出口の見えない混沌、劣化する社会

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現代の若者は、日本社会をどう見ているのか?自分自身の生きづらさ・

限界を抱えながら他者とつながる

20~30才代の若者は、日本社会をどう見ているのか? 4名に集まってもらい座談会を行った。うち3名は、何らかの社会運動に関わっている学生と社会人、1名は、「保守」を自認し、自民党を支持しているという安達さんだ。このため座談会は、「なぜ自民党を支持するのか?」から意見交換を始めてもらった。「現状維持を望む」という安達さんに対しては、「野党が保守化したがゆえに、変化を求める若者が自民党を支持しているのでは?」という意見も出された。
 第2部では、不登校・引きこもり、ドロップアウトを経験している座談会参加者に、経緯や当時の思いも述べてもらった。中高時代の挫折の経験は、その後の社会運動への参加の動機とも重なっているようにみえる。また、奨学金という名の借金が、若者の肩に重くのしかかっている現実もクローズアップされた。(文責・編集部)


▲安達義之さん
出版社で働いています。高校時代は進学校で、「勉強していい大学」は嫌で、高校卒業後は3年ほどアルバイト生活でした。どうせなら、芸術方面をやりたい。本が好きで文学をやりたいと思って芸術大学に通っていました。
▲木沢寛治さん
大学生ですが、休学して働いています。木工、大工、植木の選定とか、自然や木に関わる仕事です。札幌の山奥で15歳まで育ち、19歳に京都に引っ越してきました。高校を2回辞めていて、高卒認定で大学に入学しました。今は 関西仕事づくりセンターに所属。「街の便利屋さん」として自分たちで仕事をとってきて仕事をやるワ-カーズコレクティブの理念に沿って働いています。もう一つは、関西地区生コン支部という労働組合が中心となって設立した労働学校・アソシエで事務局をしています。
▲鵜戸口利明さん
生まれは明石で、小学3年生で父親が他界しました。中高時代は愛媛に住んでいました。中高一貫校で、中学受験後は燃え尽き症候群でした。高校は1年で辞めて、高卒認定で大学入学。集団になったらしゃべれなくなる質で、コミュ障です。
▲ラボルテ雅樹
フィリピン人のハーフで、妹と弟が異父兄弟・一人親家庭という中で育ちました。高校3年生の頃に出会った進路指導の先生がイラク反戦時代に学生をしていた左翼教師で、「自分が抱えている問題は社会の問題なのだ」と気づき、地域の国際交流協会やコミュニティ・ユニオンに関わりながら、人民新聞で半専従として働いています。

自民党を支持する若者は何を求めているのか?

…安達さんは保守を自負していて、自民党を支持しているそうですが、理由は?
安達…積極的に支持しているわけではありません。保守=軍国主義者と決めつける人がいますが、僕が求めているのは現状維持で、その期待から自民党を支持しています。僕自身は、今の生活に不満がないから自民党に投票しているわけです。自分の生活メリットのある政党に投票すればいいと考えています。
木沢…左派政党が保守的になっていて、逆に自民党が「革新」的なのではないですか?多くは、現状に不満があるから自民党に入れるというふうに見えます。ナショナリズムへの傾倒は、現状への不満からきていると思いますが。
安達…芸大で変な人間をたくさん観ましたが、政治的に革新的な意見はなかったです。誰も変えたいと思ってなくて、「このままでいい」から自民党でいいと言っています。僕がそうなので、回りにそういう人が集まっているのかもしれませんが。
 現状への不満をもって自民党に入れる人もいるだろうし、僕みたいな、「よりマシ」な選択肢として自民党という人間もいるのです。
ラボルテ…現状維持を望むのなら、選挙なんてある意味、「時間の無駄」です。遊びにいくとか選択肢があるなか、投票に行くわけですよね。選挙に行き、自民党に票を入れる積極的な動機付けがあるのではないですか?
安達…自国の政治に責任をもつのが民主主義です。投票に行かなかったら、選んだ奴が悪い、となりますが、自分が投票に行くことで責任を感じることができると思っています。また、憲法で定められている権利を遵守したいですね。自分は日本人として、日本の決まりごとに従って、日本の国の政治には責任を持っていくべきだと思っています。
ラボルテ…30~40年前なら自民党内にハト派とタカ派がいて、党内派閥政治があり、野中広務のような人物もいた。「左派の無茶な要求」でも、頭を下げて向きあってきたところがあったと思います。でも今の自民党は、沖縄の問題にしてもどこまでアメリカに隷従するのか…。福島の原発事故が収束しないなかで、現地の人々の苦しみを放置するばかりか、原発が武力攻撃の対象になる安全保障上の問題もあります。保守は寛容なところがあったと思うのですが、寛容さがなくなり、戦前日本の極端な方向へ変わろうとしているように感じます。
安達…異論はありません。「自衛隊を軍隊に」は、保守ではなく軍国主義だと思うんです。守りたいのは今の生活で、働きながらある程度自分の時間も使えて…、それだけあったら僕は何も言うことはないですね。

義務としての選挙足かせとしての選挙

鵜戸口…僕は消去法で社民党に入れました。1議席がギリギリの瀬戸際だったので。共産党は例えば領土問題の認識なんか、千島列島を求めることなどとても右翼的だと思います。一方で、選挙に行くべきだとは思いません。僕は日本国籍を持っていますが、在日コリアンの友人たちは選挙に行きたくても行けない。僕は学生運動に関心を持ち、シールズに影響を受けました。どのような形であれ、運動が広がっていくことに可能性を感じています。安保法制強行採決時に、「自民党を打倒するしかない」と思って毎日国会前に行きましたよ。
安達…シールズなどの若者の運動によって若者の投票率が上がるのはいいことだと思います。今の政治は、若者の投票率が低くて、若者の課題が政策に反映されない問題があるからです。
木沢…僕は選挙に行っていません。「自らの生活環境を変えるには、自分を変えるしかない」と思っているからです。国が助けてくれるとは思っていません。自分と、周りの人間に対して直接的な関係性のなかでの責任は負います。
 自分が営業して仕事をもらい、皆が生活できる賃金をまかなうことや、自分たちで仕事を作ることが生活環境を変えることに直結しています。ブラック企業対策として、法改正するような政策的アプローチも必要だとは思っています。でも「身内や知り合いと融通を効かせあいながら働く」ほうがいいのか? 「会社の下請けで誰かの管理の中で働かされる」のか、どちらが良いか現場の感覚によって明らかにしていく。自分たちの身内で仕事を作って働いて給料もらうほうが、絶対に働き方として気持ちがいいわけです。そんな現場を作っていくほうが、生き方を変えられていますよね。
安達…社会に不満がないということ?
木沢…社会に要求される働き方に不満があるのなら、自分でやるしかない。不満しかないから、自分で仕組みを作るしかない。社会・国家に承認してもらうのではなく、自分たちで作った新しい関係性のなかで、新しい社会みたいなものを作っていきたいと思っています。
安達…もし、国家を動かす政党があるとすれば投票する?
木沢…それなら投票するかもしれない。
ラボルテ…DIY(自分でやる事)で仕事やコミュニティを作って生き方・社会を変えよう、という方向性はわかります。でも、それで失敗した人は生活保護や失業保険といった社会保障制度を使うし、育児や介護などをとおして社会保障にコミットせざる得ません。労働・生活は政治の影響を受けているわけです。木沢さんはこの関わりを知っていると思いますが、どうして選挙に行かないの?
木沢…極論ですが、法律や政策を求める社会運動を下から作っていけば、上はどこでもいいと思うわけです。社会運動の力で、国家や政党に耳を傾けさせ動かせればいいと思っています。現状の政治のなかで動いたところで、大局に影響するんかな、とも考えます。技術的な選挙戦術はあるだろうけど、今の「政治の在り方に責任を持って」も何も変わらないし、逆に投票の結果なんだから、ということで責任を負わされてしまう。「投票したのだから」と いう枠で闘わないといけないことが誤りです。「義務だから」という話になるのなら、その枠組みからは降りますね。

「お前らにとって自由はなんだ!」

…皆さんドロップアウト、ひきこもりなどの経験があると聞いています。どんな経験か? 何を学んだのか? 聞かせてください。
木沢…俺は山の中に住んでいて、学校に行きたくない日は、山の中を一人でふらふらしていました。中学3年生の頃は学校に月1回くらいしか行ってなくて、通っていた塾の先生に「やりたいように生きるために勉強はしたほうがいい」と言われ、塾だけで勉強していました。でもドロップアウトという意識は、全くなかったですね。
 高校受験では、志望校に落ちて私立高校に入学しました。遅刻3回で始末書、みたいな厳しい高校でした。でも、「欠席したら書かなくてもいいよな」ってことで、高校に行かなくなり中退しました。その後、親父の大工仕事を手伝いながら高卒認定の資格をとりました。
 しかし、このままではフラフラして終わるなと思い、一回落ちた第1志望の高校に入り直したわけです。そこは進学校で、校風が自由で制服もなかったんです。「居心地いいかな」と思って入学したら、進学校過ぎて校則が必要なかっただけだった(笑)。節度を保った自由の中に浸かっている級友を見て、「自由ってなんだ」って思ったんです。ノリだけは「俺ら自由だぜっ」て感じだけど、実際に校則から外れたことをする時は、「カンジくんに任せた」と。「お前らにとって自由はなんだ!」と憤りが溜まって、学校をまた辞めました。高卒認定を取ってたので、大学受験できるし、ヘンに学校にいるよりは、中退して受験に専念したほうがいいと考えて…。
 なので、高校は2回中退したことになるけれども、大学には入学したし、「レールから外れてる」というより「レールも利用しながら」生きてる感じです。「こんな働き方は嫌だ」という意識が強いし、「こうしたい」って思うことを実践していきたいですね。この前の電通女性社員の自殺事件だって、エリートコース辿ったけど、社会に殺されちゃうわけじゃないですか。自分のやれる形で好きな生き方をしていくしかないんじゃないかな、って思いますね。
安達…僕が入学した高校は、進学校じゃないけれど、みんなイイ大学を目指していました。自由な学校で、試験監督官がいないのが有名で、カンニングできる環境だけれど、誰もしてなかったですね。高校卒業後の3年間のブランクは、両親が音楽関係の仕事で、会社勤めをするより、そういう生き方がいいのかな、って思っていました。僕は本が好きだったので、その期間はバイトしながら小説を書いていました。そのなかで、書くことを学ぶことと就職の両方の選択肢を満たせる大学として、芸大に入学しました。今、仕事としていろんな人から話を聞いて書く仕事をしています。当時、挫折感はなかったけれど、「勉強できたところで…」とも思っていました。
鵜戸口…「公立中学校には行きたくない」って思って、私立中学校を受験して入学しました。公立に入りたくないのに理由があって、地元中学校の説明会で校長が「手遊びするな!」とキレている場面を目の当たりにしたからです。僕は集団行動が苦手で、体育でもいつも怒られていたし。その私立中学は校則がないことを標榜していましたから。
 でも、中学に入った時点で挫折感がありました。先生や友達に「どこの大学に行きたいか? 何になりたいか?」と聞かれても、僕だけ答えられないことに、強い劣等感がありました。イジメはなかったけれど、人間関係は嫌だったし、悩んでいるうちに成績順位が落ちていって「また一人抜かれた」みたいな。
 徐々に学校へ行かなくなり、心療内科に通うようになりました。昼間は寝ていて、夜になると起きだして読書しながら考えごとをしていました。「生きていくのは大変なんだろうなぁ」という漠然とした不安感があるなか、吉本隆明が「ひきこもれ!」と書いていたことに惹かれていきました。
 高校1年生になった当初は通学できていたのですが、また行けなくなりました。補習授業でわからないことを先生に聞いたら「写せばいい。社会に出たら形が大事だから」と言われて、さらにモチベーションも下がっていきました。カウンセリングをいつも受けさせられ、親戚が介入してきて学校に来るようになって、追い詰められていきました。
 学校も家も居場所じゃないから部屋にひきこもるしかないし、家には母親がいるけど、怖くて目もあわせたくないし…。外の世界は学校しか知らない。1日誰とも喋らない時間が多かったから、人と話すときの声の調整もできなくなるぐらいコミュニケーションをとれない状態でした。
 小説家になりたいという夢もあり、「全部捨ててしまえ」という気持ちにもなって、結果的には中退しました。ひとりで悶々としていた時間が長く、吹っ切れたこともあると思います。
 高卒認定は受かったけれど、妙なプライドがあって、友達は「いい大学」ばかりだったから、僕は比較対象にされないために、映画の大学を選びました。受験勉強もやらなくなって、母親はアルコール依存症でもあるので、がなりたてることも多く、衝突することも多くなりました。僕は人生で一回だけ人に暴力をふるったことがあります。母親をビンで殴ってしまいました。今も傷跡が残ってるし、家に居られなくもなって、外に出るようになりました。
 バイトもするようになって、受験勉強をする考えもなくなりました。自分は全然ダメな人間やから、家にも学校にも居場所がない。自分にとって楽しい場所を外で拡散するように作りました。

自分に「何かが欠けている」感覚

ラボルテ…10代で強く残っている心象風景は、親父を殺したいという感情と、自分の存在を呪っていたことです。母がフィリピンから日本に働きに来て、父がギャンブラーで、僕が生まれてから母親が苦労しているわけです。母はフィリピンの実家への仕送りもあって働きに来ていたのですが、僕を育てないといけないし、一人で日本に移り住んできただけに、頼れる人間関係もないわけです。
 小学生の途中まではわりと「普通の家」と思える経験がありますが、家族環境としては、基本的に社会のレールから外れていました。
 「自分が完全な日本人であれば普通の生活があったんじゃないか?」と、中高生の頃よく考えていました。石原慎太郎のような人物が好きで、人権やマイノリティのことを言ってる団体を「胡散臭い」と思ってました。本で知った「きれいごと言ってる左翼」に反発がありました。「人権は大事」「差別はよくない」みたいな言葉には、反吐が出そうでした。仲のいい友達は、皆、一人親家庭や問題を抱えた家庭ばかりでした。自分に「何かが欠けている」感覚があり、「僕はいないほうがいい」とも思っていました。今でもどこかで思っていることです。
 誰もが生存権を保障されたら、「洗濯機裏の小銭を探して、ポテチを買って空腹を凌ぐ経験」もなかったわけです。きれいごとかもしれないけれど、自分の生きづらさもあって他の人に経験させたくないと思っています。

資本主義を乗り越える可能性は現場にある

…それぞれが気になっているテーマや、自身のこれからについて語ってください。
安達…今、有効求人倍率が1・4です。この数字の背景も考えなきゃいけないと思うんです。求人の質の問題があって、「ラクで給料もらえる」仕事と、「キツくて給料もらえない」仕事があります。後者の仕事も、社会には必要な仕事です。物流がなくなったら、コンビニの商品がなくなって、成り立ちません。担い手が減ったら「回らない」では済まない話になってきます。労働条件がマシになって人が入るようになれば、正常な社会になるのかな、と思いますが…。担い手が減少する業界がどうなっていくのか。僕はそこに注目しています。
 一方で僕は一度「どうしようもない状態になればいい」とも思っています。物流業界では、メーカーが運送会社を買い叩いている状態ですが、物流会社が不足するようになれば、逆にメーカーがより高いお金を支払って確保しないといけません。ナチュラル・ストライキですね。
木沢…思想をどこに立脚させるのか?を意識しています。大阪にある「能勢農場」を見学に行った時には、いろいろ考えさせられました。資本主義の基本原理は利潤の追求ですから、資本家が利潤追求のために現場労働者の人件費を下げる話になる。極限まで行くと産業の担い手がいなくなって、立ち行かなくなっていきます。逆に言えば、産業論理に則った形でないと、資本主義は成り経ちません。資本主義に対置する産業論理を構築しなきゃいけない。例えば、狭い所に鶏を大量に押し込んで太らせたほうがいいのか? 自然のなかで放し飼いして自由に生きてきた鶏のほうがいいのか? など畜産なら畜産の論理で、資本主義を越えられるものがあります。
 現場感覚として、下請構造の労働者として働くよりも、自分たちで仕事を取ったほうが給料もいいわけです。中間搾取がないし、上の社員にこき使われないし。自分たちで仕事を取ってきて、ゆったりと一緒に働くという関係性のなかで、困ることは助けあうほうが、仕事としても効率がいいし、仕上がりもいいわけです。ビビりながら仕事をしたって、効率も仕上がりもよくならない。
 今は、宮沢賢治や石牟礼道子とかを参考にしていきたいと思っています。彼(女)らは、自然のなかの論理、産業構造の論理から思想を練り上げていってるな、と思います。それが生活感覚に根ざしたラジカルな政治批判にもなっている。左翼活動家は、基本的に生活感覚と乖離しているから、ただの批判になってしまいます。言葉の上で「搾取が…」ではなく、職人的に産業論理を突き詰めていけば、資本主義的なものを乗り越える可能性がそこにあります。僕としては、ひとつは労働組合運動=関西地区生コン支部設立の労働学校アソシエの運営と、もうひとつは協同組合運動=よつ葉系の関西仕事づくりセンターとの関わりを足掛かりに、今後も考え続けていきたい課題です。
ラボルテ…僕は、僕自身が人を傷つけたり、誰かがしんどそうなことを知りながらも自分の生活に集中する人間であることを、素直に認めていきたいです。アイヒマンは、ナチス政権下でアウシュビッツ収容所での虐殺などを担当した行政官です。ナチス敗戦後、彼は南米で約15年間の逃亡生活を送りましたが、最終的に捕まった。そこでどんな人物か明らかになったわけですが「ふつうの人間」だった。「自分の生活のためにこなし続けてきただけ」だった。家族や近隣住民と仲良くしながら、普通の生活を送っていた。
 僕自身も、パンク寸前だったり、遊ぶし、ひきこもりもします。困っている人を無視して通り過ぎています。僕自身もどこかアイヒマンなわけです。人間に限界があるから、少しでも「誰か」のことを大切にできる社会を希求したい。実践としてユニオン活動などで目の前の人が抱えている課題と大枠の政治課題と、両方ともやっていきたいです。
 人権という言葉を単に使うと空虚かもしれないけど、一般的に人権の意味がわかりません。例えば、「灰色に見える日常光景」は、人権が奪われている状態かもしれない。その内実は「DVや児童虐待被害者かもしれないよ」と伝えることや、人権は誰かに守ってもらえるものでもなく、行使しなければいけないこと。ユニオンや男女共同参画センターなどの社会資源を使って、人権を実感しながら社会と個人との関わりを伝えなきゃいけないと思っています。
 また、現代社会では、誰もが税と社会保障に関わらざるをえません。社会保障は、財源がないのではなく、グローバル企業のタックスヘイブンや莫大な内部留保があり、どこから税を取って再分配するのか? という問題です。それに、世界の軍事費100兆円に対して国連予算は2000億円しかないわけです。世界中の誰もが生存権は保障されるべきですが、それは実現可能なわけです。個別具体的な人の心象風景、それから見える社会のことを通して、少しずつたねまきをしていきたいです。
 最後に。僕がもし安倍首相の立場なら、一定の労働・貧困問題に取り組むと思います。そのほうが「国益」でしょう。冒頭の選挙の話で言えば、200万人以上住んでいる外国籍住民に選挙権はありません。日本社会のしんどいところ、例えば物流・介護の労働者不足を外国人労働者導入で補って「解決」を目指すかもしれません。実際に国家戦略特区での外国人家事労働者受け入れや外国人技能実習制度、在留資格としての「介護」の導入など、制度改正が相次いでいます。僕が安倍首相なら、「仕事を奪っているのは外国人だ」とアジりながら、一方で労働・貧困問題の矛盾・本質を企業課税や同一価値労働同一賃金による再分配ではなく、都合よく「外国人労働力」を導入した形で解決を図りながら、分断支配による統治を目指していくと思います。
 今や私たちの服の9割以上は海外製で、日本社会は海外なしでは成り立ちません。日本という「先進国」が国際社会・外国人労働者に対して果たすべき役割は何か? どんなリーダーシップを国際社会でとるのか? というニュートラルな主張は、大事なわけです。誰もが人間として生きていける社会や世界であってほしい、と思います。

800万円の借金=奨学金重く考えたら身動き取れなくなる

鵜戸…大学に入学して、安保法制反対の社会運動に参加していましたが、「生活実感から考えて」と言われても実感がわかりません。社会運動には、かつてのシールズが一番大きな運動だったから参加していたし、対比するには中核派全学連だと思って、両方に参加していました。あの古い党派に、僕と同世代の人が入っていくのは興味深いし、共感する部分は大きくて、重要な指摘もありました。
 たとえば、軍産学協同です。アメリカはとっくの昔にやってますが、少なくとも日本は「平和主義国家」の70年間だったから、できない構造があった。大学だったら、教員が許さなかった。自治会という権力もあった。それが中曽根元首相から始まる新自由主義政治のなかの大学改革で解体され、学生も自治会を必要としなくなった。そして、自治会の次に大学共同体もなくなっていった。
 僕の通っている大学は映画大学なので、軍学協同には関係ないんです。京大の学生運動に参加しましたが、党派だけが軍学共同批判をしているように見えます。学者が主導して呼びかけているものはあるようですが、党派以外の学生運動にこうした批判はありません。
 学内にとどまっていたらダメで、大学に居場所はない。いまはSNSがありますが、昔みたいに連帯ができない。僕は大学生なので、学生運動に興味を持って可能性を感じました。中核派とシールズは僕と同じ世代です。
 僕にとって切実な問題は、奨学金です。有利子無利子含めて500万円以上あります。友達は有利子しか借りられない人が多いです。奨学金をローン化したのは自民党なわけで、共産党系が反対運動をやっているけれど まだまだ弱いですね。政府によれば、経済的理由による中退者数は過去最大です。
木沢…僕は奨学金で800万円後半ぐらいの借金があって、月6万円を返済中です。保証人はおじさんですが、年金生活に入っています。おじさんに迷惑かけられなくなったので、大学を休学して稼いでいる状態です。機関保障制度なんか、10万円借りても9万2千円しか入金されなくて、いきなり天引きの状態ですよ!
 「そこそこ稼いでいたら返すし、返せなかったら、返さなくてもいいや」くらいの気持ちじゃないとやってけない。例えば、「月1万円振り込め」っていうところを、「月1500円なら振り込めます。払う意思はあるんです!すいません!」と逃げるような戦略的な付き合いかたもありだな、と思っています。イイ会社に入って給料がよくてボーナスでも入れば、返せるから返すかなって。まぁそんなことはないだろうけど。うまいことやるしかないんじゃないかな、って。重く考えすぎたら身動き取れなくなる。
鵜戸口…僕は大学卒業したら本当にヤバいですよね。国民年金は猶予の状態だし、奨学金を返済できずに取り立てにきたらエラいことになる。大学入学前は考えていなかったし、知識もなかったのですが、今ようやく見えてきて、絶望的になります。借金はまだ増えるし、大学の単位もやばいから、卒業できなくなったら、1年休学して、がっつり働いて、それからやるしかない、と思っています。
   ◇  ◇  ◇
:政治的志向性も依って立つ現場も様々ですが、個人史の開示も含めて、率直な意見のやりとりになったと思います。長時間にわたる議論、ありがとうございました。

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