居場所づくり 高校中退を新たなスターラインに

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一般社団法人new-look(兵庫県西宮市)・山口真史さんインタビュー

高校中退と元教員の肩書きを持つ山口さん。運営する「TOB塾」では高校中退者に対する進学・就労支援のほか、夜回りを通じて国境を越える若者との出会いを模索している。
山口さんに、(1)ラウンジでの学習支援の構想 (2)夜回りで出会う若者たち (3)TOB塾の特徴、について話を聞いた

(編集部・ラボルテ)

ラウンジで支援

――ラウンジで学習支援をしている」と聞いたのですが・・・。
山口:週に1回、試験的に行っています。従業員が授業料を負担するのは厳しいとのことで、店側負担で行っていて、ある意味、従業員研修に近いですね。なので、学習内容には高卒認定対策だけではなく、仕事で必要なスキルを身に付けることを目的として、接客マナーといった実務的な内容も教えています。
 「ラウンジで学習支援」に至るきっかけは、2年前にダンスクラブのオーナーと、ナイトクルージング(夜回り)で出会ったことでした。「うちで働いてる子は高校中退が多いんや」と聞いたんです。その後、シングルマザーの塾生と困りごとや将来の話をしている中でも、「夜はキャバクラで働いていて、周りもシングルマザーで高校を中退した人が多い」と聞きました。それで、高校を中退したシングルマザーの一定層が、水商売で働いていることを確信したんですね。
 「なにかアプローチはできないか」と考えていたのですが、ダンスクラブのオーナーがラウンジ経営を始めたと知りました。シングルマザーの塾生からは「仕事と育児があるから、塾に通うのは難しい。ラウンジで直接教えてみたら」と提案を受けていたこともあって、「ラウンジで学習支援させてくれませんか」ってオーナーに直談判したんです。そしたら、「おもしろい話やから、一緒にやろうや」ということで始まりました。 イメージとしては、「風テラス」に近いかもしれません。風テラスは、弁護士や社会福祉士を風俗店の待機所に派遣する活動です。セックスワーカーの債務整理やDVといった課題に対して、無料の生活・法律相談などを行っています。「支援者の居る場所に当事者を来させるのではなく、当事者の所に支援者が行く」という画期的な取り組みです。
 私とオーナー個人の構想段階ですが、水商売で働くシングルマザーを対象にしたセーフティーネットの構築を考えています。それは、(1)社宅を用意して住む場所を確保し、(2)オーナーが経営している焼肉店に子ども食堂を開き、(3)仕事や学習時に使う託児所も作り、(4)高卒認定取得やビジネススキルが向上できる学習支援を受けられ、(5)企業求人を開拓することで昼間の仕事に就くという出口も作る、という構想です。
 オーナーとしては「店の雰囲気を落ち着かせるために、20代半ばのシングルマザーを雇いたい。そのため他店とは違う福利厚生をつくりたい」という経営意図もあります。しかし、オーナー自身が保育士の資格を持っていたり、「彼女たちの抱える状況をどうにかしたい」という気持ちを持っています。大きい話なので、周到に相談しながら進めなければいけませんが。

――どうしてナイトクルージング(夜回り)を?
山口:高卒認定取得のための塾を開いた当初、何から取り組めばいいのか、中退者がどこにいるのかわかりませんでした。とりあえず、「いまの子たちはどんな感じで中退してるんやろう?」と、路上に溜まっている子たちに声をかけ始めたんですね。いまも週2回ほど続けています。
 声をかけると、だいたいは「私服警官が来た」みたいな反応です。「警察でも補導でもなく、高校中退のことで話がしたい」と目的を伝えながら名刺を渡していきます。すると、「中退ちゃうから」、「ジャマしてくんな」と言われることもあれば、10人ぐらいに囲まれて「お前何様やねん」と、喧嘩腰で返されることもありましたね(笑)。
 徐々に「どんな雰囲気の状態なら、話しやすいのか」を見極めて、時間をもてあましている状態にある子たちに声をかけていきました。話を聞くと、ほぼ全員が「ひとり親家庭で、バイトして家にお金を入れて、家事の手伝いもしている」という環境です。そこにオプションのように「DVを受けている」「親が精神疾患」「姉が産んだ子どもを育てている」と、それぞれ違った問題を抱えています。
 その後、「進学したいけれど、どうしたらいいか」という相談が入ることもあり、当人の抱える問題を整理をして、現実的な選択肢を提示します。ある女の子は家出状態で、一時避難場所として塾にきていたこともありましたね。路上に溜まっている子たちは「行政からの支援」を嫌うので、「自分たちでシェルター機能を担えないか」など、模索しています。

学校外からのアプローチ

――前職が教員とのことですが、いまの取り組みに至る背景は?
山口:教員生活を4年ほど送る中で、「ルールに従わない生徒は中退させる」という方針がイヤになりました。中退の理由は、「妊娠の発覚」から「はさみで遊んでいた」などさまざまですが、「腐ったりんごは他のりんごも腐らす」として、学校側は秩序維持のために「問題児」を切り捨てていきました。共通しているのは「中退させた理由に比べて、中退後のリスクが不当に過大」なこと。それも「教員のさじ加減」で決めるのですから、酷いもんです。
 私は手のかかる子に注意が向くので、生徒を平気で切り捨てていく学校文化を変えようとしたこともあります。しかし、詳しくは話せませんが、学校の中で退学していく子どもたちを守ることは不可能でした。「学校を辞めざるえなかった子たちに、学校の外から関わりたい」という思いが強くなって、教員を辞め塾を始めたんです。

――塾の特徴、学んでいる参加者について。
山口:最短距離で高卒認定・受験勉強となると、狭義の「勉強」になりがちです。「勉強」以前に、中退者は対人関係が浅く狭いのが共通の課題です。講師と熟生に直接連絡を取らせるようにして、人と人との関わりを持つことを意識させた仕組みにしています。LINE(スマートフォンのチャットアプリ)を通して、学習面での質問や他愛ない雑談をすることで、自然な形でコミュニケーション能力向上を目指しています。もちろん、トラブルを防ぐために、塾生にも講師にも「困ったことがあれば、相談してほしい」と伝えています。他にも、塾で借りている畑作業に誘ったり、「音楽ライブ×高校中退後の人生を知る」を趣旨としたイベントなどを開催しています。

――塾卒業後の進路とゴールについては?
山口:卒業の定義は難しいのですが、去年でいえば、大学入学が4人、建築系専門学校の進学予定 が1人、大学受験を1年ずらした子もいます。また、児童養護施設出身で、塾で高卒認定を取得し、フリーターでひとり暮らしを始めた子もいますね。オルタナティブ系の生き方でいえば、「猟師になる」と言って卒業した塾生もいます。一方で、卒業したものの、大学中退からひきこもりがちになっている元塾生もいます。放ってはおけないので、アプローチを続けているところです。
 高卒認定を取っても、次の道が見つからなければゴールではありません。仮に高卒認定が取れなくても、当事者自身が考えて選んだ就職などがうまくいったと感じて、次の道が決まったなら、一旦はゴールだと思っています。

――「いろんな生き方が認められている」一方で、労働状況の悪化が顕著です。
山口:当事者が積極的に選んでいるのであれば、正規・非正規雇用など問わず、「生き方としてアリ」だと思います。しかし、生き方を積極的・主体的に選ぶ領域に達するには、相応の時間がかかりますし、知識と経験をはじめとした蓄積が必要です。これは「大学を出てから」ではなく、高校中退した後の一歩として、どうやって次の生き方を探し、選択し、検証して、次につなげていけるのかが大切です。これからの人生を生きるための、大切な訓練です。
 少し前に、塾生から「アメリカ留学したい」と相談がありました。留学斡旋の会社を見つけたのですが、2年間で360万円が必要とのことです。考えるべきは、(1)まともな斡旋会社かどうか、(2)どんな留学先なのか、(3)費用をどうするか、です。得られる情報は加工された情報ばかりなので、その情報の裏をどういうふうにみるのか、といったリテラシー能力などが問われます。私は彼に「君が一番情報に近いことは間違いない。自分の感性で調べて決めてほしい」と丁寧に伝えました。「失敗して戻ってきても、なんとかするから」と、背中を押しています。人生は選択の連続です。自分の責任において、人生を選ぶ練習を、早い段階からしていけば、大学卒業という出口でなくても、これからの人生を生き抜く力になるでしょう。

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