天声人語は「容疑者の発した言葉のむごさに、私たちの社会が少しずつ傷つけられている気がする」と言うが、すでに十分に傷ついている社会こそが彼を生み出し、彼の言葉を生み出しているように思う。これまでのように「誰でもよかった」とか、「死刑にしてほしいからやった」とかとは、ずいぶん違う。彼は冷静に、彼がこの世から排除すべきと考えている人々を抹殺していった▼彼の背後に、ムダをなくすためにという理由だけで大阪市をなくそうとしている橋下の影が見える。橋下は言葉によってどれだけの人々を殺してきたか。そして、そんな彼に喝采を送る多くの人たち。あるいは、生活保護の受給者がパチンコをしているのを見た市民は市に通報するようにという条例を作った、兵庫県のある町の市長とか、そんな条例を皆で認めた議員たち。彼もまたムダをなくすためにと、地元の民間企業の部長から転進してきた。節電のために市庁舎内は暗い▼効率とスピードばかりが求められて社会がきしみ、ついていけないものは振り落とされていく。お互いで監視し合い、ますます世間は狭くなっていく。誰もが年をとれば体は動かなくなり、頭も回らなくなる。次はきっと老人ホームを襲うヤツが出てくるに違いない▼あくせくと豊かに生きるより、スローに貧しく生きたい。ぎすぎすと競争するよりも、手を取り合って協働したい。とは言うものの、自分自身の中に彼が巣くっていないか。彼を生み出したのは、私たち自身なのだから。
(や)