので、週末=土・日には、市民講座を開講しています。来年度からは、労働運動、コミュニティ論など、テーマごとの講義も開講します。
2限目は、マルクスをはじめとした古典学習です。3限目は、現代を捉えるためのさまざまなトピックスを取り上げて講義をします。4限目は、協同組合論です。
11月からは、労働講座も始まります。幸い労組活動家は人材豊富なので、彼らに教師役を引き受けてもらい、私たちはアドバイスをします。
地域通貨の可能性
資本主義とは、富の保蔵手段としてある「お金」にすべてを集約することです。お金はあらゆるものに変換できます。資本主義の本質はお金の蓄蔵と増殖です。一方、貨幣登場以前の交換は、物々交換など蓄蔵できない=無くなるものでした。無くなることを前提にした物やサービスを通した人と人の関係が形成され、結果としてコミュニティが形成されていきました。
こうしたコミュニティ形成を目的とした交換通貨が地域通貨です。地域の助け合いを助長するのが地域通貨の特徴ですので、地域通貨の成功事例、失敗の原因解明をおこなうことは、未来社会の資源になると思います。さらに地域通貨を発展させるには、お金の流れを見えるようにすることが重要です。これが仮想通貨=ビットコインです。民衆が生きていくための通貨を研究することも含めて、大阪労働学校は、多様な人が多様な生き方をできているという実践をこの地域で作り出すための拠点でありたいと願っています。
社会主義革命の失敗を繰り返さないために
-開学して半年、抱える課題は?
本山…基本的に全日制として出発したのですが、仕事との両立はとても困難です。アルバイトをしながらといっても難しいし、卒業資格を得られるわけでもないので、学生が集まりにくくなっています。
来期からは、聴講生などパート学生主体の運営に変更します。労働組合員だけでなく、市民運動や地域運動家にも集まってもらい、学生の興味や要望を組み込みながらカリキュラムを再編成します。
本学で試験はありません。勉強が嫌いになるからです。レポートをインターネットで公開して、皆の目に晒されることを通して研究に励んでほしいと思っています。また、最近の日本の大学がひどい状態になっているので、疲れた先生たちは、ここで問題意識に溢れた学生と議論してリフレッシュし、ご自分の理論・体制を立て直していただければという願いもあります。
地元で定着するために市民講座をやっていますが、限界もあるので、市民運動と連携しインターネットを利用した授業も作っていこうと思っています。資金的には協力会員を募っています。「オルグの方法」も要望が強いテーマです。
社会主義革命の失敗を率直に認め、失敗を二度と繰り返さないが社会主義革命は必要だ、という苦しい局面を切り開かないといけません。大きく育つ可能性のある小さく光る宝物を、実験的でもいいから作って見せていかねばならないと思います。それは、協同組合だと思っています。
地域の国際的な連合をつくり、そうしたさまざまな社会がネットワークを作って国家を包み込んでしまうようなイメージです。そうしたリーダーとなりうる人材がここから育っていただきたい、というのが願いです。