総損失リスクは7.5兆円規模か原発は企業経営にも自滅的

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東芝 原発の巨額損失で経営破たんの淵に

市民と科学者の内部被曝問題研究会会員 渡辺悦司
 東芝が原発事業による巨額損失によって経営破綻の瀬戸際にある。言うまでもなく東芝は、16万人の従業員を擁する日本有数の超巨大企業であり、安倍政権と極めて親密な関係にある。原発は、事故や通常運転時に放出される放射能が地域住民や国民全体の健康・生命を破壊するという意味で、推進する政府や国にとって自滅的であるだけでない。原発は、超巨大コストという意味でも、推進する企業にとって経営的に自滅的である。東芝の危機は、このことをこの上なく鮮やかに示している。
 だが、東芝経営陣は、儲け頭であり「虎の子中の虎の子」である半導体部門を売り払ってまでも、泥沼の赤字に沈んでゆく原発事業をあくまで推進し続けようとしている。何が起こるだろうか。

大混乱した決算発表と記者会見

 2月14日、東芝は、2016年1~12月の決算と2017年3月期(2016年4月~2017年3月)の決算予想を発表する記者会見を予定していた。だが、決算の発表は突然1カ月延期。その後、決算数値が「監査法人が承認していない」「大きく修正される可能性がある」「参考値」として公表された。
 記者会見は混乱した。その頂点は、東芝の佐藤監査委員長による次の発言だった。東芝の米子会社ウェスティングハウス社(以下WH社と表記)による米S&W社買収の会計処理をめぐり、「ウェスティングハウス経営者による不適切なプレッシャー」があったとする「内部通報」があり、「内部統制を逸脱する不適切な行為」について「現在調査中である」と。
 記者会見の要点は以下の通り。(1)原子力事業は、アメリカでの原発建設コスト増加などにより、7125億円の損失を減損処理、(2)2016年12月末の段階で4999億円の赤字、1912億円の債務超過(事実上の破綻状態)に転落、(3)半導体部門(営業利益の8割・年間約1700億円もの利益を上げている)を分社化して過半数の持株を売却、その収益により債務超過状態を解消する予定、(4)原発の海外での新規受注を停止、既受注分の工事は続行、廃炉作業や原発機器の製造・販売・サービスも続行、など。

原発事業に固執する東芝

 決算の信頼性を監査委員長自身が否定するとは、何のための記者会見だったのか?『日経ビジネス』電子版の見方はこうだ。東芝経営陣は、何としても「原発推進の旗は降ろさない」ことを明らかに示したかった、と。だが、原発の損失は果たして制御可能なのか?
 問題の発端は、東芝が、2006年、当時の米オバマ政権の「原発ルネサンス」構想に賭け、アメリカのWH社の原発部門(従業員数当時約1万4500人、現在も1万2000人)を、実価値の2倍以上という破格の価格で買収したことだ(6200億円)。買収後WH社は、アメリカで8基、中国で4基、英国で3基、インドで6基などの原発を受注あるいは合意し、うち米国で4基、中国で4基、計8基を現在建設中である(『東洋経済』)。
 2011年3月の福島原発事故を受け、米原子力規制当局は原発の安全規制を強化、それに伴う設計変更や工期延長により建設コストが急上昇、受注価格を大きく上回った。
 その後、東芝は、2015年の不正会計事件とWH社の減損処理でも、利益の上がる虎の子部門を次々売却して原発部門に1兆円の巨費を注入、まともな内部統制も行わないまま原発部門の暴走を容認してきた。
 アメリカでのWH社の原発(100万kw超級)1基あたり受注価格は、5000億円ほどであったという(『東洋経済』)。現在、完工までの費用は、控えめの見積りだと9200億円(佐藤暁氏『エコノミスト』)、最新設計の場合1兆3000億円(日立の英国での計画価格・日本経済新聞)と推定される。両者の差額のおよそ4200億円あるいは8000億円が、1基あたりの損失となるわけだ。

原発損失はどこまで膨れるか

アメリカで受注済みの4基を完成まで工事した場合の損失総額は、簡単に推定できる。およそ1兆6800億円~3兆2000億円だ。
 実際、今回の決算発表文書には、WH社の債務に対する東芝の「親会社保証」として7935億円がすでに計上されている。これは事実上の追加の債務であり、実際の損失額は、公式に認められた減損分7125億円ではなく、両者の合計約1兆5000億円となる。WH社の不正会計疑惑で、これがさらに膨れるのは避けられない。
 今回の減損分7125億円にしても、工事が3割程度進んだ段階での数字である(児玉博氏『文藝春秋』3月号)。「わずか3割程度でこれほどの損失が出ている」わけだ。完成まで工事を進めた場合、当然この3・3倍、2兆4000億円程度の損失が予測される。
 アメリカで福島原発事故以後の基準に合致して完成した原発は皆無であり、正確な建設費見込みは不可能である。フィンランドで仏アレバ社(倒産後国有化)が建設中の原発のように、いくら損失を垂れ流しても、完成するかどうかさえわからなくなるかもしれない。

米原発事業の他にも損失リスクは山積み

東芝の巨額損失は米原発事業だけではない。東芝は多くの「損失リスク爆弾」を抱えている(右表、『ダイヤモンド』2月11日号)。
 合計すると東芝には、およそ3兆7000億円~7兆5000億円という超巨額の損失リスクがある。加えて、東芝が英国で原発3基を建設する計画(1基あたり建設費5000億円で計画されている)に着手すれば、損失リスクは合計10兆円規模になりかねない。
同誌は「もはや原発リスクは民間では担い切れない」として「政府主導の原発再編」を主張している。政府は事態の深刻さに動揺しており、「経産省は東芝を見放した」との評価もある(上記『文藝春秋』)。
 福島原発事故の処理には22兆円を投入する予定である。東芝救済で8~10兆円程度が加われば、30兆円超に膨らむ。日本の年間の国内総生産はおよそ500兆円。その6%以上、政府予算規模約100兆円の3割、年間の税収約40兆円の実に8割が、まったく不生産的な後ろ向きの経費に、多くはアメリカ原子力産業のために消えていく。
 三菱、日立の原発部門の危機も迫っている。政府は日立の英国での原発事業に1兆円の政府資金を投入する(昨年12月15日の日経新聞報道)。政府救済がどうなるかにかかわらず、原発推進の尻拭いとして国民への請求書はさらに重く積み上がり、財政破綻と経済恐慌は避けられない。

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