宮古平和運動連絡協議会共同代表 清水早子
那覇から300キロほど南に位置する宮古島は、サンゴ礁に囲まれサトウキビの葉が風に揺れる、山も川もない平坦な島である。人口5万4千人の、観光と農漁業と畜産業の島だ。
過去の戦時中には、5万人の島に3万人の日本兵が駐屯し、判明しているだけで17カ所の「慰安所」があり、朝鮮、台湾からの「慰安婦」とされた少女や女性たちが置かれていた。
沖縄の「本土復帰」の際に、占領していた米軍から自衛隊に引き継がれた航空自衛隊のレーダー基地が、島の中央にある。この島の離島である伊良部島との間に、約4キロの大橋が昨年1月に開通した。
伊良部島と今は陸続きになっている下地島には、1973年にパイロットの訓練飛行場として開港した下地島空港があり、ローカルな空港としては稀な3キロの滑走路を持つために、この40年来、ずっと軍事利用の危機に見舞われてきた。普天間基地の代替地としてたびたび浮上するこの下地島空港の軍事利用反対運動に、私たちは20年以上取り組んでいる。
地下水汚染の危険性
10年くらい前から、「南西諸島への新陸自配備」が取り沙汰され、伊良部大橋が開通し、宮古島と伊良部島・下地島が直結するそのときが危ないと考えていた。しかし、昨年5月11日に防衛副大臣が来島、宮古島市下地敏彦市長に800~900名のミサイル部隊を配備する計画の説明をし、ふたを開ければ、配備候補地は島の中央部の2カ所。そのうち1カ所は飲料水も地下水に頼っている宮古島の水源流域の真上である。
そこに覆土式の弾薬庫、覆道式射撃訓練場、隊舎、地下司令部を建設し、地対艦・地対空ミサイルを配備する計画である。大型船舶(実は軍艦?)受け入れのための港湾の整備も進んでいる。
空自レーダー基地には国際的な盗聴施設・地上波傍受施設も近年建設され、その近くには、高度なGPS機能を持つ「準天頂衛星」の管理局も完成した。陸海空の軍事化だけではなく、米国の無人攻撃機などに寄与する宇宙空間の軍事利用でもある。文字通り、「軍事要塞化」である。
宮古島の水源は一度汚染されたら回復できない特殊な地形の地下にあり、活断層(宮古島には県内最多の活断層がある)の上でもある。地下水保全条例により、水源に影響を及ぼす構造物を建設する場合は審議会にかけなければならない。
市役所包囲行動
防衛局は計画を示す協議書を市に提出。しかし、審議会は非公開で行われ、市長は議事録も公開しない。数度にわたる審議会学術部会で審議された後3月30日(この前日、戦争法施行の29日、私たち宮古島・石垣島の住民代表団は国会前に結集した3万7千人の前で、琉球弧の島々へのミサイル配備の危機を訴えた)に防衛局は突然、協議書を撤回した。
1カ月後、少しだけ配置をずらして新たな協議書を市に再提出、市長は、新計画では水源を外れたので審議会の事前協議は必要なしとの会見をした。しかし、実は審議会学術部会で「配備NO」の結論が出ていたことを市長は市民に隠していたことが、私たちが開催したシンポジウムで審議委員から暴露された。しかも、学術部会の答申を市長は改ざんしようとしていたことも報道で明らかになった。
配備計画が明らかになる3カ月前に、市長は、防衛省へ「買いなさい」と島を売り渡しに行ったとの防衛省内部文書のあることも知られている。全島民の命を危険に晒しても、基地を呼び込もうとする市長は、犯罪的である。
5月23日、私たちは200人の人間の鎖で市役所を包囲した。25日には市長室前へ押しかけ、市長を取り囲み、直にガンガン追及した。
5月30日には、おおさか維新の会の松井代表と下地幹郎(宮古島出身)衆院議員と橋下徹政策顧問が下地島空港を視察し、会見した。「下地島空港を米軍の訓練施設に」と、宮古島副市長に提案した。
沖縄を再び戦場にさせない
島を売る市長が防衛局を誘導し、故郷を米軍に売る国会議員が画策して進行するこの離島の軍事要塞化は、この国が戦争に向かっていることを具体的に指し示している。
6月11日、私たちは「いのちの水を守ろう!自衛隊配備を止める市民集会」とどしゃぶりの雷雨の中のデモ行進を、150名で敢行した。
翌12日には防衛省、沖縄防衛局が住民説明会を強行し、配備計画を次のステップに進めようとしたが、会場の外では抗議のプラカードで包囲され、会場内では反対する市民の厳しい追及があった。
配備賛成派の市民や議員も、島民の「いのちの水」は守らねば暮らしてはいけないことに、気づき始めている。昨年の6月議会で配備賛成の陳情を可決した与党多数の市会議員たち10名が、この6月15日、市長に「水源地への配備計画に反対」の要請を出した。
「議会の民意は逆転した」と地元新聞は書くが、島の軍事化を止める闘いはこれからが正念場であり、辺野古新基地建設阻止と両輪の闘いとして、沖縄がふたたび戦場になることを止めなければならない。