アリ・アブニーマ(電子インティファーダ、6/25)
翻訳・脇浜義明
イスラエルの「ローフェア」国内法や国際法を不正に援用して市民団体や人権団体を封じ込める戦略的訴訟グループ
「なぜ、パレスチナ人という言葉を使うのです? パレスチナ人は存在しません」―今月ニューヨークで開かれたイスラエル・ロビー工作員集会でブルック・ゴールドシュタインは、こう宣言して大喝采を浴びた。彼女は、「敵に思い知らせる」ことを目的にする訴訟グループであるローフェア・プロジェクトの理事長である。
「敵」とは、パレスチナ連帯活動家や支持する学生だ。このグループは、米国の反パレスチナ活動で主導的な「米国ユダヤ人組織会長会議」の援助で設立された。集会では、米国内で活発化するBDS(イスラエルボイコット)運動を潰すさまざまな戦略が提案された。集会の動画がYouTubeに流され、ゴールシュタインの「パレスチナ人は存在しません」という言葉への非難がソーシャル・メディアに殺到、翌日に消された。
彼女はスピーチで、イスラエルを立派な民主主義国として宣伝する戦略が、パレスチナ連帯運動を止めることができなかったので、「戦略を変えて、イスラム原理主義者などが基本的人権を蹂躙することを非難しよう」と語った。イスラエル擁護のために、ムスリム嫌悪を扇動するやり方は目新しいことではないが、ゴールドシュタインはその再来を告げたのだ。
親イスラエル派の世論調査員は彼女に「左翼や人権運動家の用語を使え」という助言を行った。リベラルの感性に訴えるような、「反ムスリムメッセージを出すようにせよ」との助言だ。「公民権運動の用語を使ってBDS運動を非難せよ」とも言っている。「アパルトヘイトに反対だって? じゃあ、イスラム原理主義者のジェンダー・人種・宗教に関する、アパルトヘイトを話してやりなさい」と語り、全米の主要大学で「イスラム主義者アパルトヘイト週間」を実践している報告を行った。これは人権派学生の「イスラエル・アパルトヘイト週間」への反撃である。
ゴールドシュタインは「人権派弁護士」と自称する一方で、ムスリム嫌悪企業から多額の献金を受けている、オランダの反ムスリム政治家ヘルト・ウィルダース(極右政治家。イスラエルでの生活経験があり、反ムスリム映画を製作した)との親交を自慢している。ウィルダースの反ムスリム活動は過激で、親イスラエル組織名誉毀損防止委員会から非難されたほどである。
「イスラエルボイコットはユダヤ迫害行為」との詭弁
ゴールドシュタインは「BDSは新反セム主義か?」というテーマでスピーチした。集会は世界シオニスト機構、米国シオニズム運動、ニューヨーク・米国ユダヤ人連盟の共同主催で、イスラエルの国連大使ダニー・ダノンが挨拶に立った。米国ユダヤ人組織会長会議の副執行委員長マルコム・ホーヘンラインも挨拶に立って、「BDSは命にかかわる病気。癌を放置したきたので、今や米国の各大学に転移した」。彼はパレスチナ人の自由、正義、平等を求めるBDS運動を、「ユダヤ人が先史以来経験してきた迫害と同じ」と説明。「ローマ人がユダヤの名をフィリスティアに変えた時から始まった運動だ」と、古代史と神話に遡って説明した。そういうことをソーシャル・メディアを使って今の大学生に伝えよと、彼は親イスラエル活動家に訴えた。今の大学生はこれまで最も多様で差別をしない世代であるという事実を無視して、ホーヘンラインは、「今の学生は無知で、中身のない世代だから、繰り返し宣伝を流し込むのだ」と強調した。
またゴールドシュタインは、ローフェア・プロジェクトは、サンフランシスコ州立大学やカリフォルニア大学アーヴィン校に対しタイトルVI(1964年制定された公民権法第6章を指す。連邦補助金支給は人種、皮膚の色、出身国を理由に差別してはならないと規定 ―訳者)訴訟の準備中だと報告した。最近、親イスラエル団体は、公民権法タイトルVIに基づいて大学を告発する運動を展開している。告発理由は、パレスチナ連帯運動によってユダヤ人学生への敵対的雰囲気が作り出されているのに、大学当局はユダヤ人学生を保護する対策を講じていない、というもの。しかし、米国教育省公民権調査局の調査によれば、この告発にはなんら根拠がないと判断され、ほとんど取り上げられていない。ゴールドシュタインらによる訴訟準備は、パレスチナ連帯運動への新しい角度からの攻撃である。彼女のグループは、パレスチナ連帯活動のどんな些細なことでも警察に告発し、「連帯活動に対して刑法の適用をさせるよう地方検事に圧力をかける」ことが目的だ、と語った。
ゴールドシュタインはまた、入植地に関する国際世論の批判に反論し、「入植活動は違法ではなく、入植地産物を輸入禁止とするためにイスラエルからの輸入品に生産地を明記させるEUの措置は国際法違反だ]と主張している。
ダノン国連大使も、「パレスチナ連帯活動を抑える活動をイスラエル国家は全面的に支持する」と吠えた。「我らの敵に立ち向かおう。イスラエル・ボイコットをする人間と闘い、勝とうではないか」。まるで戦争を呼びかけるような激しい言葉に応えるようにニューヨーク市立大学の大学院生ユーヴァル・アブラムは、「パレスチナ連帯活動をやる学生にそんなことをやればリスクが大きいことを知らせる必要がある。鼻血どころではすまんことを思い知らせてやろう」と言った。彼は、元イスラエル兵士であることを明らかにした。
「目的は敵に思い知らせることです」とゴールドシュタイン。「そんな活動に従事していたら大きな懲罰を受けるぞという抑止メッセージを送ることです」と締めくくった。