【Iターンするひとびと】田舎に住んで里山ツアー 聞き手 木澤 夏実(スペース AKEBI)

綾部市 里山ゲストハウス「クチュール」・ツアー企画 MATA TABI

街からの近さや移住者受入れ体制が決め手

 5月に、初めて京都府綾部市を訪れた。地元の工芸や産業について、実際に体験しながら知ることができるツアーにお誘いをいただいたのだ。  

京都市中心部からさほど遠くないのに、街のそれとは比較にならない程空気も水もとても美味しい。綾部の歴史から現状までをとてもよく知っておられるガイドさんに街のあちこちを案内してもらっているうち、あっという間に真っ暗な夜を迎え、きれいな小川沿いの蛍を鑑賞したところで1日が終了した。とても充実した気分で帰宅し、それ以来わたしは綾部が大好きになった。  

そのガイドさんが数年内のIターン移住者だと知ったのはツアー終盤の何気ない会話の中で、こんなにも綾部に精通していて地元民からの信頼も厚いひとが、(言い方は乱暴だが)いわゆる「よそ者」だったなんて!と非常に驚いたのを覚えている。  

「記事にできるような特別なことは何も……」と笑って話す、そんな彼らの「ふつうの移住」とは何か、聞いてみた。

 工忠夫妻がIターン移住したきっかけは、夫・照幸さんが勤めていた旅行会社の突然の倒産であった。丁度その頃、社会人対象の大学院で経営を学んでいる最中であった夫妻は、これを機に自営で旅行業・宿泊業を始めることを決意。  

外国人旅行者を主なターゲットにしたビジネスの商品として「田舎のなにもなさ」に目を付け、場所選びのために日本各地の田舎を視察した結果、街からのアクセスの良さや移住者受入れ体制の手厚さが特に魅力的だった京都府綾部市に行先を決めた。  

まず、2013年12月に照幸さんが単身で移住。「あやべ温泉」という地元施設に住み込みで就職し、地元民と移住者とが混ざって交流するカフェや地域行事に足繁く通い、ときに手伝いながら、全ての基盤となる「地元との関係づくり」を開始した。  

地元民からの紹介を受けて新居、そして宿となる物件も決まり、週末ごとに大阪から綾部に通う妻・衣里子さんと協力しながら開業準備を進めた。そして、2015年10月に〈里山ゲストハウス クチュール〉がオープン。2016年5月には衣里子さんも綾部へと完全に移住し、本格的なIターン生活を開始した。  

工忠夫妻が宿泊業とあわせて展開する〈MATA TABI〉は、綾部の地域資源を活かしたツアーを外部の人向けに提供する観光サービスである。  

前職の旅行会社で様々な海外ツアーのガイド役をつとめてきた照幸さんの豊富な経験と、綾部に都会の人々を招き、田舎の資源活用についてみんなで考えるワークショップを移住前から開催してきた衣里子さんのアイデアとが生かされた、個性的だがきちんと安定感があり、綾部にしっかりと根付いた内容のツアーが用意されている。  

ちなみにわたしが5月に参加したツアーは、地元の伝統工芸である黒谷和紙の紙すきを体験し、そこで作った和紙を同じく地元の酒造メーカーに持参して瓶に貼って、オリジナルラベルの日本酒をお土産に持って帰るという企画で、地元の方々と話す機会が多くて嬉しかった。  

こちらが話せば話すほど打ち解けてくれる彼らのおおらかさに触れ、初めて綾部を訪れたということを忘れてしまう瞬間の連続であった。  

体験の後は、〈クチュール〉をはじめとする綾部市内のゲストハウスに宿泊し、宿主や他の参加者とあれこれ語り合い、翌朝さらに観光してから解散となる。体験と宿泊とがパッケージ化されることで参加者の満足度はぐっと上がり、多方面での宣伝も可能になるのだ。  

また、ツアー参加をとおして市や村のことをよく知り、その経験がIターン移住に繋がった例もあるという。前準備なく移住に踏み切るのは何かとリスクが高いので、お試しのような感覚でツアーに参加して綾部の雰囲気を感じ、実際のIターン経験者である工忠夫妻から生の話を聞けるのは、移住を検討している人々にとって心強いことだ。  

ふつうの人として田舎で暮らす、 「ふつうの移住」という選択を

第二の人生を送るため、都会に嫌気がさして、新たなコミュニティを作りそこで自己実現を……「Iターン移住」と聞くと、都会を捨て、それまでとは180度異なった特別な生き方を選択するというようなハードルの高さを感じやしないだろうか。  

しかし実際は、都市の生活と何ら変わりない経済水準と生活の便利さを維持しながら、田舎とも都市とも繋がった状態で快適な暮らしを送ることもできる。コミュニケーションをとろうとする意志と働きたい気持ちがあれば地元企業や行政は移住者を快く受け入れてくれるので、農業や専門的な自営業で食べていくしかない、ということもない。  

移住前と移住後の生活が断絶していないような「ふつうの移住」という提案、工忠夫妻の暮らしぶりは、それが可能だと証明するモデルであり、「僕たちを見て、同じ選択をする人が後に続きやすくなればいい」と語る。  

都会が様々な面で飽和状態となり、既存の価値基準が大きく揺らぐ現代。当たり前の生活をどこで・誰と・どう営むのが最も心地いいのか、各々が自分自身に問い直すとき、ひとつの選択としてIターン移住を考えてみてはいかがだろうか。

里山ゲストハウスクチュール/京都府綾部市五泉町下ノ段16/電話: 0773‐21‐6745

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