役所の「働き方」の実態報告
深見 史
「一億総活躍社会」という「一億火の玉」な気色悪い掛け声とともに、「同一労働同一賃金を実現し、正規と非正規の労働者の格差を埋め、若者が将来に明るい希望が持てるようにしなければなりません!」と「働き方改革」なるものが大声で叫ばれているが、さて、それを司るお役所の実態はいかなるものだろうか? 3年にわたる「潜入捜査」を終了した立場から、少しばかり報告する。
すでによく知られていることだが、労働局、労働基準監督署、ハローワーク、といった労働者を守る(?マーク付きとはいえ)現場の窓口においては、パート労働者としての非常勤職員が多数配置されている。当然ながら、非常勤職員も国家公務員として扱われる。
パート法(正確には「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」)においては、第9条で「通常の労働者と同視すべき短時間労働者に対する差別的取扱いの禁止」が、13条においては「通常の労働者への転換」が謳われ、「事業主は、通常の労働者への転換を推進するため、その雇用する短時間労働者について、次の各号(略)のいずれかの措置を講じなければならない」とされている。この法律が求める雇用の実現にあたっても、労働局に雇用された非常勤職員が事業主への指導にあたっている。パート法担当非常勤労働者は、事業所を訪問し、パートタイム労働者の雇用条件の均等を求め、正社員転換について制度化を指導する。
ところが、同法29条には以下の記述がある。「第二十九条 この法律は、国家公務員及び地方公務員(中略)については適用しない」。当然、この活動を行う非常勤職員は、永遠に非正規職員のままだ。 続いて労働契約法。労契法では18条に「有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換」として、「同一の使用者との間で締結された二以上の有期労働契約の契約期間を通算した期間が5年を超える労働者が、当該使用者に対し、現に締結している有期労働契約の契約期間が満了する日までの間に、当該満了する日の翌日から労務が提供される期間の定めのない労働契約の締結の申込みをしたときは、使用者は当該申込みを承諾したものとみなす」と、有期契約から無期契約への転換が定められている。労働局などにおける一般労働相談では、この無期転換についても指導が行われる。一般的にこれら労働相談を受けるのは、やはり非常勤職員である。この法律においても、22条に「この法律は、国家公務員及び地方公務員については適用しない」と付記されていることは言うまでもない。
労働者に職場を探すハローワークの職員は日給5500円(東京都ハローワーク)、再雇用なし、の低賃金非正規労働者である。非正規労働者の正規化を促す労働局の非常勤職員は、それらの正規化措置の「適用除外」であり、永遠に非正規労働者である。これは、ほとんど怪談に近い笑えない冗談だ。
私はこの現場におよそ3年間棲んでみた。公務員の削減、という国民向けの節約ポーズのおかげで、国家公務員のあらゆる職種の前線は、こうした無権利の「非常勤国家公務員」数十万人で守られているのだ、ということの重さを知った。ただ一つの利点、「定時で帰ることができる」というだけで、子持ちの女性はこの職場を離れない。後のない高齢労働者も離れない。文句も言わない。外はもっとひどい荒野だ、と知っているから。確かにそれは本当かもしれない。しかし、ここは労働者が駆け込むところだ。職を探すところだ。労働条件を改善するところだ。
今日も窓口では、絶対に生活できない賃金で働く非正規公務員が、労働者の悲痛な相談を受けている。