被ばく労働を考えるネットワーク なすび
3カ国以上の国から原発作業員や元作業員が集まり、被曝労働問題に関する国際会議が開かれるのは、おそらく史上初めてのことではないだろうか。3月27日に「被曝労働問題の現状 フランス・ウクライナ・韓国・日本」、翌28日には「被曝労働者の権利を求める国際連帯シンポジウム」が、在日本韓国YMCA(東京)において開催された。これは、「核と被ばくをなくす世界社会フォーラム2016」の分科会および関連シンポジウムとして企画され、両日合わせて約300名の参加者が各国からの報告に耳を傾けた。
被曝労働問題は、どの国でも社会的には闇の中にあり、原発が抱える問題の中に位置づけられていないことが多い。3月27日の分科会は、各国の現状を報告し、共通の課題を抽出することを目的として行われた。
各国の被曝労働の状況を知る
まず、フランスの社会学者(労働安全・健康問題)アニー・テボー=モニー氏による「今日の核労働」と題するビデオ報告から始まった。テボー=モニー氏は、第二次大戦中のマンハッタン計画に参加した労働者のがん死亡リスクが10倍であったこと、各国の原発下請労働者、ウラン鉱山労働者、チェルノブイリ原発の収束作業員(リクビダートル)の健康調査が不十分であること、などを指摘した。
次に、自身が原発下請労働者で、労働者の支援団体を立ち上げていくつもの裁判闘争を行っているフィリップ・ビヤール氏が、現在のフランスの原発下請労働者が日本と同様の重層下請構造で過酷な労働を強いられていることを報告した。そして、労働者に多数の健康被害が起きていること、当局はそれが被曝によるものと認めず、これらの問題がフランス国民の中にも知られていないことを指摘した。
ウクライナから参加したリクビダートルのヴァレンティン・ヘルマンチュク氏とムィコラ・ヴォズニューク氏は、自分たちは健康であったにもかかわらず、事故収束作業に入った直後から心臓をはじめ体中に不調が現れ、現在は障害認定を受けていることを報告した。しかし、チェルノブイリ法で認められているはずの補償は事実上なきに等しく、苦しい生活と健康問題に悩まされ続けている。ウクライナの二人は、補償しきれない甚大な被害を国民に与える原発からの転換を訴えた。
韓国からは、ハンウル原発で水処理業務に携わり原発水処理連合会長であるキム・ヅチョン氏が、韓国の原発労働者の雇用状況を報告した。非正規職の割合はOECD諸国の中でも高く、しかも平均賃金は正規職の47・9%に過ぎない。これに対し、労組が80%の労働者を組織し、政府に対する行動を行っていることが報告された。
福島の除染労働の実態を報告
最後に、浪江町で除染作業に携わり、その後東電福島第一原発の収束・廃炉作業に当たった池田実氏が、日本からの報告を行った。池田氏の場合、賃金や宿舎など待遇の面では国が発注する事業である除染作業の方が良く、民間事業である収束作業では、賃金の根拠が不透明で、事実上の危険手当として東電が出している2万円の割増賃金は4000円しかもらえなかった。
一方、安全対策では、収束作業の線量管理がそれなりに厳格であると感じたのに対し、除染ではマスクが配られる程度で安全対策が十分とは思えず、作業着や作業靴も自分で準備し、作業後は汚れたまま帰宅している実態を指摘した。
各国の被曝労働者が置かれた状況の違いと共通点
翌28日は、前日の分科会におけるパネラーの報告と参加者の質問に立脚し、今後の運動の方向性と国際連帯運動の可能性を議論するものとして進められた。
分科会でも報告したウクライナのリクビダートルであるヘルマンチュク氏とヴォズニューク氏は、写真を映しながら改めてチェルノブイリ原発事故の経過を振り返り、同原発には構造的問題があり、実験も予定通り行われた上での事故であったにもかかわらず、旧ソ連当局は「作業員のミス」として労働者に責任を押しつけた、と怒りを見せた。そして、線量計が壊れるほどの高線量下、いい加減な装備のまま人海戦術で収束作業に投入されたリクビダートルたちは、実際の被曝線量よりも低い値を目の前で記入されたと訴えた。リクビダートルは世界中の原発労働者の未来を映し出しており、改めてチェルノブイリ原発事故とその収束作業が検証される必要があると感じられた。
フランスのビヤール氏は、それぞれの国の労働者が行うべき要求項目の提案を行った。それは、下請労働の禁止、労働者の終生の健康管理、被曝による労災認定の拡大、被曝の多い廃炉作業をやめて長期厳重管理への転換など、どれも具体的かつ重要と思われるものだった。
韓国からは、ハンウル原発での放射線管理を行っている原発放射線管理労働組合協議会議長のイム・ドンイン氏が報告し、その前日にキム氏が報告した水処理業務の労働者と同様、放射線管理も数年ごとに受注企業が変わり、労働者の雇用先もそのたびに変わるため、賃金や福利厚生などで電力会社の正規職とは大きな格差があることを訴えた。そして、当初は全く無権利状態であった放射線管理の労働者が組合を結成し、今日まで運動を練り上げてきた状況を思い起こし、涙ぐむ姿も見られた。
また、前日に会場からの質問が最も多かった池田実氏が、質問に答えつつ、韓国と違い日本は下請労働者の組合がなく、労働者が声が上げられない問題を訴えた。
最後に、両日の報告・議論からのエッセンスを抽出する形で、司会が今後の取り組みについて以下の提起を行い、パネラーと参加者の拍手で支持された。(1)情報交換・情報収集を通じた被曝労働者の国際交流、(2)リクビダートルへの国際的連帯と支援、(3)被曝労働者の権利獲得のための国際連帯行動。
今後の国際連帯行動へ向けて
2日にわたる報告と討論により、この4カ国の中でも労働者のおかれた現状や考え方はさまざまであることが分かった。しかし、労働者の権利や補償がきちんと獲得されているとは言えない点ではいずれも共通しており、相互の理解を深めながら今後の国際連帯行動を進めることが全体で確認され、熱気の満ちたシンポジウムを終了した。