市民と科学者の内部被曝問題研究会会員 渡辺 悦司
関西電力高浜原発4号機は、再稼働した後、突然、自ら緊急停止した。大津地裁の仮処分によって運転が停止されるよりも前のことだ。産経新聞(インターネット版)から、この「失態」シーンの描写を引用しよう。それを誇張とか扇情的とかと批判できる者はいないはずだ。同紙は、再稼働推進を主張する原発推進勢力の宣伝機関だからだ。
「『(電気を送電線に)投入します。投入!』
2月29日午後2時ごろ、高浜原発4号機の中央制御室。運転員がレバーをひねった途端に警告音が鳴り響き、運転員らが慌ただしく動き出した。関電幹部や福井県、高浜町の担当者が居並び、報道のカメラが撮影するなかで起きた事態だ。騒然とした室内に驚いた人も多いだろう。
高浜4号機は、その3日前に再稼働したばかりで、その日は発電機を動かして発電と送電をスタートする予定だった。それが、まさに発電機と送電線網をつないだ瞬間の出来事だった。発電機などの故障を知らせる警報が鳴り、発電機は自動停止。タービンや原子炉が自動停止した。
関電にとっては、1月に再稼働した高浜3号機に続く2基目の再稼働で、原発の安全性を広くアピールする場になるはずだった。ところが、4号機は直前に1次冷却水が漏えいし、原因究明まで再稼働への作業を止めている経緯もあり、トラブルが相次ぐ結果になった。
関電幹部は『あってはならないタイミングでのトラブル。ふがいない限り』と肩を落とした」
(藤谷茂樹記者「現場力の『劣化』? 関電、本当に危機かも 規制委も『あ然』高浜原発の緊急停止」より。同記事の意味については後に検討する)。
関電「設定ミスが原因」と規制委に報告
このトラブルについて関電は、3月9日に、原子力規制委員会に報告を送り、概ね次のように説明した(「高浜発電所4号機 発電機自動停止に伴う原子炉自動停止について」)。
(1)「発電機と変圧器の故障検出を受けて発電機を送電系統から切り離す信号を出す継電器」あるいは「保護リレー」(回路ブレーカーのこと、デジタル化工事中で、別の継電器を「代替として暫定運用」していた)が、このような「運用の変更」を「考慮した設定値としていなかった」(主変圧器定格電流の30%で動作する設定のままであった)ため、(2)送電線網への接続時、送電線と発電機との波形のズレ「位相差]によって、送電線から発電機の方向に(逆方向に)、過大な(上記設定値30%を超える35%の)逆電流が流れ、(3)当該リレーが作動して、(4)送電線への接続を遮断し、(5)「発電機が自動停止するとともに、タービンおよび原子炉が自動停止した」と。
対策として関電は、保護リレーの設定値を、現行の主変圧器定格電流の30%から90%に引き上げ、このリレーが作動する領域を大きく減らしたとした。要するに、保護リレーが働かないように保護リレーの容量を大きくした、というわけだ。家庭で言えば、ブレーカーを30アンペアの代わりに90アンペアにするようなものだ。
設定値を定格の90%まで上げて安全か?
ただ、報告書によれば、「過去に他のプラントで当該リレーに該当するリレーを発電機内部故障の検出の代替として(今回と同じように)運用し、並列操作(送電線網への接続)を行った実績がある」ことから、「設定値の変更は必要ないと判断していた」とされている。今までは30%の設定で何の問題もなかったわけだ。
だから、今回なぜ保護リレーが作動するほどの逆電流が流れたかという根本的な原因を明らかにしなければならないはずである。
前述の産経新聞記事は、接続レバーを操作した運転員がタイミングを取り違えた人的操作ミスの可能性を指摘して、関電の「現場力の劣化」を警告している。だが、関電報告書は、運転員によって「正常に操作が行われていることを確認した」とし、過大な逆電流の原因についてまったく何の指摘も示唆も行っていない。
保護リレーの設定値を事前に変更しなかったことは、今回のトラブルの「原因」ではありえない。裁判所の仮処分がなければ、関電は、トラブルの真の原因を明らかにしないままに、設定値を上げるというあまりにも安易で杜撰なやり方で半月後に再度再稼働しようとしていた。
このような設定値の変更は、安全上も重大な問題をはらんでいる。設定値を主変圧器の定格電流の90%にまで高めた場合、定格電流ギリギリであり、安全上の余裕が極めて少なくなる。保護リレーが作動する際、瞬間的には定格以上の逆電流が流れる可能性があり、主変圧器はもとより発電機の各部分や他の機器に悪影響が及ぶリスクは十分に考えられる。このような定格電流の安全上の余裕を考慮して、今まで定格の30%に設定されていたはずなのである。
あまりにずさんな再稼働
だが、ここでも最大の問題は、「保護リレー」という安全上重要な機器の一つが事前にまったくチェックされることなく原発の再起動が行われた事実にある。再稼働作業における関電の杜撰さは、産経すら「関電本当に危機かも」と示唆するとおりの危機的レベルにあるというほかない。
関電報告書は、「対策」「再発防止に向けた取り組み」という項目に、これから行う措置を列挙している。裏返せば、これらの措置は、今まで実行されてこなかったのだ。
「過渡変化(送電線への接続)時を含めた定量的な電流評価」「過渡電流(送電線接続時の電流)検討のチェックシートの活用」「過渡変化時の潮流(逆電流のこと)に関する社員教育」「メーカーで実施する対策の実施状況の確認」「設備の追加・取替・撤去を行った工事での保護リレー、水位計、警報等の設定値等の変更の妥当性の確認」(!)―これらすべてが行われることなく今までの原発の稼働や今回の再稼働が進められてきた。
規制委員会もまた、そのような関電側の杜撰な安全管理体制をチェックしないまま再稼働を承認してきたのである。恐ろしいことだ。
幸い、高浜原発は、脱原発運動と広範な世論をバックに、稼働していた3号機も含めて、大津地裁の運転差し止めの仮処分によって停止された。だが、関電には何の反省もない。現場の危機的状態をそのままにして、何とか裁判所を動かし、原発の再稼働への策動を進めている。あたかも、第二の福島級苛酷事故に向かって突き進むかのように。