メディア時評 「プーチン化する安倍首相」 と御用メディア

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ここまで堕落した「キシャクラブメディア」の実像

 浅野健一 ジャーナリスト/同志社大学大学院社会学研究科博士課程教授
 日本の「キシャクラブメディア」は、米国でとんでもない人間が1月20日、大統領に就くと騒いでいるが、自分の国に、元A級戦犯被疑者の祖父、岸信介を敬愛し戦前を取り戻そうとする歴史改竄主義者が4年以上も首相の座にあることを、忘れている。
 安倍晋三首相は2016年10月、今年3月の自民党大会で、2回目の総裁任期の切れる2018年以降も首相を続けることを可能にする党則改定を強行する。私は、これを安倍氏の「プーチン化」と呼んでいる。安倍氏は、ロシア連邦で憲法を改悪して終身大統領になった、ソ連国家保安委員会(KGB)出身のウラジーミル・プーチン大統領のやり口から学んでいる。
 二階俊博党幹事長は、1月4日、東京五輪を安倍首相の下で、と述べた。安倍氏は、自民党憲法改正草案に沿った憲法破壊を成し遂げるまで首相を続けるつもりだ。
 第一次政権で自己崩壊した安倍氏と彼の取り巻き連中(北村滋内閣情報官ら公安警察官僚が中心)は、報道機関の反安倍言論人を放逐し、テレビ、新聞、雑誌に軽減税率適用などのメディア懐柔策で政権批判を押さえている。
 私は『安倍政権・言論弾圧の犯罪』(社会評論社)で、安倍氏と企業メディア幹部、ジャーナリストとの会食を批判したが、16年度も首相はメディア関係者と15回も会食している。各社論説幹部など固定メンバーとの年2回の会食も、恒例となっている。
 「記者との会食はいいが経営者はダメ」(青木理氏)という見解もあるが、権力を監視すべき記者が行政トップと超高級料理店で税金を使って会食するような国があるだろうか。

大本営発表で上昇する支持率

 安倍政権は、17年度の予算案で、「政府広報予算」を3年度連続で過去最大規模の83億400万円に据え置いている。民主党政権最後の12年度の40億6900万円から、実に2倍だ。
 1月4日の日本経済新聞電子版によると、文部科学省と総務省は、全国の公立高校の図書館に新聞を4紙置けるよう、2017年度から自治体への新たな財政支援を始める。両省は、12年度から小中学校に新聞を1紙ずつ置くため、毎年15億円の地方財政措置を充ててきたが、高校は対象外だった。17年度から年30億円に倍増し、高校への4紙のほか、中学校分もこれまでの各校1紙から2紙に増やす。日本新聞協会が政府に要望してきたのだという。
 NHKは1月10日の世論調査で、安倍内閣の支持率が前回調査から5ポイント上がって55%、支持しないが29%となった、と報じた。何の成果もなかった昨年12月の日ロ首脳会談について、評価するか聞いたところ、「大いに評価する」が7%、「ある程度評価する」が46%もあった。安倍氏の真珠湾訪問については、「大いに評価する」が33%、「ある程度評価する」が48%だった。
 日本政府が、韓国・釜山の日本総領事館の前に慰安婦問題を象徴する少女像が設置されたことは極めて遺憾だとして、韓国に駐在する長嶺大使らを一時帰国させることなどを発表したことについて、「評価する」が50%あった。大使の帰国というのは、尋常なことではない。市民団体が設置した像を政府が撤去できる、という安倍政権の発想が誤っている。テレビや新聞は、韓国の多くの民衆が日韓合意に反対しているのはなぜかを伝えない。大本営発表報道だ。

記者が官邸のマウスピースに

 「毛並みの良さ」(朝日新聞)以外に何の政治的実績もない無能な男性が、首相在職日数で戦後4位(歴代6位)になり、高い支持率を維持できるのは、内閣記者会の記者たちが官邸のマウスピース、愛玩犬(Lap Dog)になり下がったからだ。
 日本の報道界は昨年、リベラルな姿勢を見せていたニュースキャスターが相次いで降板したが、中でも、昨年4月、岸井成格氏に代わってTBS「ニュース23」のメインキャスターになった星浩・前朝日新聞編集委員は、安倍氏と会食を重ねてきた論説・編集委員の一人だ。
 1月9日夜の同番組で、安倍氏が山口県の地元で父親の安倍晋太郎氏の墓前で「昨年末の長門での日ロ首脳会談を踏まえ、私たちの世代で北方領土問題を解決する」と誓ったという映像を流した後、星氏は「総理が地元に戻ると解散になるのが普通だが、それはないと思うので、英気を養ってじっくり政権運営をやってほしい」とコメントした。安倍氏の暴走を止める気もない。
 トランプ氏の当選後初の記者会見で、米国の記者たちは激烈な質問を彼に投げかけた。あれが国際標準のメディア記者だ。

メディア研究も退廃のきわみ御用学者を批判しよう

 こういう時代だからこそ、ジャーナリズム研究者の責任は重いのだが、メディア研究者の退廃もすさまじい。
 私を3年前に同志社大学から追放した首謀者の小黒純教授は昨年12月20日、私が小黒氏ら同僚5人を被告として訴えた訴訟で「自らの個人的経験や主義・主張、政治的信条を前提とした講義が行われていることが推認され、院生・学生本位の教育ではない」などと書いたヘイト陳述書を提出した。小黒氏は、東電福島事件報道が「大本営発表」だったという私の記述を非難した。私が学生相手に「御用組合」「御用学者」という用語を使ったのは「教育上、不適切」と断じた。
 また、「(原告の支援者で)タドコロと名乗る人物が、私に対し『あなたは人の首を切って平気なんですね』と脅迫した。何らかの危害が加えられるのではないかと思ったほど、恐怖にさらされた」「原告は、多数の学生を引き連れて佐伯教授を取り囲んだ」などと書いた。ウソばかりだ。
 小黒氏は1月12日に京都地裁で行われた証人尋問で、私が職場にいることがストレスとなり、突発性難聴を患った教員もおり、「私は帯状疱疹に罹った」と証言した。私を「菌」だとまでいうのだ。
 今年は安倍政権を打倒するために、ジャーナリズムを創成するしかない。そのためには、小黒氏ら御用学者を徹底的に批判することも重要だ。

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