深刻!東京圏の放射能汚染

チェルノブイリでは避難の権利が保障されるレベル

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予測最大値 年間18万人の発がんと9万人の死亡増

市民と科学者の内部被曝問題研究会会員 渡辺悦司

東京各地で除染基準(0.23μSv/時)上回る汚染実測値

 福島原発事故で放出された放射能による汚染は、福島県やその周辺地域にとどまらない。日本の首都であり物流と経済活動の最大の集積地であり政治的経済的支配の中心地である東京圏が、極めて深刻で危険な汚染状況にある。

 福島原発事故時の放射性降下物の量で、東京は福島・茨城・山形に次いで多かった(宮城は震災により観測不能)。事故原発から放出された5度の放射性プルーム(原子雲)のうちの一つが東京上空を通過したからである。福島原発から放出された後にまず広範囲に平地や山に沈着した放射性物質は、その後風により二次的・三次的に拡散した。とりわけ土煙や土埃、さらには胞子・花粉など、生物濃縮を介した微粒子として再飛散が進んでいる可能性がある。さらに『週刊女性自身』2017年4月4日号は、昨年9月に行われた1号機の建屋カバーの撤去によって、福島だけでなく東京など関東各地の放射性物質の降下量が急上昇している可能性があると伝えている。事故原発からは現在も、デブリ内で持続する核分裂だけでなく、無謀で不用意な廃炉作業などに伴う放射性物質の放出が続いているからだ。また福島にとどまらず関東圏においても、焼却場での汚染ゴミの大量焼却が行われている。それによる放射性微粒子も飛来し沈着していると考えられる。 これらの危険に対して、政府も行政も完全に無視しており、東京圏は無防備な状態のままである。詳細はわれわれの共著『放射線被曝の争点』(緑風出版)をぜひ参照いただきたい。
 ジャーナリストの桐島瞬氏らは、東京各地における放射線量を実測し、多くの地点で、政府が除染を実施すべき基準としている線量(0.23マイクロシーベルト/時)を上回っていることを明らかにした(表3)。東京の放射能汚染は、多くの地点において、チェルノブイリであれば十分「避難の権利」が与えられる水準(1~5ミリシーベルト/年)なのだ。

東京圏の被害予測 過小評価されたICRPモデルでも50年間に13万人の発がんと3万人のがん死

 桐島氏のデータから、日本政府が放射線政策のベースとして採用している国際放射線防護委員会(ICRP)のリスクモデルを使って、大雑把ではあるが、東京圏での放射線被曝の被害がどの程度の規模になる可能性があるか推計することができる。
 概数で、いま東京圏の人口を1000万人とし、この住民全員が、桐島氏らによる実測結果の放射線レベルで毎年の追加被ばくをする場合を仮定してみよう。格段に高かったはずの事故直後の初期被ばくも、チェルノブイリでは外部被ばくの3分の2として算入されている内部被ばく量も捨象しよう。福島事故以前の東京の空間線量は、文部科学省のデータ(「はかるくん」)によれば0・036マイクロシーベルト/時だった。
 他方、2015年2~3月の桐島氏の全実測値の平均は0.3075マイクロシーベルト/時。事故による放射線量の上昇分は1年間に換算して約2.4ミリシーベルト/年である。被ばく量と被ばく人数をかけた「集団線量」としては、およそ2.4万人・シーベルト/年に相当する。
 ICRP2007年勧告の表に掲げられているリスク係数によれば、1万人・シーベルト当たりの過剰ながん発症は約1830人、そのうちの「致死性リスク」すなわちがん死は約450人である(掲載されている5つの数値の最大値と最小値の中央値、「遺伝性」は除いた)。
 つまり、ICRPのリスクモデルでは、福島事故放出放射能による1年間の追加の被ばくにより、東京圏では生涯期間についてがん発症が約4400人増加し、がん死が約1100人程度追加的に生じる予測となる。
 50年間で計算すれば、セシウム137など長寿命放射能の50年間の減衰を考慮して、リスクを約6割とすると、およそ13万2000人のがん発症と3万2000人ほどのがん死が予測されることになる。
 これは東京圏の住民だけでの話だ。人口約4500万人の関東圏全体をとれば、この4.5倍である。ICRPの著しく過小評価されたモデルで計算した場合でさえも、これほどの被害が出る可能性は十分に予測可能である。

実際の被害は約40倍(関東圏全体で毎年約40万人、50年間で1200万人の致死リスク)がん以外も広範囲の健康被害が!

 政府と政府側の「専門家」たちは、ICRPモデルを知らないはずがない。知っていながら、福島事故の放射能被害が「全くない」という露骨な嘘とデマで人々を欺そうとしている。
 実際には、ICRPのリスク係数には大きな過小評価がある。ICRPに批判的な欧州放射線防護委員会ECRRは、その過小評価率を約40分の1としているため、数を40倍に補正する必要がある。すると、東京圏の人口約1000万人で、1年間の追加的な被ばくにより過剰に生じる生涯期間のがん発症とがん死は、毎年およそ18万人と4万人強になる。50年間では、およそ520万人と130万人程度という膨大な人数になる。
 だが、ICRPによる被害の過小評価は、上で見たような量的な側面だけにとどまらない。ICRPは、基本的・本質的に、原発や核利用を推進するための機関であるからだ。
 ICRPは、低線量被ばくの影響もがんだけしか認めず、心臓病からアレルギー、流死産や遺伝的影響、神経疾患にいたる広範囲の非がん疾患のリスクを認めていない。微粒子、酸化ストレス、トリチウム、免疫低下・異常、非DNA標的などの特殊な危険性を認めない。
 よって、非がん死をがん死と同程度になると仮定すると、数は倍になる。つまり、東京圏の住民の致死リスクは、毎年でおよそ9万人、50年間では260万人。人口4.5倍の関東圏全体の致死リスクは、毎年およそ40万人、50年間では1200万人となるのだ。
 各個人の放射線影響に対する感受性には、顕著な差異がある。乳幼児や若年層、女性、がん関連遺伝子に変異を持つ人々(人口の約1%)など、感受性が著しく高い人口集団が存在する。だが、ICRPは、「平均化」の原則の下に、個人間の放射線感受性の差異を認めず、単一の被ばく基準を当てはめる。これは、高感受性の人々の生存権・人格権の否定に等しい。
 放射線被ばくとの関連性の高い血液がんや白内障、周産期死亡が増加するなど、東京圏での健康被害の顕在化を示す現象はすでに現れている。このような中で、東京や関東圏から関西や以西への避難者の人々が、「関東からの避難者たち」という組織を立ち上げ、避難のアドバイス、情報交換やその他の連帯活動を開始した。それは、避難者の運動のみならず被ばく反対の運動における重要で大きな一歩前進となるであろう。

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