【フランス】運動は議会主義(選挙制度と大統領制)の壁を超えられるのか? 杉村昌昭さん(龍谷大学名誉教授)

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正念場迎える「黄色いベスト」

フランスの「黄色いベスト」運動は、第二次大戦後、最も長期にわたる直接行動となって、現在もなお続けられている。この運動は、そもそもなぜ始まり、どのように広がったのか、争点はなにか、右翼の運動だと報じられていたのはなぜか。フランスの社会運動に詳しい杉村昌昭さんに聞いた。なお、本記事は昨年12月の講演の要旨をもとに、本年3月に若干の追記をしたものである。(編集部・吉田)

 2018年の11月から、毎週土曜日に「黄色いベスト」運動は行われています。  

フランスでは、車の中に必ずあの黄色いベストを置くことが義務付けられています。高速道路で停車してタイヤを修理するときなどに、目立つ服を着ないと危険だからです。面白いのは、国家に強制されたベストを国家への反逆の象徴に逆転させたという点です。もしあれが単なる労働者の作業着だったら、30万人が参加するほど大きな運動にはならなかったでしょう。  

どのように「黄色いベスト運動」の決着がつくのは不明です。マクロン大統領は、金融とインターネットしか頭の中にないような人物ですが、内務省出身で警察権力を握っている右派のサルコジ元大統領が背後で助言していると言われています。フランスではリコール制がなく、大統領自身が辞任して国民議会を解散するしかありません。敗北を嫌うマクロンは居直るでしょうし、どう居直るかについてのアドバイスを受けているようです。  

この運動は、マクロン政権によるガソリン税値上げ政策への反対から始まりました。中心は今まで選挙にも行かず活動した経験もないような伝統的保守の人々で、特に新自由主義のあおりを食った貧困層、いわば「ディープフランス」の人々です。  

パリでは車を持たない人も増えていますが、地方では車がなければ買い物も移動もできないので、ガソリン税の値上げは、非常に大きなショックだったのです。  

最初の運動は、地方の2、3人の女性がSNSで、ガソリン税値上げ反対を主張し、運転する時に黄色い上着を見せるというものでした。これに右派や極右の一部が便乗したりして、パリに飛び火していったのです。  

パリでは、当初は静観していた左派=メランション率いる「不服従のフランス」党やアナーキストが、好機とばかりに郊外の運動も巻き込んで合流しました。しかし、主力は津々浦々から集まった地方の住民です。  

極右ルペンの国民連合は今回の運動には関係ありませんが、ルペンは警察の中に支持者が多いので、「黄色いベスト」運動には距離を取らざるを得ないのです。  

現在のフランス国民議会の7~8割は、マクロンが率いる「共和国前進党」で占められています。サルコジの所属する保守派とミッテランの率いた社会党、2大政党が信用を失墜するなかで、中道派のマクロンが大統領に選ばれました。しかし、共和国前進党の多くは、マクロンが窮地に立っていても、見ているだけで誰も助け船を出さず、反旗を翻すことないマシュマロのような存在(日本でいうと○○チルドレン)です。  

前回大統領選挙で、実は「不服従のフランス」党のメランションが、マクロンや極右のルペンに肉薄する多くの票を獲得していたのです。この勢力が、「黄色いベスト」運動がパリで左派的に展開していく鍵を握りました。しかし、この党も議会主義なので「黄色いベスト」運動を領導できません。  

マクロンは、ガソリン税値上げの撤廃や最低賃金の引き上げなど譲歩していますが、富裕税の問題だけは残しています。これは80年代のミッテラン政権時に作られた、富裕層に課税し庶民に分配するという法律で、時代とともに先細りしていたのですが、マクロンはこれを廃止したのです。彼はまだ富裕税廃止を撤回しておらず、それが今後の争点になるでしょう。

本来の役割をはたす大衆運動

 「黄色いベスト」運動は、議会が役に立たないときには大衆運動で悪い政策を止めさせるという、フランスの伝統的な政治のあり方を表しています。デモ隊の中に赤旗や黒旗がなく、三色旗しかないことを訝しく思うむきもありますが、三色旗の真ん中の白はフランス王家の色、赤と青はパリ市のシンボルカラーです。つまり王家をパリ市民が包囲している図案なのです。三色旗自体に革命的な意味が込められているのです。今回の敵を「マクロン王朝」と見立てれば三色旗には「革命的」ニュアンスが込められているとも言えます。  

今年に入って沈静化するかに見えた「黄色いベスト」運動は、毎週土曜日の動員体制を維持しつつ、3月16日には再びシャンゼリゼに1万人が集結し、改めてこの運動の根深さを見せつけました。有名なカフェ「フーケッツ」が燃やされるなど、参加者の「過激化」も進み、警察は手を焼いています。治安警察に事態収拾を任せているマクロンは、16日にはピレネーでスキーを楽しむという「余裕」を見せていましたが、この間、警察内部で混乱が生じ、数十人の自殺者が出たという情報もあります。  

23日には、平和的に行進していた女性活動家が警察に襲われ、重傷を負うという事件がありました。「黄色いベスト」運動は、昨年からのデモで2000人以上が起訴されています。マクロンの警察暴力は許されるべきではありません。

 しかし、絵に描いたような新自由主義者=マクロンは、彼を利用する政財界の「取り巻き」とEU支持者を背景に大統領の座に居座り続け、運動側も辞任に追い込む方策を探しあぐねている状況です。今後「黄色いベスト」運動が選挙制度による既存体制の壁をどう打ち破れるのか? 注目に値します。  

政治がダメなときに、次の選挙で雪辱を果たそうとするのではなく、大衆運動で政治を変えるという姿勢は日本が学ぶべき教訓です。

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