広島原爆5発分の「死の灰」を全国に拡散する恐怖の計画

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環境省、除染除去土壌の公共事業への再利用を決定

 

市民と科学者の内部被曝問題研究会会員 渡辺 悦司

 放射性物質は決して拡散してはならず、閉じ込め、管理しなければならない。だが、政府はこの原理を公然と大々的に踏みにじる一歩を踏み出した。環境省は、2016年6月30日、除染作業によって生じた大量の残土のうち、放射線量が1キログラム当たり8000ベクレルの基準を下回るものについて、全国の公共事業で広く再利用する方針を決定した(「再生資材化した除去土壌の安全な利用に係る基本的考え方」)。
 ここで「ベクレルとは放射能量の単位で、1秒間に1回の崩壊を起こす放射能量が1ベクレル(Bq)である(セシウム137では約14億個の原子が存在する状態)。また、福島原発事故以前の基準は100Bq/kgであったことも付け加えておく。
 再利用が予定されている用途は、道路・鉄道の盛り土、海岸防災林の盛り土、防潮堤の盛り土、廃棄物処分場土堰堤、土地造成、水面埋め立てなど(左上図)。これらは住民の生活圏であるだけでなく、台風などによる洪水や高波、地震や津波による浸食・破損・流失によって、住民を直接に被曝させる危険があることは明らかである。
 こうして人々が知らないままに、生活圏が放射能汚染される危険性が高い。子どもの遊び場や、通学路、学校、スポーツ施設なども危険にさらされ、しかもどこが汚染されているのかが分からない状態になる。また、除染残土の再利用は、土木・建設部門や運輸・交通部門を原発や医療部門と同様の被曝労働に変えてしまう。

すでに23万トンが海岸防災林の盛り土に

 これに先立つ6月8日、環境省指定廃棄物対策担当参事官室は、「地球の友」「原子力資料情報室」など市民団体との交渉の中で、すでに再利用が行われていることを認めた(「原子力資料情報室通信
2016年7月1日号)。
 同室担当者は「(環境省)『福島県内における公共工事における建設副産物の再利用等に関する当面の取扱いに関する基本的考え方』に基づき、福島県の避難指示区域内で発生した3000Bq/kg以下の災害がれき(コンクリートがら)23万トンを避難指示区域の沿岸部で、海岸防災林の盛土材に使用したと回答した。環境省は放射性物質濃度測定を行い、セシウムが3000Bq/kg以下であることを確認した上で業者に引き渡したというが、『業者がどの場所でどのくらいの量を使用したかは業者に任せているためわからない、全量を完全に使い切ったかどうかわからない』と説明。業者に対しては30cm以上の覆土を行うように求めているが、『実際に確認したわけではないため、業者が本当にその施工を守っているかどうかわからない』というずさんな管理の実態が明らかになったという。また、同担当者は、地元自治体が風評被害を懸念していることを理由にして、再使用された場所も明らかにしなかった。きちんと管理もされないまま、旧基準の80倍の放射性物質が、住民や労働者の目から隠された形で、ばらまかれようとしているのだ。

放射能汚染除染土の総量は?

 危険はそれだけではない。政府の基準では、汚染の少ない土と混ぜて見かけの放射能濃度を下げれば、総量としてはいくらでも再生利用ができる。汚染残土の量はきわめて大量である。それに含まれる放射能量もまた超巨大であり、広島原爆が爆発した際に生じた「死の灰」(とくにセシウム137)の量と十分に比較可能である。
 除染土の総量とその放射能汚染度の公式推計は、環境省「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略の取組状況(2016年6月7日)
に掲載されている。同資料によれば、除染土の総量は、福島県だけで、最大約2200万立方メートルと推計され、含まれる放射能の濃度は、セシウム137ベースで表1の通り推計されている。このデータから除染残土に含まれる放射能量は容易に計算することができる。

除染土に広島原爆5発分の「死の灰」

 詳しい計算過程は省略して結果だけを述べよう(表2)。政府がまず最初に再資材化して公共事業などで利用しようとしている8000Bq/kg以下の除染土約1000立法メートルだけで、53兆ベクレル(広島原爆の約6割の「死の灰」)が含まれる。除染土の合計では446兆Bq(広島原爆の約5発分)、「減容化」によって濃度が高まった焼却灰では2213兆Bq(広島原爆の約25発分)となる。このような戦慄すべき規模の放射能を、政府・環境省は福島県内と全国にばらまこうとしているわけだ。

住民の追加被曝量「年間1mSvまで安全」と環境省

 前述の環境省文書には、簡単に計算できるにもかかわらず、除染土に含まれる放射能の総量をどこにも記載していない。それどころか、国際放射線防護委員会(ICRP)を引用して、再資材化措置による住民の追加的被曝量は、年間1mSv以下であれば「放射線影響に係わる安全性」が確認されているとしている。それに基づき、住民に対して「安心・安全」の「理解・信頼醸成」に取り組んでいくとしている。
 つまり、残土だけで広島原爆の5発分、焼却灰を含めれば30発分の量の「死の灰」を全国にばらまくとしても「何の健康影響も生じない」とし、国民はこのことを「理解・信頼」しなければならないと言っているわけだ。
 福島原発事故は、日本政府の推計でも広島原発168発分の「死の灰」を放出した(実際には大気中で約600発分、汚染水・海水中を含めれば約4200発分)。だが、政府見解では、福島原発事故で何の健康影響も「予想されない」という。だから、除染土ほどでは頭から問題にもならないというわけだ。
 環境省文書がICRPに言及しているので、ICRPには被曝リスクモデルがある事実を指摘しなければならない。それを使って、例えば(控えめの想定だが)1000万人の住民が再資材化措置によって追加的に年間1mSv被曝することになった場合の健康被害を簡単に予測できる。
 ICRP2007年勧告のモデルによれば、この場合、1年間の被曝に対応して、生涯期間で1715人の追加のがんが発症し、565人のがん死者が出ることになる。これが毎年続く。さらにこれはがんだけである。しかもこのリスク係数は、数十分の一から数百分の一の過小評価であると批判されている。これらの点については次回に検討しよう。

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