全国の原発 基準地震動 見直し必要 

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●島崎氏が陳述書を提出

大今 歩

 6月8日、大飯原発3・4号機の控訴審(名古屋高裁金沢支部)の第8回口頭弁論において、島崎邦彦氏が関電が地震の規模の策定に用いた手法は地震の規模を過小評価する、との陳述書を提出した。
 島崎氏は2012年から2014年まで原子力規制委員会の委員長代理を務めた。元東京大学地震研究所教授で、日本地震学会会長、地震予知連絡会長などを歴任、規制委員会でも地震の審査を担当しており、大飯原発の新規制基準のまとめ役であったが、2014年、同委員を退任した。
 島崎氏は昨年5月ごろから学会で原発の基準地震動(Ss・想定できる最大の地震の揺れ)を求めるため、大飯原発で用いられた「入倉・三宅式」は過小評価すると発表してきた。今年4月、震度7の熊本地震が起きると、「熊本地震に式を当てはめると、過小評価がさらにはっきりした」(『科学』2016年7月号)との論文を発表した。

●過去を繰り返したくない

 島崎氏は今回、声をあげた理由として、「過去を繰り返したくないからです」と述べた(「毎日」夕、7月19日東京版など)。島崎氏は阪神・淡路大震災後に創設された「地震本部」の地震調査委員会のメンバーでもあり、2002年に公表された津波に関する長期予測の報告書の責任者だった。報告書は、三陸沖から房総沖の日本海溝沿いに30年間に20%の確率でマグニチュード8・2程度の津波地震が起きる、とした。
 ところが津波対策を検討する「中央防災会議」の調査会は2004年、「地震本部」の「日本海溝沿いの津波地震」を防災の検討対象としない、との方針を決定し、津波地震を岩手沖を中心とした領域だけで想定することにした(『原発と大地震』添田孝史)。宮城県以南は警戒しないことに決めたのである。島崎氏は調査会のメンバーでもあり、決定に反対したが、結局、事務局に押し切られた。
 島崎氏は、「中央防災会議は津波地震に関する地震本部の長期予測を受け入れず、主に明治三陸津波地震(岩手沖を襲う)に備える体制を決定した。これが甚大な津波災害と原子力事故をもたらした」(『科学』2011年10月号)。さらに、「調査会でもっと強く主張すべきでした。でも当時言っても無駄だと思い、私は黙ってしまい、『負け犬』になった。今回は『変人』と言われるのを覚悟で、しつこく主張していきます」(前掲「毎日」夕刊)と述べる。

●原子力規制委の再計算の問題点

 前述のように、名古屋高裁金沢支部に島崎氏が陳述書を提出すると、6月16日、規制委の田中俊一委員長は島崎氏を招いて意見を聴取した。その結果、島崎氏の見解を受け入れ、別の計算式である「武村式」で再計算することを約束した。
 ところが7月13日、規制委は「武村式」での再計算の結果は、想定する揺れが最大644ガル(ガルは地震の加速度の単位)で、大飯原発の基準地震動である856ガルを下回っており、見直しの必要はない、と発表した。これに対して「結果は納得できない」とした島崎氏は、7月19日、再び田中氏と面会し、規制庁の再計算について「不確かさ」(安全余裕)を加えた手法で規制委の示した「武村式」の数値で計算すると、最大1550ガルになる可能性がある、として再々計算を求めた。田中氏は「無理な計算をした」と規制委の再計算の結果を突然否定したが、再々計算の要求については、決定を先送りにした。
 7月27日、規制委は再計算は途中で矛盾が生じる信頼できないものとしながら、十分安全側に立った評価をしているとして想定を見直さないことを改めて決定し、島崎氏の再々計算の要求を拒否した。

●基準地震動の問題点

 基準地震動は想定できる最大の地震動であり、原発の耐震設計の要である。ところが、日本では1997年以降、20年弱のデータ、1万回ほど繰り返されてきた巨大地震の歴史の中で10数回の地震・津波のデータしかない。だから最低限、過去最大(既往最大)を上回る、耐震設計をしなければならない(『原発地震動想定の問題点』内山成樹、内山氏は大飯・伊方・川内原発などの弁護団)。
 2014年5月、原審である大飯原発の再稼働を禁じた福井地裁判決(樋口英明裁判長)が述べる通り、「我が国において記録された既往最大の震度は岩手・宮城内陸地における4022ガルである」。関電はこの地点の地盤が振動を伝えやすい構造であることを強調するが、この観測を左右するものではないのである。
 このように詳細な地震データは10数回しかなく、既往最大のデータは岩手・宮城内陸地震における4022ガルである。ところが、大飯原発の基準地震動は856ガルに過ぎない。きわめて低い想定である。
 基準地震動の想定は、電力会社にとっても再稼働の要である。耐震対策費がかさめば、原発再稼働は経営を圧迫する。だから電力会社は基準地震動をできる限り値切ろうとする。前述、「入倉・三宅式」を提唱し、原発耐震設計を主導してきた入倉孝次郎氏は、「基準地震動はできるだけ余裕を持って決めた方が安心だが、それは経営判断だ」(「愛媛新聞」2014・3・29)と述べる。「経営判断」により東電が基準地震動を値切ったことが福島原発事故につながった。いま、再び基準地震動を値切ることにより再稼働が進められようとしている。

●基準地震動の再検討を

 島崎氏の提起は、原子力規制の基準地震動を根本的に見直すことを求めるもので、全国で提起されている原発差止め訴訟に有利に働く可能性がある。島崎氏の真摯な問題提起を「変人」扱いしてはならない。そして私たちは、大飯原発における地震の規模の過小評価を追求せねばならない。さらにそのことは、大飯原発に限らず全国のあらゆる原発の基準地震動の再検討につながる(全国の原発の基準地震動に「入倉・三宅式」が用いられている)。
 原子力規制委の田中委員長が島崎氏を招いて意見を聴取し、「武村式」で再計算することを約束したのは評価できる。ところが田中氏はその再計算を「無理な計算をした」と認めながら、再々計算を行わないことを決定したのは納得できない。原子力規制委に再々計算を求めるとともに、名古屋高裁金沢支部が、島崎氏の陳述書を真摯に検討することを求めよう。

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