編集部・脇浜義明
誰が敵で誰が味方か、誰が「悪」で誰が「善」か分からんと、よく言われる。人々は敵・味方、善・悪の色分けがないと安心できないようだ。だからプロパガンダに利用されやすいのだろう。いずれにしても、多少の整理があった方がよい。わかっていることを羅列する。
中東の2つの核は、事実上イスラエルの隠れた同盟国の役割を果たすサウジとイランだ。サウジ派はエジプトおよび米国など西側と同盟を結ぶアラブ諸国で、スンニ派カリフ制を主張するISISとも秘密裏に関係している疑いがある。イラン派には、シリアやイラクの多数派であるシーア派やレバノンのヒズボラがおり、ロシアが支持している。こういう図式の中で、「敵の敵は味方」というややこしい錯綜がある。
トルコは一応世俗国家だが、スンニ派の力が強く、どうやらISISとも密かな関係がありそうだが、表向きの世俗国家はISISを「テロ組織」と規定して戦っている。アルカーイダと協力関係にあるシリア自由軍という反乱軍を支援し、「反シリア」で米国やサウジと利害が一致しているが、シリア政府やシリア自由軍とも距離を置いているクルド人を敵にしている。そのクルド人とシリア政府は、ISISと戦っている。クルド人はアラブ人でもトルコ人でもなく、イラク、イラン、トルコ、シリア、レバノン、イスラエルに分布、そのほとんどがスンニ派だ。米国の傀儡政権イラクは米国の支援でISISと戦っているが、米軍機がISISに援助物資を投下するのを目撃して、米国に抗議したことがある。シリア政治を支持する反米ヒズボラは、ISISとの戦争では米軍と共同歩調。イランもシリア政府支持で反米だが、ISISに対しては米国、ヒズボラ、シリアのクルド人と共闘している。
よく「スンニ派とシーア派の宗教戦争」と言われるが、上述の複雑な関係を見ると、明快な宗教対立とは言えない。両派の違いは、預言者ムハンマドの後継者をめぐる違いだけで、長くくすぶり続けている程度の対立であった。ところが、冷戦時代に米国が宗派の違いや原理主義を利用したこと、かつてイラク革命の波及を恐れて米軍がレバノン侵攻したように、イラン革命の影響を恐れたサウジがイラン打倒政策(イスラエルとの事実上の共闘)に踏み切ったことから、対立が先鋭化した。中東が旧ユーゴのように小国に分裂して争い合っているのが、米国とイスラエルにとって都合がよいのだろう。
喜んでいるのがイスラエルだ。アラブ諸国の錯綜的対立の中、こっそりイスラエルとの軍事的つながりを求める国もある。エジプトがそうだ。エジプトはガザのハマスを「ISISの一派」と断定し、ガザいじめでイスラエルと共同戦線を張った。有利な立場に立ったイスラエルは東進し、最近では最大のムスリム国・インドネシア、インド、中国、ロシア、日本に手を伸ばし、政治的経済的関係を作り上げている。
しかし、中東における対イスラエル関係は、まだ影の関係である。外交関係があるエジプトやヨルダンでも、民衆の反イスラエル感情が強く、サウジやその子分である湾岸諸国はまだイスラエルと公式国交を結んでいない。イスラエルのパレスチナ占領がその原因で、換言すると、パレスチナ─イスラエル問題がある限り、イスラエル・アラブの関係は正常化しない。
さらに換言すると、パレスチナがばらばらになっているアラブを結びつけている細い糸である、と言える。パレスチナの大義からアラブの大義を見直すことが、このカオスから抜け出す道ではないだろうか。