パレスチナに暮らす市民は 日常生活が闘いの現場になっている

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新人編集部員 はじめてパレスチナへ行く

10月9~21日、「オリーブの会」の呼びかけで「2019パレスチナ援農ボランティア」としてパレスチナ自治区(ヨルダン川西岸地区)を訪れた。同会は、2010年から援農に参加し今回で9回目となる。私にとっては初めての訪問だった。(編集部 村上)

●どんな場所?
 パレスチナ自治区は、西岸地区とガザ地区に分断されている。特にガザ地区は、弾圧が激化し、頻繁に死者が出ている。ガザ地区へ入るには特定の通行証が必要となり、また、パレスチナ人は外へは出られない。そのため、外部との接触が限定され、情報が漏れないので、イスラエル側は国際世論を気にすることなく弾圧できる。
 

訪れた西岸地区は、入り組んだ分離壁で交通が妨げられていた。まずは交通を不便にし、人々の生活範囲を狭める。隣村の人の顔がわからなくなり、交流も途絶え、連帯しにくくさせられているのだ。自治力を弱め、中央集権化するのが狙いだろう。

●デモに参加
 「イスラエルに暮らして」を連載するガリコ美恵子さんが取り組んでいる、イスラエル人左派の団体が呼びかけたスタンディングデモに参加した。
 

オルガナイザーのサレフさんは、ユダヤの祭日の一番大きな問題として、アクサコンパウンド(アクサ寺院周辺)を挙げた。
 

アクサコンパウンド内では、礼拝に行ったムスリムを逮捕したり、3カ月間アクサコンパウンドへの入場を禁止した。また、同地にユダヤ人入植者を入れ、100人規模の警察、秘密警察、治安警察が入植者を守ったという。ユダヤ人がアクサコンパウンドで礼拝することは、イスラエル政府とヨルダン政府との合意によって禁止されているにもかかわらず、ユダヤ人は強行している。それを注意したムスリムは逮捕された。
 

サレフさんは、「今年のユダヤの断食(10月9日)は、イスラエル建国以来初めての厳しさでした。入植者を監視する団体は、その活動を禁止され、すべての道路が封鎖されました。パレスチナ人は自分たちの土地を自由にできないのです」と語る。

●オリーブの援農
 オリーブの援農は「案山子」の役目だ。援農を必要としているのはイスラエルに狙われた土地をもつ農家で、分離壁に面した畑で行う。畑には、催涙弾や薬きょうが転がっていた。もし、パレスチナ人だけで足を踏み入れると、イスラエル軍から催涙弾やゴム弾で狙撃されるのだ。そこで、我々が「外国人」としてそこに立つことで、国際的に注目していることをアピールし、イスラエルが手を出しにくくする。
 

また、イスラエルは夜間に畑に火をつける。分離壁に近い畑では、黒く焼けたオリーブの木が広がっていた。また、畑へ入れるのは収穫の時期だけに限定された畑もある。そのため、手入れができず、実は小さく干からびている。
 

しかし、それでも畑を維持し続けるのは土地の維持のためだ。イスラエルの狙いは、パレスチナ人が畑を放棄することだ。放棄された畑は所有者のいない土地と見なし、イスラエルのものにする。パレスチナ人はそれへの抵抗として何度燃やされても植樹し、自分たちの土地を守ろうとしている。

●分断と支配
 エルサレム旧市街は街全体が商店街になり、飲食店や服屋、土産物屋が並び、観光地化が進んでいる。この中でも分断が生まれている。パレスチナ人の店でも、イスラエル側に積極的に加担すれば栄え、イスラエル軍が警護にあたっていた。
 

逮捕されたパレスチナ人はスパイになるよう脅され、家族や守るべき相手のいる人は、それを受け入れてしまうこともある。そのため、誰でもスパイの可能性を疑われ、お互い疑心暗鬼になり、連帯が妨害される。そのため、まともな仕事を得られず困窮し、入植のための街づくり工事の現場仕事を選ばざるをえないパレスチナ人もいる。
 

一方、「入植者」としてパレスチナ人の土地を奪い、暮らすイスラエル人も、危険と困難を伴う。多くはイスラエル内で差別されている人たちだ。有色人種や新しく改宗した人などだ。イスラエルでは物価や家賃も高く、仕事では差別されて低賃金。このままの生活を続けても生きづらいため、新天地を求めパレスチナへ入植する。イスラエルはパレスチナ人を、拷問や逮捕殺害で脅し、「罰金」や、さまざまな税を課すことで金銭的に困窮させて、出て行かざるをえない状況へ追い込む。
 

ガリコさんの案内で、イサウィーヤ村の「殉教者」ムハンマドさんの自宅を訪問し、妹と祖母から現状をきいた。イサウィーヤ村は、東エルサレム郊外に位置する人口2万人の村。6月からイスラエル警察の襲撃が激しくなったという。
 

ムハンマドさんは、「花火を所持した疑い」でイスラエル警察に撃たれ即死。死亡の判断が下された直後、警察が催涙弾を撃ちながら突撃し、死体を守ろうとした人たちの首を絞め、無理やり運び去った。ムハンマドの父親も逮捕され、2週間拷問を受け、出てきたばかりだ。家族にはこの件で10万円が課せられた。イスラエルは税金では足りない自国の経費を賄うため、適当な理由をつけてパレスチナ人を逮捕し、罰金を科す。
 

妹は、「今年は兄だけど、今までに多くの殉教者がいます。私は2016年、17歳のときナイフ所持の疑いで(持っていなかったのに)5か月間、刑務所に入れられました」と語った。ムハンマドさんが撃たれた場所の壁には記念碑が刻まれていたが、潰されていた。名目は「違法建築」。祖母は、「これで3回目だ。血も涙もない命令を出すような首相は早く死んでくれたらいい」と憤った。記念碑は刻むたびに破壊されるが、いたるところにムハンマドさんの遺影が貼られ、村をあげての抵抗の意志が伺える。
 

村では「警察を監視するためのモニターカメラが設置され、警察の暴力、違反行為を撮影している。にもかかわらず、村の入り口に突然検問所を設置したり、学校を破壊したり、生徒に暴力を振るっている。イッサウィーヤは厳しい状況だ。

●まとめ・闘いの展望
 パレスチナは、誰でも気軽に行ける場所ではないが、日本にいてもできることはある。日本政府とイスラエル政府は協力関係にある。千葉で開催された武器見本市では、イスラエル製の武器が並んだ。また、ガザ地区へは日本の軍需企業が監視システムの開発に参画している。こういった企画に対する抗議行動への参加、また、日常生活ではスターバックスを使わないなど、イスラエル資本のサービスを利用しないこと(BDS-イスラエル・ボイコット運動 )、身近な人にパレスチナの現状を伝えることもできる。

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