イスラエル在住 ガリコ・美恵子
3月24日、へブロンのタル・アル・メイダで、2人のパレスチナ人の若者がイスラエル軍の銃撃を受け、死亡した。ナイフでイスラエル兵を傷つけたとされている。
救急車は、兵士に撃たれて頭から血を噴出していたパレスチナ人を無視して、ナイフにより軽傷を受けたイスラエル兵士を運び去った。ある兵士が、重症のパレスチナ人を近距離でさらに銃撃し、即死させた。半時間、軍は2名の死体を放置した後、黒色のビニールを死体に被せて、どこかへ運び去った。
これを撮影したのは、地元団体「youth against settlement(入植に反対する若者たち)」の一員だ。私はフェイスブックで、この団体の投稿による動画を見たが、パレスチナの友人宅で見たアラビア語のテレビニュースでも同じ動画が発表された。
軍閉鎖地区の過酷な状況
タル・アル・メイダという町は、へブロンのH2(事実上イスラエル治安下)に位置し、入植者の住宅と軍宿舎があり、今後も入植拡大計画があるために、軍閉鎖地区とされている。学校や職場やショッピングセンターはH1(行政・治安共にパレスチナ自治政府の管理下)にあるので、チェックポイントを通過せねばならないが、そこに至るまでの道で、ここに住むパレスチナ住民は、数メートルおきに兵士に身体検査される。兵士は、少年たちにズボンや服を脱がせ、ベルトをはずさせる。壁に向かって両手をつかせて、股を大きく広げさせ、足首から金玉まで、何度も触って検査する。そのセクハラとしか言いようがない検査場面をみる度に、私は激怒するが、そこで何か言えば、撃たれるか刑務所行きである。
翌日「入植に反対する若者たち」の代表者であるイッサ・アムロが、私のチャットに上がってきて手助けを要請した。『昨日パレスチナの若者を殺した兵士は、僕を前回、刑務所に拘束した兵士と同一人物だ。顔はしっかり覚えている。フェイスブックで見つけたが、氏名がヘブライ語で登録されているので、読んでくれ』というものだった。
FBで兵士の氏名を発見
その兵士のフェイスブックを開けると、エリオーズ・アザリヤと氏名がヘブライ語で書かれていた。自分が如何に勇敢な兵士であるか自慢しているコメントが、ヘブライ語で書き綴られていた。軍はインティファーダ勃発当初から、「危険を察したら殺しても良い」としているが、彼が行ったことは犯罪である。埋葬さえ家族にさせない軍に対する彼等の怒りを察し、私は兵士の氏名をイッサのチャットに書いた。
娘にその件を話すと、「お母さんの正義心はわかるけれど、そんな協力をしていたらそのうち軍に捕まる。命の保障もない。心配だからやめてくれ」と言われたが、職場にいないときくらい、自分の気持ちに正直に行動したかった。職場では嘘をつくことを奨励されているからだ。
「白い嘘」の論理
イスラエルでは、自分の身や商売を守るためには嘘をついても良いとする〝白い嘘〟と呼ばれるものがある。私は靴の販売をしているが、白い嘘を上手く使わないと大変なことになる。靴倉庫は3階にある。試着させてくれと言われると、階段を駆け上がり、数百種類の靴がサイズ毎に並べられた中から、客の希望の靴を探しだし、靴箱を抱えて階段を駆け下りる。
店には入植者もやってくる。入植者の8割以上は10足以上試着して買わずに立ち去る。入植者に付き合っていると商売にならないので、ある一定の数以上の試着は、サイズがないと言って断れと、上司に日頃から言われている。しかし入植者は押しが強く、嘘が下手な私は、靴箱を何箱も抱えて降りるたびに、これもあれもと繰り返し試着の請求をされて、また階段を駆け上がる。足はガクガクになり、呼吸困難になるほど何度も階段を往復して時間と体力を消耗し、他の客への接客がおろそかになる。ふらふらになった頃、「値段が高すぎる、色が気に食わない」などの理由で彼等は立ち去る。すると上司はこう言う。「入植者にはサイズがないと言えといっただろう」
入植者はイスラエルの全人口の1割に満たないが、エルサレムは多くの入植地に囲まれているので〝白い嘘〟が身につかないようでは販売員として一人前ではないというわけだ。
パレスチナ少年を殺害した兵士も、〝白い嘘〟論理で、危険を感じたと裁判で発言するに違いない。しかし動画は、イッサがイスラエルの人権保護団体「ベツェレム」に送付したので、裁判で証拠映像とされる。〝白い嘘〟は、裁判上、どこまで幅をきかすのだろうか。
マアン・ニュースによると、昨年10月にインティファーダが開始されてから203名のパレスチナ人がイスラエル軍に殺されている。