園良太(福島原発事故による健康被害者の会)
「被ばく」の個人化
1580号で報告した「関東圏の放射能被害」に関する集会の第2回目が5月5日、早稲田の交流スペース「あかね」で開催され、前回の2倍を越える50人が参加。健康被害の報告がメインだった前回を受け、今回は、現在の被害者と将来被害者になりうる全ての人たちに何が必要かを話し合った。
まず、現代思想の分野でフェミニズムなどを論じてきた松本麻里さんが、事故後の体験から話を始めた。松本さんは事故後に具合が悪くなったが、被ばくとの関連を語っても思想・運動の仲間の反応は冷たく、無関心。何度も人間関係の割れを経験したそうだ。
再稼働反対と同時に被ばく被害こそ重要な問題だと思っていたが、ついに松本さんの同居人もがんだと判明。今は、看護を通して病気と向き合いながらの学びの最中だそうだ。「被ばく」は、政治的な課題なのに個人化され、『美味しんぼ』の鼻血論争でもわけのわからない「科学」の反論に負けてしまっている。それを跳ね返すのはフェミニズムの歴史的な闘いと同じという。
(1)まず被害者が話しやすい環境を作り、自助組織化し、(2)自己完結せず、世界に開かれていること、さらに(3)原因と結果を直接結びつけるのはほぼ不可能なので、被害の状況について情報を残していくこと、が大切である。これは統計的な対抗であり、被害当事者の運動で積み重ねられてきたことだ。事故後の5年は序章に過ぎず、先は長い。もう一度原点に立ち返って、被ばくについて語っていく必要がある、とまとめた。
続けて、具体的な被ばく被害の増減の話に入った。千葉県に住む田中さんが、関東のホットスポットとして有名な松戸市と柏市について報告した。(1)松戸市では、2014年6月から15年3月までに18歳以下の子ども147人が甲状腺がんの検査を受け、「異常なし」が35人しかおらず、残りは全てのう胞が見つかっている。(2)柏市では、173人が検査を受けて「のう胞あり」が112人、「異常なし」は61名だった。市が把握した若年者だけでもそれだけの数がいるのである。
事実を隠す行政
しかし松戸市は、精密な検査が必要な「B判定」を「経過観察」とする「A2判定」に書き換え、小児甲状腺がんが確定的な「C判定」についても「専門病院を紹介」で済ませようとしている。福島検討委の「平成23年度」発表以来4年ぶりに「C判定」(1名)が出たため狼狽し、情報の隠蔽と危機管理を優先させている。絶対に許されない。(3)宇宿市でも、半数の子どもが「異常あり」という状況だった。
続けて司会=園が、カナダ在住の工学博士・落合栄一郎氏がまとめた事故後の各種病気の増加を紹介した。福島県立医大病院の記録をみると、2010年と13年を比較すると、小腸がんが4倍、脳出血や大腸がんや前立線がんが約3倍、その他のがんや白内障や狭心症も増加している。
また全国の病院は、診察実績を患者数や手術数のリストとして公表しており、それら全ての病院データを集計した結果、甲状腺がん、心筋梗塞、急性白血病が、福島と関東全体で増えていることがわかった。こうした病状データ集積が、非常に重要だ。(※)
次に、「福島集団疎開裁判」をけん引した柳原敏夫弁護士は、事故後に福島へ行って原告を探し、郡山市へ子どもの集団疎開を求める裁判を起こした動機から話し始めた。
日本で最初の遺伝子組み換え作物の裁判に2005年から関わった柳原氏は、同裁判で繰り返された「ただちに影響はない」との文言が、原発問題でも繰り返され、「大問題になると思った」という。
憲法26条を根拠に、子どもたちが被ばくを避ける権利を求めて訴えを起こしたが、「裁判だけでは避難はできない」と思っているそうだ。このため、チェルノブイリ事故後に被ばく者の生存と権利を守るために作られた「チェルノブイリ法」の日本版を作れないかと考えている。それは、ソ連の健康被害者たちの声により作られた。ウクライナでは、憲法の中でチェルノブイリという言葉を盛り込み保障を認めているのである。
「被害者救済予防原則」を採用しているチェルノブイリ法は、個々の疾病と被ばくの直接の因果関係の立証を求めない。土壌汚染数値など一定の条件をクリアすれば、どの人も支援を得られるようになってる。いわれのない被害を受けた人たちが自ら因果関係を立証する必要はなく、「まず被害者の救済」を原則にしているという。
「脱被ばく実現ネット」は、6月2日19時から、上智大学で「若者と放射能-関東の汚染はどうなっているのか?」をテーマに集会を行う。(情報ひろば参照)「被害者の会」も協力する。「健康被害者の会」は、被ばくの影響と思われる健康被害の情報を募集している。上のメールアドレスでぜひ送ってください!