指名手配の香港活動家2名 ドイツで難民保護適用 地域・アソシエーション研究所 山口 協

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2016年 旺角騒乱での投獄避け

 いま香港は逃亡犯条例の改定をめぐる闘争の渦中にある。人々は、条例が改定されれば香港の司法の独立が失われ、中国政府への批判者は「犯罪者」として引き渡されかねないと恐れている。かつて英国の植民地だった香港は、1997年に中国に返還された。「一国二制度」を謳った中英合意の下、50年間は中国大陸と異なる独自の司法・政治制度が保証されるとの約束だった。  

だが、経済発展を遂げた中国の台頭に伴い、大陸からの政治的圧力は日増しに強まっている。それに対して、2014年の「雨傘運動」のように、折に触れて香港市民の抗議活動も生じている。こうした中、5月21日付の米紙ニューヨークタイムズ(電子版)は、香港出身者2人がドイツで難民認定を受けたと報じた(スザンヌ・サタライン記者)。日本ではほとんど報じられていないようなので、簡単に紹介したい。 

 その2名とは、黄台仰氏(25歳)と李東昇氏(27歳)である。彼らは中国からの香港の独立を支持する「独立派」の活動家だ。香港では独立派に対する支持は少ないとはいえ、「雨傘運動」の敗北後、若者を中心に「香港は中国ではない」「香港こそ我が祖国」と考える独立派の潮流が生まれた。その中で2015年に結成されたのが、黄氏ら2人も参加した「本土民主前線(Hong Kong Indigenous)」である。  

香港ではこの間、中国資本の投資による不動産価格の暴騰や転売目的で日用品を買い占める中国人観光客の大量流入が生活レベルで問題視されており、黄氏らはそうした問題にも関わっていた。そんな中で起きたのが、2016年の繁華街・旺角における騒乱だ。  

旧正月の休みで賑わう街角で、当局が無許可の屋台を取り締まったことに端を発し、人々は「下町らしい風情を守れ」「香港の伝統を守れ」と抗議。警官隊との対峙の末、抗議者たちは火を放ち、ビンやレンガを投げつけ、騒乱が一晩中続いた。  

その結果、黄氏と李氏を含め、100人以上が負傷し、数十人が逮捕された。当局が「主犯」と見なす人々には暴動容疑がかけられ、本土民主前線の中心メンバー梁天琦氏は禁固6年の判決を受けた。政治活動を抑圧するための長期刑とされる。  

一方、黄氏と李氏は2017年秋、保釈期間中にドイツへの渡航を許可された。彼らは香港に戻った後、パスポートの返還を命じられたが従わず、11月4日には再び香港を離れ、台湾経由でベルリンへ渡ったという。  

黄氏によれば、パスポートの返還命令を無視したのに保釈を取り消されなかったのは、当局の策略でもあるという。「問題のある活動家が香港からいなくなれば、それでいい」というわけだ。  

ドイツに渡った後、彼らは担当部局に難民として保護を申請。半年後の2018年5月、ドイツ政府は2人に申請を承認したと通知した。ドイツでは、国籍や宗教、政治主張あるいは特定の組織への所属を理由にした迫害を証明すれば、難民認定が受けられる。認定されれば3年間、ドイツで暮らしたり、働いたり、学校に通うこともできる。  

ニューヨークタイムズの取材に対して、ドイツ連邦移民・難民事務所は「香港出身の申請者2人に難民としての保護を許可した」と確認したが、2人の氏名は公表しなかったという。  

欧米諸国が中国の反体制派に政治亡命を認めることはよくあるが、香港出身者に適用されるのは珍しい。とくに、香港市民が香港における迫害を理由に外国政府から保護を受けるのは、事実上初めての事例だ。振り返れば、香港は国共内戦や文化大革命など、中国大陸での混乱を逃れた人がつくり上げた場所、言わば「避難所」という側面を持っていた。それが、いまや避難者を生み出す場所へと変化してしまった。日本に住む私たちにとっても、この事実が持つ意味は小さくないだろう。

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