市民が参院選に取り組んでみえてきたこと
ママの会@尼崎/弁護士 弘川 欣絵
11月6日、いたみホール(伊丹市)にて、「ママの会@尼崎」メンバーである弘川欣絵さんによる学習会が開催された。「だれの子どももころさせない」を軸に、参院選・野党共闘に大きな影響を与えたママの会。安保関連法が強行採決されるなか、「知識がないから、不安になっているだけだ」と夫から言われ、孤立する母親が相次いだ。そのなかで、フェイスブックなどSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を活用した、子育て世代の母親同士のつながりが各地ででき、ママの会の集まりで「同じような気持ちになっている人たちに出会えてホッとした」といった感想をもった人たちが多くいる。
弘川さんは、ママの会のほかに「ミナセン尼崎」や「あすわか(明日の自由を守る若手弁護士の会)」に関わっている。街頭でのスピーチを積極的に行い、「自分の言葉で話すこと」を心がけている。ノルウェーの選挙手法を真似たミナセンハウスの取り組み、また弁護士として、「あすわか大阪」による憲法カフェ291回以上の実施に協力している。
今回、編集部では弘川さんの講演内容を、(1)自民「圧勝」と兵庫選挙区の実情、(2)野党共闘への評価、(3)今後の取り組みにおいて必要な3つのこと、をポイントに紹介する。(編集部・ラボルテ)
参院選の結果、与党が議席の3分の2を取り、「圧勝した」といわれています。実際はどうなのでしょうか?
(1)自民単独ではなく、公明から「日本のこころ」、無所属改憲派議員4名を含めないと3分の2に到達せず、(2)自民は前回(13年)47議席を得ていましたが、今回は37議席で、前回比で10議席も減少し、(3)前回の参院選では一人区31議席の内29議席が自民ですが、今回は32議席の内21議席に留まっています。一人区は、高齢社会や農村社会で、自民が圧倒的に強く、これまでの一人区選挙21回中、自民が議席の9割以上を獲得したのは9回、8割以上となると12回となっています。そのなかで今回、野党共闘側が一人区で11議席取れたのは大きなことです。
一方で複数区をみると、野党共闘が難しかった事実があります。大阪では4議席中、維新が2議席と自公が獲得、兵庫では3議席中、自公と維新が獲得しました。野党共闘側は、大阪と兵庫ではこの3勢力に及ぶことができませんでした。神奈川や千葉は互角でしたが、神奈川は民進が候補者2人を出したことで票が割れて、自民が議席を獲得、千葉では民進が2人、共産が1人を擁立して、自民が2議席とっています。調整できていれば勝てた選挙区も見受けられます。
兵庫選挙区の結果ですが、95年~2010年まで改選議席数が2でした。2議席時代は、98年に民主系と共産が取ったことを除いて、自民と民主系で占めています。しかし、2013年から維新が議席を得て、こちら側の議席が失われています。
今回は改選議席が3となり、公明は最重点地区として兵庫県に力を入れました。自民中央は、公明候補の推薦を表明し、兵庫地方組織と党本部の間が険悪になったのですが、結果として、自民が64万、公明も54万票を取りました。兵庫県での公明の基礎票が34~35万票といわれているなかで、20万票を上回る票を取ったことになります。また、維新も53万票取っています。
一方で、民進が42万票で、共産は23万票でした。自公の勝利要因は、(1)組織選挙による票の配分、(2)危機感を盛り上げるなかで、票の掘り起こしを自公共にやったので結果的に基礎票よりも大きく票を伸ばしたのではないかとみています。維新は県全体で支持を得ており、内陸部・農村部で維新が票を得ている背景については、より分析が必要です。
民進は、組織力が明らかに減退しています。例えば、衆議院選挙(14年)では、地方議員が少ないことから、6選挙区で候補者を立てられなかった事実があります。「地方議員の支持基盤が、国政でも支持基盤になっていく」関係にあり、地方議員が少ないと、選挙は戦えないということがあります。共産党は野党共闘に前向きに取り組んだので大躍進するかな、と思ったのですが、票の伸びはなかなか厳しい状況です。
争点つぶしにかからない魅力的な政策を
私が今回、野党共闘に取り組んで考えたのは、「勝つために野党共闘が必要」ではなく、「勝負の前提条件として、野党共闘が必要」だということです。もっとも、自分の信条と同じ人に投票することが民主主義として望ましいことを考えれば、本来、野党共闘は望ましいものではありません。しかし、小選挙区制のなかで、与党側は候補者を一本化してきているのに、野党側が割れていたら、戦う構図にもならないわけです。戦うためには、野党側も一人に絞らざるえない。それが野党共闘なのだと思います。そして、勝負にできる前提を作ったうえで、「勝つためにはどうするのか」ということです。必要なことは、以下の3つだと思います。
ひとつは、有力な候補者を早く擁立すること。「有力な候補者」とは多義的です。「応援しやすい」「市民に近い」ことが応援する側の希望ですが、そういう方に限らないとも思います。保守層の強い地域では、いかに保守票を取り込むかの工夫が、候補者擁立の観点からも必要かもしれません。また、有力な候補者をギリギリまで探し、名前も知られていないなかで選挙まで残り2週間、では厳しいので早くに擁立し、地域市民と対話を繰り返し、投票するのが理想だと思います。
ふたつめに、魅力的な政策を公約として掲げてほしいということ。今回、選挙に取り組んでみて、自民党の争点つぶしがすごいなと思いました。例えば、野党が保育士の労働条件改善や同一労働同一賃金、奨学金問題を公約にすると、与党側も一応の公約として出してきます。実態は全く違うのですが、表面的には与党と野党間で同じ政策を掲げていることになり、与党に票が流れる、という図式です。
対抗するには、争点つぶしにかからない政策を打ち出すことが重要だと思います。中野晃一さん(上智大学教授)がお話しされていたことですが、安倍首相を嫌いな層は女性の方が多いので、与党に対する絶対的な対立価値として、選択的夫婦別姓を掲げ女性政策を打ち出していくというのは、とてもいいアイディアだと思います。選択的夫婦別姓は民進・共産が過去に法案を共同で提出しており、合意がとれています。しかも、自民は家制度の復活のようなものを求めていますから、選択的夫婦別姓は絶対反対ですよね。野党共闘側が選択的夫婦別姓を中心に打ち出し、女性政策を掲げ、少子化や経済政策などにも「つなげて」いくことで、絶対的価値で対峙していくことも選択肢だと考えています。
もう少し大きな枠組みで言えば、国家が家庭や教育、ライフスタイルなどに介入すべきか、多様な選択肢を市民に委ねるべきか、という絶対的価値の対峙とも言えるかもしれません。
最後に、〈市民〉が主体的に選挙に取り組める枠組みを、政党側にも問題意識を持ってもらい、一緒に作ってほしいと思います。ここでいう市民は、「主権者」という意味でもあり、子育て世代や学生など、「さまざまな人が入ってくる可能性が詰まった主催者」という意味です。多様な人が選挙に取り組む主体となれば、さらに多様な人が枠組みに入って来やすい。いま、民進党をはじめ、組織が弱体化しているなかで、新たな組織を探し出すのか? それとも〈市民〉に頼るのか? 野党は〈市民〉にもっと頼ってほしいと思います。