世界情勢を見る 国家やマスコミの嘘に騙されず

世界戦争は始まっている─声をあげよう

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ジョン・ピルジャー(オーストラリアのジャーナリスト、映画製作者)3月23日「ZNet コメンタリー」
翻訳・脇浜義明

 私はマーシャル諸島でドキュメンタリー映画を撮影した。
 米国は、1946年から58年にかけて、マーシャル諸島で56発の核爆発実験を行った。ビキニ島は汚染されたまま沈黙していた。奇妙に変形した椰子の木が静かに立ち、動くものは何一つない。鳥もいない。静寂を破るのは、墓石や自分の靴に近づけたガイガーカウンターの音だけ。「ブラボー」と呼ばれる水素爆弾実験跡のクレーターが、暗黒の穴を広げている。
 帰路、ホノルル空港で女性誌のカバーで健康そうなビキニ姿(水着の「ビキニ」は、ビキニ島を破壊した原爆実験を連想させるほど衝撃的な姿、という意味で名付けられた)の女性の写真を見た。私がビキニ島でインタビューした女性は、それと異なり、甲状腺癌や他の癌に冒された「ビキニ女性」であった。核の実験台となった貧しい人たちだ。
 私はホノルルのビキニに象徴される娯楽文化に対抗するつもりで、「もうひとつのビキニ」を撮影したのだ。現代プロパガンダの創始者であるエドワード・バーネイズは、娯楽現象を、「民主主義社会の慣習を育成し、意見を操作」する「目に見えない政府」と呼んだ。

対露・中への危険な挑発

 世界戦争がもう始まっていることを自覚している人々は何人いるだろう? 今のところ、プロパガンダ、嘘、娯楽による戦争だが、ミサイルが一発飛べば、たちまち流血の戦争になる。
 2009年、オバマ大統領は欧州の中心部のプラハ(チェコ)で、「世界を核兵器から解放する」と演説した。メディアが陳腐な賞賛記事を書き、オバマはノーベル平和賞を得た。しかし、オバマ政権は核兵器、核弾頭、核兵器運搬システム、核兵器工場を増やし、核関連予算は歴代政権で最大だ。この30年間で1兆ドル以上が核兵器に使われたのである。
 この1年半、ロシア西部国境付近では、米国主導の軍備増強が続いている。ウクライナは、CIAのテーマパークになった。キエフでクーデターを画策した米政府は、ロシアの隣家を事実上支配している。
 米国は、ロシアの隣のラトビアとエストニアでも戦闘部隊、戦車、銃火器を配置した。世界第2の核武装国に対するこのような危険な挑発に、西側世論は声をあげていない。
 危険な挑発は、中国に対しても行われている。中国の「脅威」が語られない日は1日もない。米国太平洋司令官ハリー・ハリス提督によれば、中国は「南シナ海に砂の万里の長城を築いている」。南沙諸島は、フィリピン・中国の領土紛争の的である。
 しかし、米政府がフィリピン政府に圧力をかけ、国防省が「航海の自由」というプロパガンダ・キャンペーンを張るまで、この領土対立は武力衝突の脅威になるほど深刻なものではなかった。
 私は以前、『見えない戦争』という映画を製作した。その中でインタビューしたジャーナリストはみんな、もしマスコミがきちんとサダム・フセインの大量破壊兵器所有の真偽を調べ、ブッシュやブレアの嘘に付和雷同しなかったら、2003年のイラク侵攻は起きなかっただろうし、何十万の人々が死なずにすんだだろう、と言った。
 私の知る限り、中国に「なぜ南シナ海に滑走路を造るのか?」と質問した西側ジャーナリストはいない。答えは、米国が軍事基地、弾道ミサイル、戦闘部隊、核兵器搭載爆撃機のネットワークで中国を包囲しているからだ。この殺人弧は、オーストラリアからマリアナ諸島、マーシャル諸島やグアム、フィリピン、タイ、沖縄、韓国からアフガニスタンやインドまで広がっている。
 いわば米国は、中国の首のに縄を巻いているようなもので、メディアは沈黙によって戦争に加担しているのだ。昨年、米国とオーストラリアは空海軍事演習「タリスマン・セーバー」を行った(訳注・日本の自衛隊も参加した)。中国が中東とアフリカの石油などの資源にアクセスできなくするために、マラッカ海峡やロンボク海峡などのシーレーンを封鎖する、対中包囲エアシーバトルの訓練だった。

リベラル民主党大統領の暴力行使

 米大統領選挙と言われる道化芝居で、ドナルド・トランプが、「狂人」とか「ファシスト」と報じられている。確かに彼は醜悪な人物ではあるが、メディアが描く彼の姿は懐疑的に思わざるを得ない。
 例えば、彼の移民への見方はグロテスクだが、デーヴィッド・キャメロンほどではない。米国から移民を追放する大司令官は、ノーベル平和賞を受賞したオバマである。あるリベラル系コメンテーターは、トランプが「米国内に暴力の暗黒の力を解き放っている」と書いた。そうではない。すでに存在しているのだ。
 この国は、子どもが母親を射殺し、警官が黒人を殺害する国だ。50カ国以上の外国の政府、それも民主主義選挙で選ばれた政府を軍事力で破壊し、アジアと中東を爆撃して死人と難民を大量に作り出した国だ。暴力行使で米国に匹敵する国は、他にはない。しかもそれは、ほとんどリベラル民主党大統領が起こした。トルーマン、ケネディ、ジョンソン、カーター、クリントン、オバマ。
 我々にとって脅威なのは、トランプではなく、ヒラリー・クリントンである。彼女には、時々リベラルな表情を見せる米国自慢の「例外主義」という暴力装置が体現されている。
 ヒラリー・クリントンは、2008年大統領選挙運動の中で、イランを核爆弾で「完全破壊しよう」と言った。オバマ政権の国務長官時代には、ホンジュラスの民主主義政権破壊に手を貸した。2011年に大喜びでリビア破壊に着手した。カダフィがナイフで野蛮にも殺されたニュースを聞いて、にっこりと笑った。
 クリントンを応援する女性の一人、前国務長官オルブライトは、クリントン支持を表明しない若い女性を叱った。オルブライトは、イラク戦争で50万人のイラク人の子どもが死んだのを、「それだけの価値がある」とテレビで言ってのけた人物である。またクリントン支持派には、イスラエル・ロビーや武器会社、そして、グロリア・スタイネムやアン・サマーズのような著名なフェミニストが名を連ねている。
 「アイデンティティ政治」というポスト・モダン・カルトの影響で、リベラル知識人は支持する思想や人間への批判的検証をやめてしまった。オバマやクリントン、人民を裏切って敵と同盟を結んだギリシャのシリザのようなペテン師や、偽の進歩的運動を鵜呑み的に支持するのだ。
 一種の「ミーイズム」である自己陶酔が、特権的西側社会の新しい時代精神になった。戦争、社会的不正、不平等、人種差別や性差別に対する集団的運動は死滅してしまったように見える。バーニー・サンダース上院議員支持に結集する若者たちは、そんな眠りから目覚めたように見えるが、そのサンダースは次第に姿勢を変え、もしクリントンが指名されれば、彼女を支持すると表明した。彼はオバマの戦争政策を支持し、オバマは「良い仕事をした」と言った。
 いったい、政党などに縛られずに「大衆自身が直接行動する」という偉大な伝統はどうなったのだろう。もっと住み良い、公正で平和な社会を建設するという長い旅路に必要な勇気、想像力、献身はどこへ行ったのであろう。芸術、映画、演劇、文学などの反体制者たちはどこへ消えたのであろう。沈黙を破り、声を上げる人々はどこへ行ったのであろう。彼らが再登場するのは、最初の核ミサイルが発射されるまで待たなければならないのか。

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